第29回集団遺伝学講座

安田徳一{YASUDA,Norikazu}


11.2.5 移住率のゆらぎ random fluctuation in migration rate

ライトの島模型で毎世代の移住率mが平均mmのあたりを分散Vmでゆらぐ状況を考察しよう。すなわち

Mx=-mm(x-ξ)、 Vx=Vm(x-ξ)2

の場合である。ここにξは移住者集団における遺伝子Gの頻度である。前向き方程式は次のようになる。

∂φ(x,p,t)/∂t=(Vm/2)∂2{(x-ξ)2φ(x,p,t)}/∂2x + mm∂{(x-ξ)φ(x,p,t)}∂/x

ここでpは移住者を受け入れる集団での世代t=0における遺伝子頻度である。この式から得られる確率密度は対数正規分布の形をとる (Kimura 1956; Crow & Kimura 1956)。

φ(x,p,t)=[1/{(x-ξ)√(2π)Vmt)}]・exp[-{log(x-ξ)-A}2/(2Vmt)], (p≧ξ)

ただし、 A=log(p-ξ)-{(Vm/2)+mm}t はこの分布の平均値である。分散はVmtである。

この分布は世代t→∞でφ(x,p,t)はx=ξの一点に収束する。これは集団のG遺伝子頻度は最初p≧ξであったものが、移住が繰り返し行われると移住者集団の頻度ξになることを示している。

 

11.3.突然変異で生じた遺伝子の固定確率

集団に突然変異が新しく生じた状態での確率密度は、これまでに議論してきた確率密度の0クラスに隣接するクラスである。このような分布の末端付近での遺伝子頻度を連続変数として扱うのは近似の点で多少不安がある。とくに、集団に1個の突然変異が出現したとき、その後の世代の頻度変化をたどるには、その正確さを計るため離散変数としての取り扱いが必要となある。

 

11.3.1 十分大きな集団での固定確率

十分大きな集団で1個の突然変異遺伝子が生じたとする。この遺伝子が自然選択の上で中立neutralで、しかも同一個体から生じた配偶子はその後成り行きに関して互いに無関係であるとすると、この遺伝子が次の世代(t=1)にk個となる確率は平均1のポアソン分布で与えられる。

pk=(1/k!)e-1, (k=0,1,2,...)

さらに次の世代(t=2)では前の世代の各々のkについてそれぞれ平均kのポアソン分布が適用されることになる。この種の問題は確率論では分岐過程 branching process といい、ゴートンがイギリス貴族の姓が代々伝えられる確率の研究で始めて開発された(Galton 1889)。この方法でフィッシャー(Fisher 1930)は突然変異遺伝子の数の分布が集団の中で自然選択の作用で世代の経過とともにどのように増減していくかを調べた。

集団に現われた1個の突然変異遺伝子が次の世代にk個(k=0,1,2,...)となる確率をpkとすると、一般に平均cのポアソン確率は

pk=e-cck/k!

である。平均cは、中立の遺伝子なら c=1、自然選択に有利な遺伝子なら c=1+s (s>0)とあらわすことができよう。

この問題をとくために積率母関数φ(x)を用いる。これは突然変異の数kについての確率と補助変数xkを乗じて、すべてのkについて総和として定義する。すなわち

φ(x)=p0+p1x+p2x2+...

ここでx=1とすれば

φ(1) =p0+p1+p2+...=1
平均値: φ'(1)=p1+2p2+3p3+...
分散: φ"(1)+φ'(1){1-φ'(1)}=(p1+22p2+32p3+...)-(p1+2p2+3p3+...)2

という性質がある。記号 ' , " はφ(x)のxについての形式的一次、二次微分演算を表わし、x=1としたときの値である。

この積率母関数を用いると、つぎの世代(t=2)の突然変異の数の分布は

φ2(x)=φ(φ(x))

で表わせる。一般に第t世代の分布を母関数φt(x)で表わせば、これはそれ以前の世代の母関数で表わすことができる。

φt(x) t-1{φ(x)}
=φ{φ{...{φ(x)}...}} (t個のφ、t=2,3,...)

ポアソン分布なら

φ(x)=e-c(1-x)

であるから、

φt(x)=exp[-c{1-φt-1(x)}]

となる。これより、たとえば突然変異遺伝子の消失確率を逐次計算することが出来る。第t世代までに消失する確率をp0(t)とすると

p0(t)=φt(0)

であるから、

p0(t)=exp[-c{1-p0(t-1)}]

となる。これを用いて

p0(1)=exp(-c)

から始めて、いろいろのcの値について数値を得ることができる。以下に突然変異遺伝子の残存する確率1-p0(t)を示した。

 

A. 生存に関して中立または有害な突然変異遺伝子の残存確率 (c≦1)

世代数(t) c=1.00 c=0.99 c=0.97 c=0.95 c=0.90
0 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000
1 0.6321 0.6284 0.6206 0.6132 0.5934
5 0.2680 0.2607 0.2462 0.2319 0.1972
10 0.1582 0.1499 0.1338 0.1186 0.0849
50 0.0376 0.0287 0.0155 0.0076 0.0009
100 0.0193 0.0111 0.0028 - -
200 0.0098 0.0030 - - -
300 0.0065 0.0010 - - -
400 0.0049 - - - -
0.0000 - - - -

A表はすべてc≦1の場合で、これから突然変異遺伝子は有利でないかぎり結局は集団から失われることはまず確実であることがわかる。とくにc=1の中立突然変異遺伝子については、残存確率は経過した世代数の逆数の2倍にほぼ等しい。すなわち

1-p0(t)〜2/t (c=1, t→∞)

突然変異遺伝子が不利(c<1)な場合は

1-p0(t)〜ct{1-p0(t0)} (c<1, t0<t→∞)

ここにt0は十分経過した後、ほぼ定常状態となる世代数である。

新しく生じた1個の突然変異遺伝子が究極に集団から失われる確率は関数方程式

φ(x)=x

の正なる最小根で与えられるから、これまで議論してきたポアソン確率の場合

x=e-c(1-x)

の最小正根が消失確率である。この式はc≦1であるかぎりx=1が最小正根であり、十分大きな集団に現われた1つの突然変異遺伝子は、既存の正常遺伝子に対して有利でない限り究極において集団中から失われることはほとんど確実であることがわかる。この事実はポアソン分布とは限らずにその他の分布一般に言えることである。

 

B. 生存に関して有利な突然変異遺伝子の残存確率 (c>1)

世代数(t) c+1.01 c=1.03 c=1.05 c=1.10 c=1.50
0 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000 1.0000
1 0.6357 0.6429 0.6500 0.6671 0.7768
5 0.2754 0.2902 0.3049 0.3421 0.6050
10 0.1667 0.1842 0.2023 0.2492 0.5848
20 0.0969 0.1170 0.1387 0.1976 0.5828
50 0.0480 0.0726 0.1010 0.1771 0.5828
100 0.0306 0.0604 0.0942 0.1761 0.5828
200 0.0227 0.0578 0.0937 0.1761 0.5828
300 0.0207 0.0576 0.0937 0.1761 0.5828
400 0.0200 0.0576 0.0937 0.1761 0.5828
500 0.0198 0.0576 0.0937 0.1761 0.5828
0.0197 0.0576 0.0937 0.1761 0.0528

もし c=1+s (s>0) ならば、1より小さい正根が存在する。それは突然変異遺伝子が固定する、すなわち集団中で究極に固定する確率y=1-xが存在することを意味する。ポアソン確率のモデルでは

1-y=e-(1+s)y

となるから、両辺の対数をとって

log(1-y)=-(1+s)y

この左辺は級数展開をすると -y-y2/2-... となるから、近似的に

-y-y2/2〜-y-sy

すなわち

y〜2s

という重要な結果が得られる。十分大きな集団に1個の有利な突然変異遺伝子が出現したとすると、これが究極において集団中に固定する確率はおよそ有利さの程度をあらわす選択係数sの2倍に等しい。B表からもおよそs=0.03程度以下で言えることがわかる。s=0.5(c=1.5)では突然変異遺伝子が5世代残存する固定確率が0.58を越えることがわかる。これほど有利になると急速に究極の固定確率に到達するといえよう。

これから有利な再起突然変異について、0.5より大きな確率で固定するためには何回突然変異が繰り返し生じなければならないかを予測することができる。その回数をnとすると

(1-2s)n≦0.5

から、nは少なくとも (log2)/2s、すなわち0.35/s回ほどである。s=0.001,0.01,0.02,0.05,0.10,0.20それぞれについてn=350,35,18,7,4,2回は必要と言えよう。

 

11.3.2 有限集団における固定確率

これまでのモデルでは集団の大きさNは十分大きい(N→∞)という状況で、しかも突然変異遺伝子はヘテロで適応度の違いを示すと仮定している。したがってこの方法は少なくともそのままでは完全劣性でホモのときにのみ有利な突然変異には適用できない。この場合は集団が有限でなければ固定しないことが知られており、ホールデン(Haldane 1927)、ライト(Wright 1942)がこの固定確率を計算している。共に近似値を得たに過ぎないが、それぞれ√{s/N}、√{s/(2N)}であるとした。木村(Kimura 1957)は後ろ向きの方程式をもちいて√{2s/(πN)}なる解を得ている。これはホールデンとライトの解の中間の値となっていることはたいへん興味深い。

 

11.3.2.1 連続過程モデル:後ろ向き方程式の応用

前向きの方程式では時間t=0、初期遺伝子頻度pを決めて、その後の任意の時間tでの遺伝子頻度xの確率密度を求める問題をとり扱った。後ろ向きの方程式では時間tと遺伝子頻度x=xτを定めて、t=τのときの遺伝子頻度pの確率密度を求める問題を扱う。すなわち、遺伝子Gの頻度が時間tでxとなる確率は、時間τでpとなるあらゆる場合の確率の合計である。あらゆる場合とは数学的に表現すれば時間(τ,τ+δτ)の間に遺伝子頻度がpからp+δpの変化があり、その後の時間(τ+δτ,t)にp+δpからxに変る過程のすべてである。数式で示すと (Kimura & Ohta 1971)

φ(p,x;τ,t)=∫g(p,δp;τ,δτ)φ(p+δp,x;τ+δτ,t)d(δp)

ここにgは時間(τ,τ+δτ)にG遺伝子頻度がpからp+δpとなる確率密度である。

左辺の積分をを(δp),(δτ)の項で展開し、(δp)2,(δτ)2,(δp)(δτ)よりオーダーの高い項を無視して、δt→0の状態を考えると後ろ向きの方程式が得られる。

この過程が時間斉次性time homogeneous、すなわち、時間τ,τ+δτそれぞれでの頻度p,p+δpとすると、pがわかっていたときのp+δpの確率分布は一般にはτとτ+δτの関数であるが、それが時間差δτのみの関数であるときには g(p,δp;τ,δτ) はτとは無関係となる。したがってVpとMpは時間に独立となるから

∂φ/∂t=(Vp/2)∂2φ/∂p2+Mp∂φ/∂p

が得られる。これをコロモゴロフの後ろ向きの方程式という。

 

11.3.2.2 突然変異遺伝子の固定確率:連続模型

集団遺伝学における後ろ向き方程式の利用で重要なのは、有限集団における遺伝子の固定確率が求めることができることにある。遺伝子の固定は時間tにおいてx=1に相当するから、遺伝子Gが時間τ<tで頻度pであるとき時間tまでに固定する確率は時間斉次性を仮定して

φ(p,x;τ,t)=u(p,t)

と表わすことができる。したがって

∂u(p,t)/∂t=(Vp/2)∂2u(p,t)/∂p2+Mp∂u(p,t)/∂p

ただし、

u(0,t)=0、 u(1,t)=1

である。

これらの(境界)条件の意味は、最初の遺伝子頻度がp=0なら、固定確率は時間tがなんであろうが0、最初にすでに固定していれば(p=1)なら、固定確率は時間に関係なく1、いつも固定していることを表わしている。

このような状況で上の拡散方程式を満たす答えは次のようになる。

u(p,t) =p+p(1-p)ΣPi(p)exp{-i(i+1)t/(4N)}  (i=1,2,3,...)
=p-3p(1-p)e-t/(2N)+5p(1-p)(1-2p)e-3t/(2N)+...

Σはi=1,2,3,..についての和を表わし、Pi(p)はpの多項式である(Kimura 1957)。

特に興味深いのは十分時間が経過して究極に固定する確率である。すなわち

u(p)→u(p,t→∞)

この状態で後ろ向き方程式の左辺の時間による変化は0に近づくから、

(Vp/2)∂2u(p,t)/∂p2+Mp∂u(p,t)/∂p=0

で、境界条件は

u(0)=0、 u(1)=1

となる。 G(z)=exp{-∫(Mz/Vz)dz} と置くと、次の結果が得られる。

u(p)=∫G(z)dz/∫G(z)dz

ここに、分子の積分範囲は(0,p)、分母の積分範囲は(0,1)である(Kimura 1962)。

 

11.3.2.3 様々な条件での固定確率

A. 中立、機会的浮動のみ

u(p)=p

これから最初の世代での突然変異遺伝子の数をmとするとp=m/(2N)であるから

u(p)=m/(2N)

したがって1遺伝子(m=1)あたりの固定確率は1/(2N)となる。

 

B. 遺伝子選択と機会的浮動

Mz=sz(1-z), Vz=z(1-z)/(2N)から、2Mz/Vz=4Ns, G(z)=e-4Nxsであるから

u(p) ={1-e-4Nsp}/{1-e-4Ns}
=p+2Nsp(1-p)+{(2Ns)2/3}p(1-p)(1-2p)+... (-π<2Ns<π)

となる。2Nsが小さければu(p)-pは遺伝子の総数(2N)と最初の世代あたりの遺伝子頻度の変化sp(1-p)との積に等しい(優劣のない場合である)。u(p)-pは人為選抜の限界を表わす量として知られている。突然変異ホモ接合の表現型を1であらわすと、その座位の選抜限界での予測値はu(p)となる。したがってu(p)-pは選抜による形質の改良の程度total advance by selectionを表わしている(Robertson 1960)。

1個の遺伝子が固定する確率はp=1/(2N)を上式に代入して、

u{1/(2N)}={1-e-2(N'/N)s}/{1-e-4Ns}

ここにN'/Nは集団の有効な大きさと実際の数との比である。

s→0なら u{1/(2N)}=1/(2N)となり、集団の有効な大きさとは無関係になる。これはまた中立の場合で得られた結果と一致する。

もしN'=Nなら

u{1/(2N)} ={1-e-2s}/{1-e-4Ns}
〜2s/{1-e-4Ns}→ 2s  (N→∞)

最後の結果はFisher(1930),Wright(1931)が得た結果である。N'≠Nなら

u{1/(2N)}〜2s(N'/N)

以上の計算から、2sよりも2s(N'/N)の方が現実に即しているといえよう。N'/Nの具体的な値として、ショウジョバエで0.7〜0.9、ヒトで0.69〜0.95という報告がある(Crow & Morton 1955)。

この公式はわずかに有利な遺伝子のうちほんの一部が運よく種内に広がり、その大部分は選択有利であるにもかかわらず不運にも消失してしまうことを示している。たとえばN=N'でわずかに0.5%選択有利な遺伝子が現われても、その99%は進化の過程で集団から消失してしまい、わずか1%が固定するにしか過ぎない。

わずかに有利な遺伝子も含めて大部分の突然変異遺伝子がチャンスにより消失する宿命にある事実は、突然変異遺伝子の進化を考察する上で重要である。有利な突然変異のほとんどがほんのわずかの選択有利な効果を示し、大きな効果を示す突然変異はそのほとんどが有害である。Fisher(1930)は突然変異遺伝子の効果が大きいほど、有益であるチャンスは小さいと述べている。

このことは(1)集団に現われた有利な突然変異のどれもが固定するのではない、したがって(2)有利な突然変異は有害な突然変異よりその頻度は低いに違いないから、適応進化の速さの上限を示しているに過ぎない。一般にこれらのことが見過ごされているようである。

 

C. 接合体選択と機会的浮動

突然変異遺伝子gが従来の遺伝子に対してヘテロでsh、ホモでs、有利となる模型を考えてみよう。従来の遺伝子をGとして、最初の世代でのgの頻度をpとする。任意交配の集団で、集団の有効な大きさをNとする。

遺伝子型 頻度 適応度
GG (1-p)2 1
Gg 2p(1-p) 1+hs
gg p2 1+s

gの初期頻度の微小な変化Mpと分散Vpは次のようになる。

Mp=-sp(1-p){h+(1-2h)p} , Vp=p(1-p)/(2N)

gがt世代までに固定する確率u(p,t)は時間の斉次性を仮定すると、次の後ろ向きの方程式をみたす。

∂u(p,t)/∂t={p(1-p)/4N}∂2u(p,t)/∂p2+sp(1-p){h+(1-2h)p}∂u(p,t)/∂p

ただし、u(0,t)=0, u(1,t)=1 である。

ここで2Mp/Vp=2Ns{1+D-2Dp} (ただしD=2h-1は優性の度合をあらわすパラメータ)だから

G(x)=2NsDx(1-x)+2Nsx

t→∞の究極の状態では∂u(p,t)/∂t→0となるから、

{p(1-p)/4N}∂2u(p,t)/∂p2+sp(1-p){h+(1-2h)p}∂u(p,t)/∂p=0 から

u(p)=∫pexp{-2NsDx(1-x)-2Nsx}dx/∫1exp{-2NsDx(1-x)-2Nsx}dx

積分の範囲は分子が(0,p)、分母が(0,1)である。

これから、1個の突然変異遺伝子の固定確率{u(1/(2N))}は上の式でp=1/2Nを代入して求めることができる。このとき分子の積分範囲は(0,1/(2N))となる。この場合のNは集団の実際の大きさである。

 

C1. 有利な遺伝子が完全劣性の場合: h=0, D=-1

u(1/(2N))=∫1/(2N)exp{-2Nsx2}dx/∫1/(2N)exp{-2Nsx2}dx

この値は正規確率の数表を用いて求めることができる。

u(1/(2N))=[0.5-Φ{√(Ns)/N]/[0.5-Φ{2√((Ns)}]

ただしΦ(z)={1/√(2π)}∫exp(-z2/2)dzは累積正規確率で、積分の範囲は(0≦z,<∞)である。この数値表は統計の本を参照されたい。

選択係数sが正値で小さいが、Nsが大きい値であると

u(1/(2N))〜√{(2s)/(πN)}≒1.128√{s/(2N)}

 

C2. 有利な遺伝子が完全劣性に近いの場合: 0<h≪1, -1<D≪1

自然選択に有利な突然変異遺伝子の固定確率は

u(1/(2N))=exp{-2Nsθ}・√{2s(1-2h)/(πN)}/[1-2Φ{√(4Nsθ)}]

ここにθ=h2/(1-2h)で、Φ(z)は前出の累積正規確率である。また集団の大きさNは1よりはかなり大きいとする。たとえばN=1000、s=0.1とする。突然変異遺伝子の固定確率はその優性の度合により違ってくる。

優性の度合(h) u({1/(2N)} 突然変異遺伝子の特徴
0 0.8 x 10-2 完全劣性
0.01 0.9 x 10-2 ヘテロでわずかに有利な劣性
0.1 2.3 x 10-2 ヘテロで有利な劣性

 

C3. 優劣関係のない場合: h=1/2, D=0

u(1/(2N))=(1-e-s)/(1-e-2Ns)

と表わせる。選択係数sが正値で小さいが、Nsが大きい値であると

u(1/(2N))〜2s

これは確率母関数の方法でFisher(1930)が得た結果と一致する。

ここで選択に不利な突然変異遺伝子(s<0)の固定確率もs'=-sと置くことから求めることができる。すなわち

u(1/(2N)) =(1-e-s)/(1-e-2Ns)
=(es'-1)/(e2Ns'-1)

であるから、集団の大きさが大きい(N→∞)とu(1/(2N))→0、すなわちほとんど0である。一方、集団が小さくNs'が1にくらべてあまり大きな数値でなければ、固定確率は無視できない値となる。

 

C4. 完全優性の場合: h=1, D=1

選択係数s(s>0)が小さく、Nが大きければ、ほぼ

u(1/(2N))=2s

となる。

 

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