基礎の遺伝疫学講座   安田 徳一 (2010/02/13)


 

9 細胞遺伝学

  染色体異常の遺伝疫学は集団細胞遺伝学population cytogeneticsとも言われている。この分野での話題は染色体異常の頻度、その原因、そしてその選択の効果などが挙げられる。これらはヒトの死亡や罹病について驚くほど大きな関係がある。ヒトゲノムの理解が進み、ゲノム疾患についても若干ふれたい。

 

9.1 頻度

特に関心のあるのは、生産児、疾患症例あるいは施設収容者の症例、それに自然流産児のそれぞれの集団である。第1と第2のグループを一緒にして、疾患あるいは施設収容者の相対リスクは表6.1.1の方法で計算する。第1と第3グループのデータをまとめて、自然流産のリスクと受胎中の発生率が推定できる。生後生存と生殖のデータを一緒にすると、適応度を計算することができるので間接的に突然変異率を求めることができる。細胞遺伝学的検査での誤分類はほとんどないから、発端者の両親を調べることで突然変異率を直接求めることができる。一部の親が未調査なら、準直接的に弧発例の推定頻度から求めることができる(9.3)

 診断のできる受胎の約8パーセントは通常自然流産となる染色体異常である。おそらく染色体異常は最初の数週間の懐胎期間で死亡するから、細胞遺伝学的にうまく培養に成功する割合は若干偏るであろう(9.1)

 

  表9.1 10万出産あたりの染色体異常の発生率(Morton 1982)

状態 生産L 自然流産 受胎R1)  生存確率2) 
健康男子 51,017  23,474 46,886 0.925
健康女子 48,380 26,557 45,107 0.912
トリソミー 289 26,299 4,190 0.095
モノソミー 5 9,448 1,421 0.003
多倍体  2 11,429 1,716 0.001
構造異常 253 1,981 512 0.420
その他3)  54 812  168 0.273
異常の割合 0.006 0.500 0.080

1)  受胎を確認したうち15%は自然流産とした。2)[0.85L/R ]/100,000

3) 大部分はモザイク 

 

9.2 モノソミー

すべてのモンソミーのうち、45,Xは認知できる受胎の相当な割合を占める。自然流産の9パーセント以上までになるが、ほとんどが生存し得ない。生後の生存は少ない。成人は低身長で卵巣発育不全の典型的なターナー症候群Turner’s syndromeの徴候を示す。妊性はほとんど0であるから、全症例が突然変異である(優性致死突然変異)

 自然流産での45,Xはまれにモザイクである。初期接合体の後期遅滞anaphase lagで生じるか、減数分裂での非分離で生じるかであるが、父親由来と母親由来の割合に関心が持たれている。母雌が若年であるとショウジョウバエとマウスで、モノソミーは精原細胞、卵母細胞で特に発生初期にX線の照射で誘発する。

 45,Xの生産児の大部分はモザイクである。非モザイクの77パーセントは母親由来のXMの保因者である。すなわち父親由来のXPY染色体が喪失している。精子形成での不分離の可能性を排除することは出来ないが、モザイクの頻度から、接合体の初期分割の段階で父親由来の性染色体の喪失が生じていることが示唆される。

 相同染色体は原理的にその異形性heteromorphismで区別することができる。異形性は遺伝性であり、どの染色法でも検出できる特異的なバンドの変異であり、細胞遺伝学的に区別できる。よくみられる異形性の一つはその大きさとギムザ染色で動原体異質染色(Cバンド)のパターンがある。もう一つ別のよく見られる異形性はキナクリン染色みつかる。この染色で、末端動原体染色体acrocentric chromosomeの短腕を蛍光化してその大きさや染色体と付随体の変異を見つけ出すことができる。残念ながらX染色体で異形性を示すのはまれである。したがって45,Xの由来を細胞遺伝学的には示すことはできない。しかしX連鎖の多型、たとえばXga血液型やG6PDなどがある。

 XPOよりXMOが多いのはそれほど驚くには当たらない。父親由来の染色体、XPあるいはY、が喪失すると、卵子はほとんど確実にXMがあるから、受精によりXMO接合体が生じる。母親のXが喪失したときの半分では接合体はYOとなり、受精後の早期に死ぬ。したがって、受精に成功したXPYとが同じ頻度であり、XPYの喪失が等頻度で起こるという簡単な仮定から、45,XXPOである期待頻度は1/3である。少ない45,X接合体生産児のうちXPOの割合が23パーセントという観察頻度は、父親X染色体の優先的喪失なのか、あるいはあまり例をみないがXPO接合体が満期まで生存するのか、どちらかであろう。

 XO個体はショウジョウバエでは不孕である。ショウジョウバエの性は常染色体数とX染色体の比で決まり、その比は21である。哺乳類XOは雌であり、これは雄の性はY染色体があることで決まる。XOのマウスは妊性があるが、ヒトではターナー症候群で不妊である。

 ターナー症候群の少女には幾分かの知的障害があり、とくに空間的感覚に著しい。知能検査でのこの点については男子の方が女子より高い点をとる傾向がある。この相違の原因は、行動遺伝学のあらゆる問題と同じく、あまり理解されていない。伴性遺伝子の可能性は家計調査ならびにXY:XO比較で除外されているようである。

 モノソミーは未確認妊娠喪失に本質的に寄与しているに違いない。YOXPO胎児が同じ頻度で、XPOXMOが自然流産と生産児で同じであるとすると、100,000の確認できた受胎それぞれに0.23×1421=321YO胎児がいるに違いない。トリソミーが由来するどの場合でもモノソミーが生じるに違いないから、4190の細胞遺伝学的に検出し得るトリソミーそれぞれについて、327+4190=4517のモノソミーが細胞遺伝学的には検出できない自然流産がある筈である。そのほか沢山の染色体異常、単一遺伝子による欠陥、それに母親因子による病理的異常も臨床的に未確認の自然流産を起こしているに違いない。これらを合計すると、その頻度は細胞遺伝学の調査の影響を受け易い妊娠についての仮定からの15パーセントよりも25パーセントに近いに相違ない。細胞遺伝学的異常で死ぬ妊娠の割合は1/8=0.125にもなるのかも知れない。

 体細胞では年齢と共に性染色体数の分散は大きくなり、平均は減少する。加齢のこの尺度が異数性配偶子、がんあるいは他の疾患を予測するものであるかどうかはわからない。

 

9.3 トリソミー

トリソミーには余分の常染色体あるいは性染色体の存在で識別する。それは一本(46+1)であるかまれに二重トリソミー(46+1+1)がある。生産児のトリソミーには滅多にモザイクはいないが、自然流産での割合は10パーセントに近い。これは細胞培養における人為的なことかもしれない。表9.3の分類はおおよその数字である。

 XYYトリソミーは高身長、知能遅滞、それに症例の一部では行動に問題がある。子宮内での生存は健常者と同じであるが、孕性は低いかもしれない。行動については心理試験などで調べられているが、情緒不安定で心配ごとに対する応答は鈍い。脳波図(EEG)に異常があることが報告されている。これらの研究は、施設や刑務所の男子にXYYの頻度が多いという観察から始められた。受刑者の少数は無責任だが攻撃的でなく、犯罪は通常物欲(所有権)であるという特徴がある。

 XXY男子には何も問題はないかもしれない。条件のよい状況でも、正常な行動

 

9.3 トリソミーの発生率(Morton 1982)

構成 生産1)  自然流産1) 受胎1) 生存確率
47,XYY 48 25 45 0.907
47,XXY 48 321 89 0.458
47,XXX 51 120 61 0.711
+AorB(1-5) 0 2,083 312 0
+C(6-12) 0 4,005 601 0
+D(13-15) 5 4,686 707 0.006
+16 0 7,850 1,177 0
+EorF(17-20) 12 2,043 317 0.032
+21 125 2,483 479 0.222
+22 0 2,683 402 0
合計 289 26,299 4,190  

1)10万当たり 

を推し進める環境あるいは生理的条件を見極めるのは困難であろう。不幸なことにそのような研究は遺伝学を独善的な学問へと導くことになろう。個人の権利を保護するという名目で扇動やハラスメントは仲間や法律で保証されている人の権利を奪うことになる。おそらく将来不必要な迫害を受けないXYY個人に対して、権利の過保護は社会に対する負担の分かち合うということで満足するであろう。

 現れる徴候が通常むしろ臨床的で行動的でないから、他のトリソミーには独善的な点に訴えるものはない。XXYトリソミーはクラインフェルター症候群である。患者は男子で陰茎萎縮、程度に違いのある類宦官体質である。胎児死亡率は上がり、IQの平均値は下がり、やや精神遅滞あるいは犯罪で施設に収容されることが多い。早期の男性ホルモンによる治療で、男性化が強まりしばしば精神面での改善がみられる。

 XXX女子はIQが下がり、てんかんのリスクが上がり、外部性徴の発達不全、それに続発性無月経がみられるであろう。しかし、多くに妊性があり、一本のX染色体を子どもに伝える。出生で確認される症例の縦断的調査が行なわれるまで、すべての性染色体の異常の偏りのない評価は待つべきであろう。

 常染色体トリソミーは亜致死である。ときおり13-18-トリソミーの生産児がいるが、複合異常と重度の精神遅滞を伴う。非常にまれだが、8-9-22-トリソミーの生産児が生まれることがある。21-トリソミーはダウン症であるが、精神遅滞と重複欠陥が特徴である。現今、出産で最も多いトリソミーであるが、幼児期以後まで生存する唯一のトリソミーである。子ども達は穏やかで社交的ですらある。しかし平均余命はかなり短く、胎児の多くは自然流産の転帰をとる(9.3)。成人した21-トリソミーはがんに罹り難いといわれる。

 末端動原体染色体のトリソミーの頻度は母親年齢と共に劇的に増える。母親年齢の影響は若干であるが他のトリソミーの多くでも観察されている。 X線の母親被ばくが仄めかされているが文献はばらばらで一致した見解はない。X線照射した体細胞での不分離は増える。マウスの卵母細胞へのX線照射で低いが不分離の頻度が増えている。マウスの妊娠期間が短いのでヒトの女子と比較する根拠はないかもしれない。

 染色体異形は母親の第一減数分裂での不分離により生じることがわかっている。父親では15パーセント以下で、その多くは第一分裂の不分離である。トリソミーの母親の年齢が若かろうが年配であろうがその起原は同じである。トリソミーの親由来を (少なくとも確率で) 知ることで母親あるいは父親由来の因子を見分けることが可能であるから、この異型性は遺伝疫学における強力なマーカーである。 

 

9.4 多倍性

XXXXXYの三倍性はまれに生産児でみられる。四倍性とXYYは見られないが、これらの三倍性は自然流産ではかなり多い。XYYはそのうちで一番頻度が低いが、多分初期の胎児芽で死亡するのであろう。性染色体の三倍性頻度は標本ごとに違う(9.4)が理由はわからない。それぞれの多倍性のほとんどの起原は異形性で決めることができる。ほとんどの三倍性は2精子性dispermyであるが、本質的にはどちらかの親の第一減数分裂の抑制にその原因がある。女子のいずれかの減数分裂がうまく行かないと妊娠年齢が低くなる。余分の一倍体の起原パターンが三倍性受胎の流産の時期に影響する機構はよくわかっていない。

 

         表9.4 多倍体の発生率(Morton 1982)

構成 生産1) 自然流産1) 受胎1) 生存確率
69,XXX 1 3,419 514 0.002
69,XXY 1 4,933 740 0.001
69,XYY 0 229 34 0
92,XXXX 0 1,424 214 0
92,XXYY 0 1,424 214 0
合計 2 11,429 1,716  

1)10万当たり 

 四倍性はXXXXXXYYだけであるので、減数分裂の誤りというより、接合体の分裂初期にうまくいかなかったことが示唆される。

 多倍性の原因因子についてはよくわかっていない。 

 

9.5 構造異常

染色体異常のうち、同じ染色体あるいは別の染色体との構造異常によるものだけが、頻度の上で保因者親から継承される。(9.5.1)。生産児の構造異常の多くは真性染色質euchromatin(非異質染色質nonheterochromatin)が標準的な量であり、重複あるいは欠失がない安定型である。自然流産の構造異常の多くは不安定型で、一部の真性染色質がモノソミーかトリソミーになっている。

 

             表9.5.1 構造異常の発生率(Morton 1982)

構成 生産1) 自然流産1) 受胎1) 生存確率S 相対生存率2)
 非安定型          
ロバートソン転座 5 876 136 0.031 0.034
ロバートソン転座 4 743 115 0.030 0.033
リング他3) 49 57 50 0.833 0.007
 安定型          
ロバートソン転座 95 95 95 0.850 0.925
ロバートソン転座 84 172 97 0.736 0.801
逆位 16 38 19 0.716 0.780
合計 253 1,981 512    

1)10万当たり 2) S/0.9185、表9.1参照。受胎の15%が自然流産であるとして生産に対する細胞遺伝学的に正常な受胎での平均生存率0.9185で補正した3)マーカー、過剰染色体を含む。 

 2つの末端動原体染色体はロバートソン型転座を起こすことがある。安定型であれば染色体数は45となる。両方の長腕が一つの動原体に付着し異質染色質の単腕ともう一つの動原体が欠失するが正常な相同体は存続する。不安定なら染色体数は46で正常な相同染色体の一つに対が残るので長腕が三倍性になる。不安定型ロバートソン型転座は突然変異が安定型転座の保因者での分離により生じる。安定型相同ロバートソン型転座は、同じ動原体に一つの長腕のコピーが付着したもので、突然変異で生じるが配偶子のすべてが長腕に関してヌルソミーかダイソミーとなるから、安定型としての伝達はしない。

 安定型の非ロバートソン型相互転座はadjacentあるいは31分離で異数性配偶子を生じる。逆位ヘテロ接合は逆位内の奇数回の交叉で異数性を生み出す。これは一部の逆位でまれな事象であるが何世代も存続するのかもいれない。

 不安定な再配列にはリング、マーカー、過剰の染色体が関与する。同じ染色体の違う腕での切断によりリングができる。2領域を欠損する上、そのようなリングは2次的な切断が生じて減数分裂で喪失するかもしれない。ヘテロ接合の欠失は正常相同染色体の構造的に異常なマーカー染色体で、ときには生産児が生まれるが複合異常児である。正常な2倍体ゲノムの他に構造的に異常な余分な染色体として重複が現れるかもしれない。

 生殖適応度についてのデータは安定型あるいは不安定型発端者から確認された家系で得られる。転座保因者は不安定型接合体の分離を反映して妊性が低下して胎児死亡が増える。自然流産の原因となる不安定型転座の適応度は出生発端者の家系調査よりずっと低くなることが示されている。余分の染色体は男子孕性で大きく除かれるが、自然流産でではない(9.5.2)

 

   表9.5.2 構造異常の相対(生殖)適応度と突然変異率(Morton 1982)

グループ 適応度1) 適応度2) 発生率3) 突然変異率/配偶子4)
ロバートソン型転座 0.788 0.401 2316) 69
相互転座 0.702 0.384 2126) 65
逆位 0.926 0.780 196) 2
リング他5) 0.323 0.907 50 17
   合計       153

1)分離比と妊性による 2)正常分娩期間を生存 3)10万妊娠あたり 4)×105

5)他はマーカーと過剰染色体 6)突然変異率の計算に用いた。  

 興味ある調査で、過剰の染色体がないとき多くの(11/13)非ロバートソン型構造配列は男子の突然変異に由来していた。47染色体(7/7)の多くの非ロバートソン型再配列では女子の突然変異に由来していた。 

 

9.6 染色体切断

9.5.2から構造再配列の突然変異率はV=153×10-5/配偶子/世代である。ただし臨床診断が可能なまで十分な期間を生存した妊娠についてである。以下の最らしい仮定で、座位あたりの過激な突然変異率を求めることができる。あらゆる構造再配列は妊娠により検出できて、細胞学的診断ができるとし、重複切断の半分が再配列となり残りは元に戻ると仮定する。そして、n個の切断片それぞれに切断率vの座位があるとすれば、重複切断の期待頻度はポワソン分布の仮定から1-e-vw(1+nv)である。この値はnvが十分小さいと(nv)2に近い。以上のいくつかの仮定から 

   V=(nv)2/2

      v=(2V)/n 

n=10,000V=153×10-5を代入して 

    v=5.5×10-6/配偶子/世代 

これが思い切った過激な突然変異率の推定値である。必ずしも全てでないが、多くのこの種の突然変異は明らかに切断に原因がある。vより低い自然突然変異率は取りあえず除いている。

 染色体切断は新生物による疾患の原因となることがある。慢性顆粒球貧血は22番染色体と(通常)9番染色体の転座したフィラデルフィア(Ph1)染色体と関連している。患者は造血系を除きすべての組織で正常な染色体である。髄膜腫にはしばしば22番染色体の部分欠失か全体欠失か見られる。ダウン症患者は白血病のリスクが15倍も高い。13q欠失の個体は網膜芽腫に罹り易い。

 以上とその他の例は2つあるいはそれ以上の遺伝子あるいは染色体突然変異が、成長率が無制限となるため体細胞で選抜されて、新生物の原因となる証拠である。突然変異の原因には自然、ウイルス誘発、化学変異原、あるいは電離放射線などが考えられる。遺伝子突然変異あるいは染色体切断を惹起するいかなる作因もがんを誘発するし、その逆も成り立つ。

 がん生成の突然変異説はDNA修復による新生物に対する遺伝性染色体不安定性と感受性のまれな劣性疾患の一群で劇的に支持された。ファンコニー貧血はマイトマイシンCやアルキル化剤で、DNA架橋を切断する能力が低下することで切断が増える。ヘテロ接合保因者はジオキシブタンで染色体切断に対して異常に応答する。ブルーム症候群では姉妹染色分体交換SECが多くなる。ホモ接合の細胞ではDNAフォークの進行速度が低下して、UV誘発切断に異常な感受性を示す。運動失調症ataxia telangiectasiaの患者の細胞は電離放射線で損傷するDNA塩基の切除能の低下を示す。ヘテロ接合の細胞はX線照射に対して生存率は中間を示す。色素性乾皮症xeroderma pigmentosumのいくつもの相補性グループはUV照射とアルキル化剤の感応に対して超応答を示す。染色体不安定性の研究はある種のがんの高発性の例外的な家系で行われている。

 重要な染色体マーカーが誤って染色体脆弱性の属性とされている。現在の技術で集団の1パーセント以下に脆弱部位fragile siteがある。それらは適切な培養条件で細胞の何割で、通常2つの染色分体を含む幅に変異のある染色しないギャップが見られる。部位はどの個々の患者あるいは血族で検査した細胞の正確に同じ位置である。部位はメンデル性で優性である。脆弱部位はコイル化の欠損とみられ、切断は不規則である。適当な技術を用いていろいろな脆弱部位が見つかった。それらの頻度は、葉酸、チミジン飢餓、メトトレキセート、あるいはpHを高めるなどで、で高くなる。そのうちXq28が特に疾患と関連があることが知られている。その疾患は巨大睾丸、特徴のある顔貌と話し方のパターン特性の精神遅滞である。ギャップの高頻度の女子保因者は精神遅滞であるかもしれない。 

 

9.7 卵巣奇形腫

ヒトの卵巣の良性奇形種は皮脂様物質で満たされた嚢胞と、髪、結合組織、神経組織、骨、歯、それに呼吸上覆組織を取り込んだ広い範囲の組織学的細胞種を含む結節性腫瘍から構成されている。すべての核型が46,XXであり、すべて異常発生で生じる。第2減数分裂は抑制されるか、第U極体が第二卵母細胞と融合する。「母親」の動原体がマーカーのホモ接合は奇形腫で間違いなくホモ接合(オート接合)である。「母親」の生化学的マーカーのヘテロ接合はヘテロ接合かホモ接合である。ヘテロ接合性であることを非還元nonreductionという。非還元の頻度は動原体で0から末端マーカーで理論的最大値の2/3まで増える。この最大値は繰り返しをゆるさない2つの相同遺伝子を抽出することに相当する確率である。 

                 ymax= 2C1×2C1/4C2 = 2/3 

非還元頻度と動原体のマップ距離の理論的関係は、ショウジョウバエと赤パンカビで経験的な関係が得られている。それは 

   y=(2/3){1-(1-2θ)3/2} と y=(2/3)sin{(3/2)sin-1(2θ)} 

の中間になる。ここでθはマーカーと動原体の間の組換え率である。奇形腫を用いた動原体マッピングは機会を得ること、きれいな卵巣細胞が得られないことなどで限界がある。 

 

9.8 胞状奇胎

異常胎児の胎盤は胞状奇胎hydatidiform moleという腫瘍に成長することがある。絨毛膜絨毛の上皮epithelium of the chorioniv villi は絨毛支質stromaが嚢胞空洞化cystic cavitationで、ブドウの房のような嚢胞の塊になるまで増殖する。これは異常妊娠として病理的に知られているが、今ではその起原がわかっている。奇胎の染色体すべてが父親から継承しており、典型的にすべてのマーカーがホモ接合(オート接合)である。事実として、一つの精子が無核の卵子と受精して倍化して同質遺伝子isogenic46,XX奇胎となったものである。例外的に、限男性46,XY奇胎が2つの精子で、あるいは二倍体精子の受精で生じることがある。

 奇胎は絨毛上皮腫choriocarcinomaとなるリスクがある。この悪性腫瘍は適切な治療を施さなければ母親の死を招く。およそ半分の絨毛上皮腫はいくつかの状況で生じる。流産の後、正常な妊娠の際、あるいは異常妊娠から、または性器や性器外のテラトーマteratoma(奇形腫)からである。新生物を増殖する因子はわかっていないが、ホモ接合性が重要なのかもしれない。三倍体胎児は栄養膜のtrophoblastic増殖を起こすが、これは部分奇胎腫partial moleと言われている。そのような組織が絨毛上皮腫になるリスクを増すかどうかは知られていない。 

 

9.9優性致死

配偶子が電離放射線あるいは他の突然変異原にばく露したとき、F1の一部が死亡する。染色体異常による優性致死dominant lethalsを調査するには特別の技法が必要である。一つのうまい方法はハプロ-デプロ性決定のハチを利用する。処理した雄を未処理の雌と交配して、母親からの染色体から成る1倍体息子と両親からの染色体で構成される2倍体娘を調べる。誘発優性致死はもっぱら娘の数が減る形で表れる。哺乳類を含めて多くのほかの生物種では、F1接合体の死亡率が誘発優性致死の尺度となる。電離放射線による生存曲線は 

                       S=e-(a+kD) 

ここでDは線量でkは優性致死の誘発率/配偶子/線量である。これは1ヒット曲線で、多くの優性致死は単一電子飛跡で誘発することが示唆されてる。しかしながら、選択的死亡あるいは突然変異細胞の修復が2ヒット曲線を1ヒット曲線へ歪ませる可能性を無視することはできない。

 F1接合体の死亡率は異なるやり方で調べることができ、それに応じて線量応答は異なる。マウスの一腹仔数は変わるし、選択で調節されているが着床の前と直後の死亡は必ずしも正確に反映しない。出産前に雌を妊娠の適切な時期に解剖して、黄体だけでなく死亡胎仔と生存着床胎仔を数える方法がある。これで着床の前後で生じる出生前死亡の割合を推定することができる。

 優性致死は欠失と転座の両方がある。転座の一部は安定型で生存して妊性があるが、不安定型は初期の胎児死亡となる。死亡が十分後期に起きて一腹仔数を決めるほかの因子で分からなくならないなら、これば準不妊となる。明らかに準不妊F1を調べることは優性致死の一部分を検出するに過ぎない。

 大部分の優性致死は妊娠期間の初期に作用する。死産、乳幼児死亡、罹病としてF1で発現する突然変異原による効果は誘発突然変異の小部分で、多くは何世代にもわたって次第に発現していく。 

 

9.10 性比

厳密な男子と女子の比が性比sex ratioであるが、男子の頻度はsex proportionである。しかし、どちらも通常同意語として性比を用いている。出産時の性比は第2次性比であるが、第1次性比は受胎時の性比である。後者については分からないことが多い。

 ほとんどすべてのヒト集団で出産時の男子の割合は0.5を超える。しかし晩年になると女子が多くなる。男子死亡が多いことにはたくさんの原因があるが、伴性遺伝子との関係は示されていない。染色体は正常の自然流産の女の子で若干の過剰が報告されているが、これは少なくとも一部細胞培養での母親の組織の混入もある。人工流産や正常染色体と認められたすべての妊娠からは男子が過剰である。3通りの説明がある。女子は初期の接合体死に対してより感受性が高い。Y精子はX精子より数が多い(分離の歪みmeiotic drive)あるいはより素早く受精する(配偶子選択gametic selection)XX接合体はXYよりX染色体を喪失し易いが、他の染色体異常は正常な流産からと効果的な生産児からの異数体はここで考慮しなくてもよい。分離の歪みはショウジョウバエのSD座位やマウスのt対立遺伝子で知られている。ヒトではどの説明も排除されていないので流産や生産の性比と伴性遺伝子の関連を付ける試みは成功していない。分離の歪み、配偶子選択の可能性はマウスや他の哺乳類、それに多分ヒトで性比における男子決定の相違について示唆されている。

 すくなくともある集団では息子の割合が父親年齢と共に若干減少している。これは共分散分析で母親年齢と出生順位を標準化して求めている。これはX連鎖優性致死が原細胞分裂の回数が増えるのであれば矛盾するが、一倍体相の期間に依存する配偶子選択と整合性を示す。交接頻度は加齢と共に少なくなるから、男子の貯精子期間、排卵まで子宮での生存、受精前の排卵後の遅れは加齢と共に増すに違いない。X精子がY精子よりこれらのどの期間でも機能的により長く作用するなら、男子の割合は父親年齢と共に減り、逆に交接頻度とともに増えるはずである。戦後に性比が高くなるのはこれで説明できるのかも知れない。 

 

9.11末端動原体関連

ヒトの末端動原体染色体の短腕は基底短腕そのもので、括れた領域はサテライト茎状部satellite stalkといい、これと末端のノブknobとサテライトで構成されている。有糸分裂中期に末端染色体の短腕は近くに寄り添って一緒になる、すなわち関連を示す傾向がある。これはいろいろなやり方で定義することができよう。一つの便法を考えると、それらの(遠位)末端と長軸が交差する点との距離がG群染色体長さより短いなら、2つの短腕が関連するという。相容れない主張が、関連の頻度や無作為性について行なわれているが、その一部は関連の期待分布についての誤解による。

 末端動原体染色体のあらゆる組合せを一つの理論にまとめることはできない。n本の染色体の関連を可能な組合せn(n-1)/2に分割することで問題は取り扱いし易くできる。最も簡単な理論はすべての末端動原体染色体は同じ程度に関連を持ち得ると仮定することである。N本の末端動原体染色体(二倍体ではN=10、一本の末端動原体染色体がトリソミーではN=11、平行型ロバートソン転座型ではN=8)があるなら、無作為に関連した染色体iとj (i,j=1,…,N) の一組が非復元抽出sampling without replacementされる確率は 

               Pij=1/NC2 = 2/{N(N-1)} 

である。この仮説は容易に排除できる。それは、平均してG群染色体はD群染色体より容易に関連起こし易く、さらに相同染色体ですら異なる関連確率をするからである。関連の等確率のモデルは捨てるが無作為性の家庭はそのままとして、i番目の相同染色体の組での確立をpiとすると、 

            PiNC2 /NC2 = pi{pi-(1/N)}/(1-1/N)       i=j

         Pij= {

             PiNC2 PjNC2 /NC2  = 2pipj/(1-1/N)         ij 

が得られる。

 ここで 

    F=-(1/N)/(1-1/N){= -1/(N-1)}  と  1-F=1/(1-1/N){=N/(N-1)} 

と置くと 

     pi2+pi(1-pi)F    i=j

  Pij= {

          2pipj(1-F)     ij 

と表わすことができる。これはライトの公式(7.2)と形式的に一致しているが、関連する一組の確率と関連を表わすFで定式化されていることを示す。二倍体では5組の対が考えられるから、N=10F=-1/9=-0.111である。

 次にpiが相同染色体間で一定という仮定をゆるめるが、Fは一定で関連はランダムであると仮定する。そうすると、相関の階層構造(7.2)から 

1-  F=(1-Fw)(1-FA){N/(N-1)} 

が得られる。ここにFwは個体内のホモログ間の異質性による負の部分であり、FAは個体間のpiの異質性による正の部分である。piを各個人ごとに別々に求めたのであればFA=0である。-1/(N-1)N個体から非復元抽出した対での相関である。重複関連の分割で得た対の組は独立ではないことに注意して、二倍体生物の因子結合表現型系で開発した仮説に対する尤度比検定が関連した染色体の対に直接適用することができる。染色体の相同な対の間でFに異質性が有意であれば各対の染色体についてパラメータFを導入したこの一般化モデルは適切である。

 大標本でFは個体間で有意に変動した。その平均は-0.124±0.007Fwは負の値で、ずれは-1/9=-0.111の期待された方向である。無作為な関連に対す明確な事実はない。見たところ、作為的な関連は13/14ロバートソン関連の過剰を説明することができない。短腕の脆弱性によるのか、あるいは他のロバートソン転座の初期の胎児喪失によるのかも知れない。

 関連の合計頻度は個体、複製、観察者間それぞれで変わる。これらの理由による変動を容認しても、関連の頻度がトリソミーあるいは罹病性、あるいは特別なタイプのキナクリン異形性などのリスクと関係しているという事実はない。 

 

9.12 疾患のゲノム構成

 ヒトの病気の中でも遺伝性疾患は主要なものの一つである。慣例として遺伝性疾患は染色体性(数的異常あと構造異常)、単因子性(メンデル性)、多因子/ポリジーン性の複合疾患、それにミトコンドリア性に分類されている。これらの病気の大部分は孤発sporadicである。新しい分子手法の開発で新しい病気や異形症候群の詳細が明らかにされている。これらの病気のあるものは通常の遺伝様式には合わず、その機構も複雑でユニ−クであることがよくある。たとえば顕微鏡でぎりぎりに視える微欠失/微重複、3塩基反復、ゲノムイ・ンプリンテングによるエピジェネテック、異常RNAパターンによる転写/翻訳の欠陥、単一塩基多型SNPと関連、それにコピー数変異がある。これらのうち疫学的には単因子性とみられるいくつかの疾患は問題となる座位/遺伝子クラスターの両側のいずれか近くにある低コピー数がnonallelic homologous recombination結果、関連を示すものがある。「ゲノム構成疾患disorders of genome architecture」ともいう疾患群が多数知られるようになっている。たとえば

Charcot-Marie-Tooth type 1A, Smith-Magenis症候群、神経線維症1型、その他OMIMナンバーのついた沢山の疾患がある。ゲノム疾患というこれらの多くは大部分が新しく生じたゲノム再編成genomic rearrangementsで孤発的にみられる。ゲノム再編成による座位特異的突然変異率は塩基置換による塩基特異的突然変異率より2〜4倍も高い。男子生殖細胞でのいくつかの疾患関連の組換えホットスポットについての研究から、微欠失症候群と比べて臨床的に診断できる微重複によるゲノム再編成が多いことが分かった。高解像度解析法を広く応用することによって、新たなコピー数変異を含むゲノム再編成による孤発表現型を見つける機会が増えよう。 

 

9.12.1 ゲノム疾患の分類

 遺伝学と分子生物学の発展により大量のデータと情報が蓄えられることにより、多くのヒトの疾患は遺伝的要因によるという見解が有力となっている。その遺伝的特徴は病因、診断、治療の上でより改善することは臨床医学に著しい可能性を生むに至っている。疾患の遺伝的基礎の解明はこれまでの診断基準や症状による分類とは別に、疾患分類に新しい道を開くものである。たとえば、自己免疫で診断される若年性糖尿病は著しく多型の複合的なヒト白血球抗原(HLA)との関連しており、成人型糖尿病のある型は遺伝子産物の発現とその修復に因っている。気管支喘息の病因は数ある遺伝子で決まる分子とその径路で特徴づけられる。疾患の機構やその径路のより明瞭な理解は疾患の亜型を細分類することを可能とし、様々の疾患の徴候、進行、治療への応答についての疑問に答えることに役だっている。これは現状の診断基準を再評価するのに役立つであろう。ヒト疾患の新しい分類で遺伝学は臨床現場に貢献することは明らかであろう。

 従来、遺伝性疾患は(構造や数的の異常)染色体性、単因子あるいはメンデル性、先天性や多因子/ポリジーンによる複合疾患、それにミトコンドリア性に分類されてきた。染色体性疾患は別として、いわゆる遺伝性疾患は特定の遺伝子の突然変異かゲノム構造の基になる30億のある部分の欠失、重複、転座、逆位などの変化が数学でいう順列組み合わせ、ときにはそれが繰り返している。染色体異常の特徴は出生前にそれがみられ、重篤な障害が乳幼児期にあり少年期頃まで存続する。メンデル性疾患は周産期から青少年期をピークとして成人まで医療が必要である。多因子性疾患は、発生異常のように幼児期に複数の専門医の診療が必要とする症例もあるが、大部分は晩年に発症する傾向がある。

 最近の分子遺伝学の進歩でヒトゲノムの特定領域に見られる特徴的な機構による疾患が同定されるようになった。これらは従来の遺伝原理とそぐわないこともしばしばである。これらはゲノム疾患genomic disordersと呼んでいる(9.12.1)。数多い遺伝性疾患は複合した病因によるものでいわゆる従来の遺伝法

 

             9.12.1 ゲノム疾患の分類

分類 病因となるゲノム構成
ゲノム構成疾患 ゲノム再配列
3塩基反復疾患 ゲノム不安定
塩基配列切断疾患 ゲノム不安定
塩基配列不分離疾患 ゲノム不安定
複合塩基配列疾患 ゲノム変異:SNPs/CNVs

SNP:単一塩基多型、CNVs:コピー数変異 

則に合わない。複合した表現型を示す1つ以上の遺伝子があり、それらは直接/間接に関与し、その調節、発現に影響するゲノム領域であることが知られている。このような疾患の一部は現状は染色体性/単一遺伝子による疾患として分類している。 

 

9.12.2 ゲノム構成疾患の表現型

 ヒトゲノム計画が最近達成し、イーストや幾つかのバクテリアの全ゲノム配列が決定したことで、全ゲノムの構成から遺伝情報を読み取ることが可能となった。今や一部の遺伝性疾患についてその病因をゲノムのレベルで理解することが可能である。哺乳類のゲノム進化は遺伝子/遺伝子断片、反復遺伝子クラスターの重複による(Lupski 1998)。これらはゲノム全域に分布しており、同じ染色体に連なっていないnonsyntenic領域の間で組換えが盛んに生じた結果であると考えられている。このような部位をホットスポット(hot spots)という。このような領域はさらにDNA組換えを生じ易く、その結果異常表現型を表すことになろう。そのような疾患を一まとめにしてゲノム構成疾患genome architecture disodersという。 

          表9.12.2.1 ゲノム構成疾患の例

疾 患 遺伝様式 座位 遺伝子 再配列 反復数(kb)
        タイプ/大きさ(kb)  
William-Beuren syn* AD 7q11.23 ELN del/inv  1600 >320
Dup7(q11.23) syn ? 7q11.23 ? dup  
Prader-Willi syn AD 5q11.2q13 ? del     3500 >500
Angerman syn AD 15q11.2q13 UBE3A del     3500 >500
Dup(15)(q11.2q13) AD? 15q11.2q13 ? dup    3500 >500
三重反復 15q11.2q13 AD? 15q11.2q13 ? trip >500
Smith-Magenis syn AD? 17p11.2 RA13 del     4000 250
Potocpki-Luspki syn AD 17p11.2 ? dup  
CMT1A AD 17p11.2 PMP22 del     4000 250
HNPP AD 17p11.2 PMP22 del  
神経線維腫症1 AD 17q NF1 del  
DiGeorge/VXFs AD 22q11.2 TBX1 del     3000 400
Dup 22(q11.2q11.2) syn AD? 22q11.2 ? dup  
Sotos syn AD   NSD1 del  
男性不妊 Y Yq11.2 DBY del      800 10
AZFa-HERV 微欠失     USP9Y del  
AZFa 微欠失 Y Yq11.2 RBMY DAZ? Del     3500 250

syn=症候群、del=欠失、dup重複、inv=逆位 

ゲノム構成疾患は易感受性量的遺伝子dosage sensitive gene ()配列の完全喪失/獲得、崩壊によって生じる(Shaw & Lupski 2004; Lupski & Stankiewiz 2005)。易感受性量的遺伝子の崩壊は幾つかの機構で起こる。それらは遺伝子中断、遺伝子融合、位置効果、劣性対立遺伝子の効果が発現、対立遺伝子の相互

効果が喪失transvection effect(Lupski & Stankiewiz 2005)などが挙げられる。そのうちの数ある微欠失/微重複症候群の例を表9.12.2.1に掲げた。

 これらの疾患にはある決定的な再配列ゲノム断片がある。これはその隣接する領域に大きな(通常>10kb)、高度に同質な低コピー反復(LCR)があってそれが組換えを生じる基となる。相同的であるが非対立の低コピー反復での減数分裂における組換えでも、介在配列の欠失/重複を生じることがある。これらの一部による表現型は臨床像、特に顔面異形などの特徴で区別できるという。

 表9.12.2.2は別のタイプの染色体組換え型を示したもので、逆位、ロバートソン型転座、跳躍型転座jumping、イソ染色体、小さいマーカー染色体などはゲノム構造や構成に関係して再組換えを起こし易い。いくつかの症例でLCRsATリッチ回文AT-rich palindromespericentromic反復がこれらの再配列切断点にある。このようなゲノム組換えが起こり易いことは病因のみならず霊長類の進化においても重要な意味を持つ(Shaw & Lupski 2004) 

     表9.12.2.2 繰り返されるゲノム再配列が原因の疾患

再配列 タイプ 組換え体
    反復の大きさ一致性(%) 位置
inv dup(15)(q11q13) 逆位 重複 >500   C
inv dup(15)(q12) 逆位 重複 225-400 97-98 C
idic(X)(p11.2) イソ二動原体     I?
inv dup(8)(pterp23.1::       臭覚受容体
 p23.2pter);Del(8)       クラスター
del(8)(p23.1p23.2) inv/dup/del 400 95-97 I
dup(15)(q24q26) 重複 13-60   ?

del=欠失、dup=重複、inv=逆位、C=複雑、I=逆位  ?=不明 

 低コピー反復[LCR]による不安定ゲノム領域を含む染色体内外の再組換えが確認できるメンデル性疾患が次第に増えてきている(9.12.2.3)。これらのゲノム領域はパラログ断片parologous segments間での非対立遺伝子組換えnonallelic homologous recombination[NAHR]を起こし易い。LCRは通常ゲノムDNAのおよそ10-400kbの大きさで、97%以上が全く同じである。したがってNAHRが容易に起こり、再配列という結果になり易い。LCRは減数分裂でのDNA再配列

を生じて、その結果複雑奇形症候群やある種の形質となる(9.12.2.2)。このような原因による疾患として次が挙げられる。

1.  微欠損症候群 

  Williams-Neuren症候群(7q11del)

    DiGeorge症候群(22q11del)

       常染色体優性CMTA1[PMP22遺伝子重複]

   圧迫性麻痺による遺伝性神経細胞障害HNPP[PMP2遺伝子欠損](17p11.2)

 

    表9.12.2.3 いくつかのメンデル性疾患のゲノム再配列

疾患1) 遺伝様式 染色体 遺伝子     組換え体    
        タイプ2) サイズ 反復数(kb) ID% 位置3)
Bartter syn V AD 1p36 CLCNKA/8 del 11   91 D
Gauchr dis AR 1q21 GBA del 16 14   D
FJ N AR 2q13 NPHP1 del 290 45 >97 D
FM dystrophy AD 4q35 FRG1?  Del 25-222 3.3   D
SM dystrophy AR 5q13.2 SMN  inv/dup 500     I
CAH-21HD AR 6q21.3 CYP21 del 30   96-98 D
GRA AD 8q21 CYP11B1/2 dup 45 10 95 D
β-thalasemia AR 11p5.5 βglobin del 4(7)?     D
α-thalasemia AR 16p13.3 αglobin del 3,7,4,2 4   D
Poly kidney dis I  AD 16p13.3 PKD1     50 95  
CMT1A AD 17p12 PMP22 dup 1400 24 98 7 D
HNPP AD 17p12 PMP22 del 1400 24 98.7 D
NF1 AD 17q11.2 NF1 del 1500 85   D
P dwarfism AR 17q23.3 GH1 del 6.7 2.24 99 D
CYP2D6薬理遺伝的形質 AR 22q13.1 CYP2D6 del/dup 9.3 2.8    
Ichthyosis X Xq38 STS del 1900 20   D
Red-Green CB X Xq28 RCP/GCP del 0 39 98 D
IP X Xq28 NEMO del 10 0.870   D
Hemophilia A X Xq28 F8 inv 300-500 9.5 99.9 I
EMD X Xq28 Emerin/FLN1 del.dup/inv 48 11.3 99.2  
Hunter syn X Xq28 IDS inv/del 20 3 >88  

1)  疾患名は上から順番:Bartter syndrome type V、Gaucher disease,

Familial juvenile nephronophtisis, Fasioscapulohumeral muscular dystrophy, Spinal muscular dystrophy, Congenital adrenal hyperplasia-21 hydroxylase deficiency, Glucortioid remediable aldosteronism, β-thalassemia, α-thalassema, Polycystic kidney disease type I, Charcot-Marie-Tooth, Hereditary neuropathy with liability to pressure palsy, Neurofibromatosis type 1, Pituitary dwarfism, CYP2D6-phramcogenetic trait, Ichthyosis, Red-green color blindness, Incontinentia pigmenti, Hemophilia A, Emery-Dreifuss muscular dystrophy and Hunter syndrome

2)  del=欠失、dup=重複、inv=逆位、C=複雑、3) D=直接、I=逆位  

 

2. 隣接遺伝子症候群

Sumith-Magenis症候群del(17)(p11.2p12)

AZF遺伝子欠損と関係する(優性)男性不妊症

 このほかLCRによる複雑な構成は霊長類の進化、複合形質の病変やヒトの発がんに重要な役割を果たしているようである(Frank 2007) 

 

9.13 参考文献

Frank B, Bermeio JL, Hemminki K et al. 2007. Copy number variant in the candidate tumor suppressor gene MTUS1 and familial brest cancer risk.

    Carcinogenesis 28: 1442-1445.

Hassold T, Matsuyama A, 1979. Origin of trisomies in human spontaneous abortions. Hum Genet 46:285—294.

Hook EB, Porter  1977. (eds): Population Cytogenetics. Stufiies in Humans. Academic Press, New York.

Jacobs PA, Angell RR, Buchanan IN et al. 1978. The origin of human triploids. Ann Hum Genet 42:49-57.

Kajii,T, Ohama K 1977. Androgenic origin of hydatidigorm mole. Nature 268: 633-634.

Kumar D 2008. Disorder of the Genome Architecture: A Review. Genomic Medicine 2: 69-76.

Linder L, McCaw BK, Hecht F 1975. Parthogenic origin of benign ovarian teratomas. N Engl J Med 292:63-66.

Lupski JR: 1998. Genomic Disorders: Structural features of the Genome can lead to DNA Rearrangements and Human Disease Traits. Trends in Genetics 14: 417-420.

Lupski JR & Stankiewicz P 2005. Genomic Disorders: Molecular Mechanisms for Rearrangements and Conveyed Phenotypes. PLos Genetics 1:e4, 0627-0633.

Morton NE 1982. Outline of Genetic Epidemiology. Karger.

Sutherland GR 1979.  Heritable fragile sites on human chromosomes. Amer J Hum Genet 31:125-148.

Shaw CJ & Lupski JR 2004. Implications of Human Genome Architecture for Rearrangement-based Disorders: the Genomic Basis of Disease. Human Molecular Genetics 13: R57-R64.