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17.「口蹄疫の正しい知識 3.口蹄疫はもっとも重要な家畜伝染病」
(社)予防衛生協会理事 |
口蹄疫は牛、豚、羊、など偶蹄類などで起こる急性の伝染病です。ウイルスは70種以上の野生の偶蹄類にも感染します。獣医学のテキストブックによれば、牛での典型的な症状は、2日から8日の潜伏期で最初、発熱、食欲不振に続いて、よだれ、舌や歯茎、蹄の間などの水疱です。ほとんどの場合回復しますが、ウイルスの排出が続きます。豚は一般に症状が軽いのですが、脚の水疱が大きくなると立っていられなくなります。羊や野生偶蹄類も牛よりも症状が軽く、脚の水疱による歩行困難が主な症状です。成牛での致死率は5%以下ですが、子牛では50%に達することもあります。 主な感染経路は空気感染でウイルスは呼吸器粘膜から侵入します。餌などにウイルスが付着して経口感染を起こすこともあります。この場合は扁桃などからウイルスは感染を起こします。また、水疱液には多量のウイルスが含まれていて、傷口などが水疱液に触れることで接触感染を起こすこともあります。 感染した動物では吐く息や、糞、尿などにウイルスが排出されます。多くの場合、これらのウイルスが呼吸器から侵入してほかの動物に感染を広げます。どれ位のウイルスを出しているのか、多くの論文の成績をまとめた表があります(1)。
空気感染の最大の原因になる呼気に含まれるウイルスの量は牛では毎分102.2(約300)感染単位、豚では105.4(約730,000)感染単位と、豚が牛の1000倍以上のウイルスを絶えず吐き出していることが分かります。一方、咽喉頭分泌液には、牛では530日以上、羊では1年もウイルスが見つかっていたことがあります。 牛はとくに感受性が高く症状も出やすいので、感染を見つけるための検出動物と言われています。豚は症状は軽くても呼気から大量のウイルスを放出しているのでウイルスの増幅動物と言われています。羊はあまり症状は出しませんが、長い間ウイルスを咽喉頭などに保持しているので、ウイルスの維持動物と言われています。南アフリカでは野生のアフリカ水牛が羊と同様に維持動物になっています。野生動物では対策を施すのが困難なため、口蹄疫ウイルスは常在していて撲滅は不可能と考えられています。 口蹄疫ウイルスの重要な特徴は強い感染力です。疫学では1つの症例から免疫のない集団で起こる2次感染例の平均値(やさしく言えばひとりの人から感染を受ける人数)を基本再生産数R0と呼んでいます。英国で1967年に発生し翌年終息した口蹄疫で疫学データから計算したR0は、流行の最初の段階では20ないし60、平均38.4でした(2)。インフルエンザでは2〜3、SARSでは2〜5、麻疹では12〜18ですから、非常に強い感染力を示すことが分かります。 口蹄疫は牛や豚の健康にとっては、それほど問題になる病気ではありません。しかし、家畜は経済動物です。乳牛が乳を出さなくなり、肉牛は成長がとまってしまうと、経済価値はゼロになります。病気から治ってもウイルスを出し続けるため、ほかの家畜に病気を急速に広げます。別の項で述べるように、病気の広がりを止めるためには、多数の家畜を殺処分しなければなりません。大規模畜産が行われるようになった現在、口蹄疫の発生は畜産での大きな脅威となり、畜産だけでなく社会にも大きな影響を与えることになります。 口蹄疫は家畜の健康問題ではなく、経済における問題なのです。
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