テーマ:「サル類を用いた医科学研究を支える基盤技術」 抄録 |
<午前の部> サル類の有用性(45分X3題) 座長 藤本 浩二 (社)予防衛生協会 | |
9:30 |
「サル類を用いたワクチン検定」 網 康至 国立感染症研究所 |
10:15 |
「サル類を用いた心理学研究」 土田 順子 自治医科大学 |
11:15 |
「MHC解析とサルコロニーの遺伝的モニタリング」 宇田 晶彦 国立感染症研究所 |
<午後の部> | |
13:00 |
研究奨励賞・技術奨励賞授与式 |
13:20 |
前年度受賞者講演(20分X2題) 座長 鈴木 通弘 (社)予防衛生協会 |
「サル実験緑内障モデルにおける視神経軸索のニューロフィラメント重鎖のリン酸化状態の検討」 柏木 賢治 山梨大学 |
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「サル飼育器材及び実験器材の開発・改良」 中下 富雄 武田薬品工業 |
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TPCの飼育管理技術および実験支援技術紹介(20分X5題) 座長 小野 文子 (社)予防衛生協会 | |
14:10 |
「P3動物実験施設での特殊飼育管理」 冷岡 昭雄 (社)予防衛生協会 |
14:30 |
「カニクイザルの人工哺育」 羽成 光二 (社)予防衛生協会 |
15:00 |
「特殊技術(眼底検査、骨髄採取、超音波検査)」 小川 浩美 (社)予防衛生協会 |
15:20 |
「手術管理(麻酔、器具、無菌操作、バイタルサインモニタリング)」 小松崎 克彦 (社)予防衛生協会 |
15:40 |
「特殊飼育管理(ICU管理、ケミカルハザード管理)」 成田 勇人 (社)予防衛生協会 |
16:00 |
「研究における技術者の役割」 吉川 泰弘 東京大学大学院 |
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サル類を用いたワクチン検定 国立感染症研究所 網 康至 |
現在、生体としてのサル類を用いて行われているワクチン検定は、経口生ポリオワクチン・神経毒力試験、弱毒生麻疹ワクチン・弱毒確認試験、弱毒生風疹、弱毒生おたふくかぜワクチン・神経毒力試験がある。これらは全て、筑波霊長類センターで繁殖・育成された5歳齢以下のカニクイザルが用いられている。このほか、サル類の初代腎細胞を用いた検定項目もあり、カニクイザルの初代腎細胞が経口生ポリオワクチンのウイルス含量試験(力価試験)、rct/40マーカー試験、dマーカー試験、アフリカミドリザルの初代腎細胞が同じく経口生ポリオワクチンのSV40否定試験に用いられている。 生体を用いた試験は、極めて定量的な経口生ポリオワクチン・神経毒力試験と、中間的な弱毒生麻疹ワクチン・弱毒確認試験、定性的な弱毒生風疹、弱毒生おたふくかぜワクチン・神経毒力試験に基本的に区別される。ポリオウイルスと麻疹ウイルスのサルにおける病原性が、ヒトにおける病原性と相関し、感染モデルとして確立された実験系であるため上記のように試験の意味が異なってくる。 試験方法もそれぞれに特徴があり、経口生ポリオワクチン・神経毒力試験では、腰髄膨大部への脊髄内接種で行い、他の試験では視床への脳内接種がその主体となる。接種後の動物の観察方法も試験により異なる。経口生ポリオワクチン・神経毒力試験では、ワクチン株でも症状を示し、リファレンスワクチン株との症状(後肢麻痺)の比較が試験の本質であるため、接種動物をケージ外に出して詳細に観察する必要があるのに対して、その他のワクチンでは基本的に症状を示すことは無いため、ケージ内での通常の観察で十分である。 講演では、それぞれの試験内容について、実験手技を中心に概説し、特に、ユニークな試験である経口生ポリオワクチン・神経毒力試験について、その接種、臨床観察の実際と、精度管理の一貫として行った、使用サル類の種、年齢によるポリオウイルスに対する感受性の違いについての実験結果について紹介する。 |
サル類を用いた心理学研究 自治医科大学神経内科 土田順子 |
心理学は、ヒトの行動もしくは動物の行動を経由してヒトのこころの働きを推測することを目的としている。心理学の成立当初は、ヒトのこころ(意識)のみが研究対象とされており、内省(被験者自身が自らの意識を観察し、研究者に対して言語的に報告する手法)が主に用いられた。しかし内省によって得られるデータは、主観的・私的なものになりがちであるという批判を受け、こころは「行動を通じて推測できる心的過程」と再定義された。こころの働きを知る手段が、研究者による被験者の行動の分析へと変化したことで、それまで心理学研究の対象にはなり得なかったヒト以外の動物の「こころ」を、ヒトのこころのモデルとして研究することが可能となった。 国立感染症研究所筑波医学実験用霊長類センター(TPC)で行われているサルの心理学的研究は、加齢・疾患モデルザルの認知機能の評価が主となっている。サルは、齧歯類など他の実験動物に比べてヒトと系統発生的に近縁であり、認知機能を司る脳内システムの多くがヒトと非常によく似ている。また、ヒトとよく似た加齢の過程をたどることも知られている。さらに、運動機能や知覚もヒトとよく似ているため、ヒトで用いられる様々なテストがそのまま適用できるというメリットもある。 TPCにおいて我々が採用している心理学的研究には、大きく2つの特徴がある。1つは、簡便な手法にある。これにより、個別のサルのテストにかかる時間を短縮することが可能となった。ヒトにおいてもしばしば指摘されるように、加齢に伴う認知機能の変化は非常に個体差が大きい。サルにおける加齢性の認知機能の変化の全体像を明らかにするためには、多くの個体を対象とした実験が不可欠である。そのために、我々は学習試験装置である指迷路を開発した。この装置を用いた基礎的な研究について、報告する。 2つ目の特徴は、さらに詳細な心理学的解析を加えるために、認知課題遂行中のサルの行動を観察することである。加齢・疾患モデルザルの研究の多くは、ある認知課題を習得するまでの試行数やエラー数のみを指標としている。こうした数値のみを分析の対象としていては得られなかった知見を、我々は得た。これについても報告する。 |
MHC解析とサルコロニーの遺伝的モニタリング 国立感染症研究所 宇田 晶彦 |
新薬や新規ワクチンの研究開発過程では、ヒトに対する臨床試験を実施する前にラット・マウスなどの実験動物を用いて薬効評価試験、体内動態試験、安全性試験を行いヒトへの有効性と安全性を予測している。しかし、ヒトとラット・マウスでは種間差があり有効性と安全性を正確に予測することは困難である。この種間差を埋めるべく、ヒトと代謝機構および免疫機構等の生理活性が近縁な霊長類の重要性が指摘されている。カニクイザルを用いた新薬や新規ワクチンの有効性を評価するためには、免疫応答を司る遺伝子群を解析することは必要不可欠である。 主要組織適合性抗原(MHC)クラスIの遺伝子産物は、全ての有核細胞に発現している。ヒトのMHCであるhuman leukocyte antigen (HLA)は、有核細胞上で6種類の遺伝子が発現しており遺伝的多型が確認されているHLA-A、-B、-C、遺伝的多型が少ないHLA-E, -F, -G、そして蛋白発現のない偽遺伝子であるHLA-H, -K, -J, -Lに分類される。HLA-A, -B, -Cは主にCTLへ抗原提示を行い、NK細胞の活性化や抑制にも関与している。非ヒト霊長類であるアカゲザルは動物モデルとして多用されているので、MHCの解析は特に進められている。アカゲザルのMHC(Mamu)ではA、B、E、F、G、AG、I遺伝子座の存在が報告されている。更にアカゲザル1個体からMamu-Aは3アリル、Mamu-Bは5アリル見つかり少なくともA遺伝子座は2個、B遺伝子座は3個存在する可能性が示唆されている。しかしHLA-CホモログであるC遺伝子座はチンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オラウータンでは同定されているが、アカゲザルを始めとする旧および新世界ザルにおいての存在は今のところ確認はされてはいない。 本邦で動物モデルとして多用されているカニクイザルについてはクラスIIの一部を除けばMHC解析が全くされていないと言って良い。その為にカニクイザルを用いた実験では、テトラマーを用いたCTL活性の測定など重要な生物学的定量が満足に出来ない状況が続いている。そこで、カニクイザルについてMHCクラスI遺伝子の塩基配列の決定、家系における遺伝様式の確認、簡易的なアリル検出系の確立を試みた。カニクイザルのA遺伝子座の塩基配列の解析は、PBMC mRNAから得られたMHCクラスI A遺伝子cDNAをPCR増幅後クローン化し、各個体あたり8-48クローンについて塩基配列を決定した。得られた塩基配列について2クローン以上が同一の塩基配列を有していた場合、特定のアリルを代表する配列とし、その推定されるアミノ酸配列について近接結合法(NJ法)を用いた系統樹解析を行い、d>0.025である場合独立したアリルであるとした。この解析からカニクイザルには少なくとも14アリルは存在すると考えられ、それらをMafa-A*01からMafa-A*14と命名した。次にMafa-Aアリルを簡便に検出する為にマルチプレックスPCR-SSP法の応用を検討した。A遺伝子座特異的なアンチセンスプライマーと4から5種類のアリル特異的センスプライマーを混合したプライマーセットを用いてPCR反応を行い、若干の問題が残るものの、12種類のアリルについては十分な特異性もって検出できた。本法を任意に選択した32頭のカニクイザルcDNAに適応したところ、1個体あたり1から4種類のMafa-Aアリルが検出され、カニクイザルのMHCクラスI A遺伝子座は重複して存在する可能性が示唆された。 本報告では、カニクイザルにおけるMHCクラスI遺伝子の解析結果について紹介する。 |
サル実験緑内障モデルにおける視神経軸索の ニューロフィラメント重鎖のリン酸化状態の検討 山梨大学医学部眼科 柏木賢治 |
医科学研究の推進を考えるとき、適切な実験動物の存在は不可欠である。特に、構造的、遺伝学的にヒトと非常に近い関係にあるサルなどの霊長類を用いた研究は非常に研究意義が高い。 緑内障は先進国においては失明原因の常に上位を占める進行性不可逆性の視神経障害疾患で、最新の疫学調査によると40歳以上の日本人の約17人に1人、推定患者人口は約400万人と報告されている。本疾患の特徴は視神経乳頭部の特徴的変化とそれに伴う視野などの視機能障害である。ヒトの視神経乳頭部には10層からなる篩版によって形成されており。これと近い構造を持つ動物は霊長類のみである。したがって、ヒト緑内障の研究にはサル類による研究が不可欠である。 演者はこのような観点からサル類を用いて、緑内障の発症機序、抗緑内障治療薬の作用機序などを研究してきた。緑内障では、眼圧を最も重要な原因因子として、軸索流が傷害され、その結果網膜神経節細胞が主にアポトーシスを原因として脱落する。神経軸索には、主要な骨格蛋白としてニューロフィラメントがあり、それを支えとして、微小管、中間径フィラメント、モーター蛋白などにより各種の神経栄養因子、ミトコンドリアなどの輸送が行われていると考えられている。しかしながら、これまでどのようにして緑内障において軸索流が障害されるかに関しては、十分な検討はされていなかった。 演者は、サル眼の隅角部をレーザー照射することで、眼圧を中等度に上昇させ、慢性緑内障モデルを作成し、神経軸索に関し、特に主要な骨格蛋白で最近軸索流に重要な役割をしていることが報告されているニューロフィラメント重鎖に注目して検討した。脳の研究で、ニューロフィラメント重鎖は、脱リン酸化体として細胞体で産生された後に軸索内に輸送される過程でリン酸化を受け、互いにもしくは他の骨格蛋白などと架橋形成を行い、軸索強度を高める。脳の軸索では通常はほとんどリン酸化を受けているが、網膜、視神経におけるリン酸化状態に関しては不明であった。今回の検討では、正常眼では軸索内ニューロフィラメント重鎖は脳内と同様にほとんどリン酸化を受けているのに対し、緑内障モデル眼では、障害が強い部位ほど脱リン酸化が起こっていることが判明した。これら神経軸索の脱リン酸化は軸索脱落に先行して起こっていることから、眼圧などの障害因子が、何らかの機序で軸索内のニューロフィラメントの脱リン酸化を促進し、その結果、軸索骨格の変化、軸索流の障害が発症し、最終的に網膜神経節細胞死を来す可能性が考えられた。このようなサルを用いた研究結果は、他の実験動物に対する研究や人眼でも確認され、緑内障性の視神経障害機序解明の一助となった。また、脱リン酸化状態の軸索を持つ網膜神経節細胞はいわゆるdamaged cellでありdead cellではない。再生医療が急速に進歩しているが、緑内障の場合、非常に長い軸索を有し、複雑なネットワークを形成する網膜神経節細胞が標的細胞であり、再生医療の適応が困難であるが、damaged cellの状態である脱リン酸化ニューロフィラメント重鎖を持つ網膜神経節細胞に対し、ニューロフィラメント重鎖のリン酸化を促進することで新しい治療法が開発できる可能性が考えられた。 以上のように、サル類を用いた研究は医科学の進歩に重要な役割を果たしており、今後、さらに研究の重要性が高まると考えられる。 |
サル飼育器材及び実験器材の開発・改良 武田薬品工業株式会社 開発研究センター 中下富雄 |
1975年に武田薬品工業に入社以来、一貫して薬剤安全性センター(現開発研究センター)でサルを用いた生殖試験及び一般毒性試験を約30年間担当してきた。当初、実験に使用されるサル類は野生由来のサルが殆どであり、また、保定器、保護具及び実験器具等も専用の物はなく、サル類の取り扱い作業については体力及び熟練が必要な危険な作業であった。近年は実験動物として繁殖されたサルを使用するようになり、取り扱いが以前と比べると容易になってきたが、他のラット・イヌなどの実験動物と比較すると熟練を要する。この30年間で種々の飼育器材及び実験器材を開発することにより経験の浅い実験者でもサルの飼育・実験などがより安全にまたより精度良く実施可能となってきたのでいくつかの事例を紹介する。 1) 挟体装置つきサル飼育ケージ NIH/ILARの基準に適合した大きさで、逃亡防止に工夫をし、さらに扉の開閉を実験者が片手で操作できる様にした。 2) 飲水量測定装置 上記、挟体装置つきサル飼育ケージの給水器ノズルに小型の給水タンクを接続し、通常の給水ノズルをそのまま使えるようにした。 3) バーコードつき首輪 首輪をMCナイロンで作製しバーコードラベルホルダーつき加工し、従来のビニールチューブ被覆の首輪と比較し、床巣あるいは挟体装置の隙間に挟まり死亡する事故がなくなり、また、耐久性も向上した。 4) モンキーチェアー 作業者による保定と同様にサルの両手を後ろに固定した保定が出来、各種実験操作が可能になった。 5) 自動投与装置 投与装置をコンピュータ毒性試験システムに連動させ、体重データをもとに算出した投与液量の自動吸引・排出をコンピュータ制御で行う。モンキーチェアーとの併用で投与作業が単独で実施できる。 6) 経口投与用カバー サル投与時の補助器具として塩化ビニール製の頭部カバーを作製した。これにより、投与者の経口投与時の危険性が軽減され、上記投与装置との併用で初心者でも安全に投与することが可能となった。 |
P3動物実験施設での特殊飼育管理 (社)予防衛生協会 冷岡昭雄 |
国立感染症研究所(感染研)—筑波医学実験用霊長類センターのP3動物実験施設では、サル類を用いてエイズウイルスなどBiosafety Level(BSL)3病原体の感染病態機序の解明やワクチン開発等を行うことを目的として設立された。予防衛生協会は、感染研の委託を受けてP3動物実験施設における飼育管理および研究支援を実施している。ここでは、高い危険度を有する病原体による感染実験を安全に管理する為の方法について紹介する。 P3動物実験施設 動物実験室の各室は個別の給排気系により換気が行われ、また動物実験室からの排気は高性能フィルターで除菌してから大気中へ放出されている。さらに室圧を調整する事により、ドアを開けた場合でも常に動物実験室から空気が流れ出ないようになっている。停電時は、自家発電による予備ファンが作動する事により、動物飼育室内の陰圧は確保される。 動物の飼育は上下2段式の陰圧アイソレーターで行われており、排気にはそれぞれに独立したヘパフィルターボックスが装備され、飼育管理時の暴露を少なくするための二重扉や転倒防止装置等を導入する事により安全性の向上がはかられている。一方、アイソレーター内で飼育されている動物の環境向上のために、アイソレーターの両サイドに透明窓を設置し、飼育サル相互のアイコンタクトを可能とする等の工夫を行なっている。 動物実験室はドライ管理方式を採用することにより排水量を制限し、排水が必要な場合は全て排水タンクに貯留し薬液滅菌後排水している。汚物や実験終了後のケージ等については高圧滅菌処理後に外部へ搬出している。高圧滅菌が不適な器材については、エチルアルコールやヨード系消毒薬を用いて滅菌を行っている。 動物実験室内には排気フィルターユニットを有したバイオセーフティ両面操作型手術台を設置し、動物実験処置を行っている。 これらの機器は安全確保の為に定期的な点検がなされている。 飼育管理における安全対策 P3管理区域への入退室者を制限する事により厳重に管理されている。入室時には必ず管理区域内の室圧を確認して動物室へ入室する。動物室内での作業は専用の防護衣類を着用し、退室時にはこれらの防護衣は全て、素材に応じた滅菌処理を行なうなど十分な感染防止措置を講じている。 飼育管理に際しては、まず動物室内を点検した後、動物の健康状態(活動性、食欲、便性状、出血、その他の異常)の観察を行う。動物に異常が認められた場合にはすみやかに、担当獣医師及び研究者に連絡し迅速な対応をとっている。 給餌は1頭ごとに消毒を行いながら実施している。飲水は規定量を陰圧アイソレーターごとに設置された給水バックに供給することにより、漏水事故を防止している。汚物は、全て高圧滅菌後に焼却処分としている。 現在、P3施設ではエイズウイルスおよびBSEプリオンによる感染実験が行われているが、それぞれの病原体に適した滅菌処理方法を用いて、病原体の封じ込めを行っている。 研究支援における安全対策 研究者の依頼を受けて、協会では血液採取、病原体接種、生検または解剖等の研究支援を実施している。実験処置は陰圧アイソレーター内で動物に麻酔を行った後、蓋のできる動物移送コンテナを用いて前述した手術台まで動物を移動して実施している。採材等の処置は、必ず2名以上で対応し針刺し等事故のないよう細心の注意を払っている。外部機関へ採取材料を送付する場合は感染研所長宛に病原体移動申請書を提出し承認を受ける事が必要である。輸送方法としては、不漏出性容器に二重以上の梱包を行い輸送している。 事故発生時の対応 P3動物実験施設における事故とは (1)外傷その他により、病原体等が体内に入った可能性がある場合。 (2)実験室内の安全設備の機能に重大な欠陥が発見された場合。 (3)病原体により実験室内が広範に汚染された場合。 (4)職員の健康診断の結果、取り扱い病原体による異常が認められた場合をいい、上記の事故を発見した場合は遅滞なく施設管理責任者に通報する。また病原体への暴露が疑われる場合は直ちに洗浄・消毒を行なうとともに、感染発症予防に必要な投薬等を行なった後決まられた対応病院で診察・治療を受ける事になっている。 以上の業務は、感染研の病原体等安全管理規程に基づき実施している。サル類のBSL3病原体感染実験においては、飼育管理の熟練した技術は勿論のこと、病原体を封じ込める事のできる施設を安全に維持していくための機器類の整備や定期点検、安全操作指針等事故防止の為のルール徹底が不可欠である。今後さらに、新興再興感染症での医学研究等に貢献できるよう技術向上と安全確保に努めていきたい。 |
カニクイザルの人工哺育 (社)予防衛生協会 羽成光二 |
筑波医学実験用霊長類センター(TPC)では1978年の開所以来25年間で5,714頭のカニクイザルを生産してきた。 開所から約10年間はインドネシア、フィリピン、マレーシア産の野生カニクイザルを主体としたコロニーで繁殖を行っていた。その後、野生ザルとTPC産育成カニクイザルの混成コロニーを経て、現在は育成ザルのみの繁殖コロニーに至っている。 TPC産育成カニクイザルは、屋内個別ケージ飼育などの性格上、およそ6ヶ月齢で離乳されるため、十分な哺育学習を受けられない。このような状況からTPC産の育成カニクイザルでは正常出産しても哺育拒否をするものが多く、その他さまざまな理由により約3割の新生仔は人工哺育となる。 人工哺育ではヒト新生児用の粉ミルク(明治乳業製・ほほえみ)を9:00、11:00、13:00、16:00の1日4回、日齢に応じて1回当たり10mlから40mlを与えている。 飼育環境については、新生仔は出生から約8週齢までは自らの体温調節ができにくいため、保温性が優れた発泡スチロール製の簡易哺育箱にペット用パネルヒーターを入れ、保温に心掛けている。その後、アクリル製の箱に移し替え、隣のサルが見えるように箱を2分割に間仕切り後、ペアリングする相手ザルを隣に入れしばらくお見合い状態で飼育する。この頃からりんごと固形飼料を与え始める。双方の状態を見て間仕切りを開け同居を開始する。アクリル製の箱でおおよそ6週間飼育し、その後は一般のケージに移し9:00と16:00の2回、ヒト離乳用の粉ミルク(明治乳業製・ステップ)を、1回当たり50mlを与えている。 ミルクは体重800g、生後6ヶ月齢くらいまで与える。この頃が離乳時期にあたる。 人工哺育時の死亡率は、当初10年間は30%前後であったが、最近、人工哺育担当者を専属とした結果10%以下に減少した。 また、最近、人工哺育サルでは各種ウイルスに対する感染率が低いことが明らかとなり、コロニーのSPF化の一環として、積極的に人工哺育を活用することも検討している。 |
特殊技術 −骨髄液採取、脳脊髄液採取、眼底検査、超音波検査− (社)予防衛生協会 小川 浩美 |
サル類を用いた実験では特殊な生体材料採取や機能検査等が要求される。それらの技術を確立することにより目的に合った詳細なデータを得ることができる。発表では、TPCで行われている特殊材料の採取法および検査技術のいくつかについて紹介する。 骨髄液採取 骨髄液は、多能性幹細胞を含んでいることが知られており、臨床的には造血機能検査、血液疾患や腫瘍の診断等に用いられる。研究分野においては、これらの幹細胞は再生医療や造血幹細胞遺伝子治療の重要なソースとして期待されている。それに伴い、サル類の造血幹細胞を用いた前臨床試験の重要性も高まってきている。そこで、サル類から骨髄液を安全かつ簡便に採取する方法を確立し、得られた細胞の評価も行った。 骨髄移植などに用いる大量の骨髄液を採取する際には、採取3週前から皮下輸液や鉄製剤投与を行いながら自己貯血を行う。骨髄液採取は、吸入による全身麻酔下で無菌的に、あらかじめ貯蔵しておいた自己血を輸血しながら行う。骨盤の座骨結節或いは腸骨を18Gの穿刺針で穿刺し、シリンジを接続して骨髄液を吸引する。術後は、手術日を含めた3日間、抗生物質および鎮痛薬の投与を行っている。これまでに骨髄液採取を行った個体で、その後貧血や感染などを起こした例は認められていない。アダルトのカニクイザルからは約50 mlの骨髄液を採取することが可能であり、採取した細胞は移植実験などにも十分な質と量であった。高齢サルからは十分な量の細胞が採取出来ないことが多かった。一方、検査等のための少量の骨髄液採取(5ml以下)については、貯血(輸血)を必要とせず、塩酸ケタミンによる全身麻酔下での座骨結節からの採取で対応している。 脳脊髄液採取 脳脊髄液は、臨床においては髄膜炎や脳脊髄炎等の診断に用いられ、また薬剤投与時の血液脳関門の影響や環境ホルモン測定、アルツハイマー等脳疾患関連遺伝子の解析に有用である。カニクイザルにおける脳脊髄液採取は、塩酸ケタミンによる全身麻酔下で前屈させて座位に保定し、腰椎椎間を拡張させる。第3から第5腰椎間を指で確認し、イソジンで消毒後、動物のサイズに応じて22G〜25Gの針を椎間に垂直に硬膜下へ向けて、無菌的に穿刺する。硬膜を通過する際にわずかな抵抗を感じるので、そこで針を固定し、血液が混入することなく脊髄液が出ることを確認し、針のプラスチック部分に自然漏出してきた脳脊髄液を別のシリンジで採取する。1回の採取量は0.5〜1ml程度が適切と考えられるが、1日の脳脊髄液生成量は全脊髄液量の3〜4倍と言われていることから、経時的採取は可能と考えられる。採取後ゆっくり針を抜き取り、再度イソジンで十分に消毒を行うことが肝要である。 眼底検査 サル類の眼底はヒトの眼底と形態的によく似ている。我々は過去20年にわたり、繁殖コロニーのサルを対象として眼底検査を行ってきた。 この間、カニクイザルを中心に、眼底所見の加齢性変化や異常所見の発現率等を明らかにし、視覚障害に関するデータベースを作成した。また、遺伝性若齢性網膜黄斑変性や加齢性黄斑変性症を観察している。これらの疾患はいずれもヒト疾患モデルとして非常に重要であると考えられる。 検査に使用する眼底カメラは、固定式の物と手持ちの携帯用の物とがある。 ここでは、我々が常用している手持ちの携帯用眼底カメラを用いての撮影技術を紹介する。 検査は塩酸ケタミンによる全身麻酔下で散瞳剤(トロパ酸-N-エチル-N-γピコリルアミドと塩酸フェニレフリン合剤;ミドリン-P)を点眼、約5〜10分後に十分散瞳したことを確認してから行う。撮影は暗所にて、左手でサルの頭部を保定しながら親指を用いて眼瞼を開き、もう一方の手で保持した携帯用の眼底カメラを眼瞼に近づけて行う。 超音波診断 超音波診断は各種臓器の非侵襲的検査として様々な分野で用いられる。近年、多様な形状、大きさ、周波数、機能を有した各種プローブや超音波診断装置が開発されている。適切なプローブや装置を選択すれば、ヒトに比べかなり小さいカニクイザルでも検査は十分に可能である。繁殖においては、早期妊娠診断や胎仔成長の確認、子宮内膜症等の生殖器異常の診断に非常に有用である。また、移植実験や毒性試験等においては、腎臓、脾臓、肝臓などの臓器の状態を非観血的にリアルタイムに観察することができる。さらに心機能検査においても、弁膜症や心筋症など様々な心疾患の診断に有効である。 ヒトの臨床に用いられている機材や方法をヒト新生児相当の体重であるカニクイザルに応用するためには習熟した技術を要する。 これらの技術を実施するにあたっては、できる限り動物に苦痛を与えないと同時に安定したデータの取得が可能な手技を確立することが重要である。 今後、さらに新規技術の開発と普及を進め、医学研究の発展に貢献していきたい。 |
手術管理 麻酔、バイタルサインモニター、無菌操作、術後管理 (社)予防衛生協会 小松崎 克彦 |
動物実験における外科的処置は、計画段階で目的を明確にし、その処置が必要であるか、動物実験倫理上問題がないかを十分に検討した上で実施されなければならない。外科的処置を行う場合重要なことは、可能な限り動物の苦痛を排除するための適切な麻酔、徹底した無菌操作および術後管理である。特に近年、サル類を用いた研究において免疫抑制や免疫不全状態を誘発する実験が増加しており、感染は動物に負担となるだけでなく実験系全体の結果に影響を及ぼす恐れがある。そのため外科的処置においては、一層厳密な無菌操作が要求されるようになっていきている。 ここでは、筑波医学実験用霊長類センター(TPC)における手術処置時の麻酔、バイタルサインモニター、無菌操作及び術後管理について紹介する。 麻酔 ・導入と維持 麻酔前投与薬は麻酔の補助および副作用による事故を防ぐために投与する。通常、唾液、気道分泌液の抑制、徐脈、心停止の抑制を目的として硫酸アトロピンを用いている。 塩酸ケタミンは、静脈内投与も筋肉内投与にも可能で、特にサル類においては効果の発現が速いので広く用いられている。しかし本剤は、筋弛緩作用がなく、覚醒も円滑でないので、手術内容に応じて筋弛緩作用を持つキシラジン等と組み合わせて使う場合がある。また、塩酸ケタミンは、体性痛に対する鎮痛作用は強いが、内臓痛に対してはあまり効果がない点に注意が必要である。他には、プロポフォールによる持続点滴麻酔は麻酔深度のコントロールが容易で覚醒が迅速であることから、簡単な手術処置や検査において有用と考えられる。 吸入麻酔は長時間にわたる手術、麻酔深度を微細にコントロールしなければならない手術において有用である。吸入麻酔は、麻酔装置や人工呼吸器、酸素ボンベなどが必要となるが、深度の調節性に優れ、覚醒も速やかという特質を持つ。麻酔の維持はマスクあるいは気管チューブで行う。現在TPCでは、導入および覚醒が速く体内での代謝率が低いイソフルランを使用している。ただし血圧低下をおこしやすい傾向があるため、血圧維持が必要な実験処置(腎臓移植手術、心臓外科手術等)においては、麻酔深度の微調整、静脈内麻酔との併用、輸液負荷、昇圧剤の投与等の対応が必要である。 ・バイタルサインモニター バイタルサインモニターは麻酔中の動物の各種生理機能の監視と制御を行うために実施するもので、ヒトの五感にたよるものと、モニター機器を用いておこなうものがある。しかし人間の五感だけでは認識できない変化もあり、特に手術用ドレープに覆われていたため、気がついたときには深刻な状態になっていることもある。逆に、モニター機器を装着しさえすれば麻酔中のトラブルを確実に回避できるものでもなく、両者によって十分監視しながら異常発生時は迅速に対応することが必要である。有用なモニターの条件として(1)測定するパラメーターの生理学的意義や評価基準が十分確立している、(2)生体に無侵襲である、(3)連続的測定が可能である、(4)リアルタイムに情報が得られる(5)素早くモニター機器を設置できる、などが挙げられる。TPCでは、呼気終末二酸化炭素濃度(ただし挿管による吸入麻酔時のみ)、血中酸素飽和度(Saturation Pulse O2: SPO2)、心電図、心拍数、血圧、体温の測定を適宜組み合わせることによりモニターを行っている。 無菌操作 手術操作について無菌的操作は当然であるが、得てして動物実験ということで比較的安易な操作が行われることが多い。特に脳外科処置については全ての装置を完全滅菌下で行うことが困難であり、未滅菌状態と混在しがちであるが、可能な限り無菌的に操作を行うことが肝要である。TPCでは、高度の免疫抑制下での手術処置が必要である遺伝子治療研究および移植研究などについては空気清浄度クラス1000の条件を満たす手術室で行っている。 麻酔した動物は、術野を広範にバリカンで剃毛し、手術台に保定後イソジンで消毒する。原則として素手での操作は行わず、手袋の破損によるサルの血液の直接暴露を防御するために術者は滅菌手袋を二重に装着し、滅菌ガウンを着て手術に臨む。動物を乗せた手術台および器具台は滅菌ドレープで覆い手術を行う。術後は術創にイソジンを塗布し、プラスチック包帯で保護する。また、万一の感染に備え抗生物質を手術前および術後2日間投与している。 器具器材の滅菌は原則としてエチレンオキサイトガス(EOG)滅菌を用いている(今後環境への影響を考えて滅菌方法については検討を行っていく必要がある)。脳固定装置などEOG滅菌不適な器材については、ヒビテンアルコール浸漬もしくはイソジンによる消毒処置等を行っている。また、ガーゼ、液体等については高圧蒸気滅菌をしている。ただし高圧蒸気滅菌が無理な液体に対しては、高性能メンブレンフィルターで濾過滅菌としている。使用した手術器具は消毒薬による超音波洗浄後、器具保護材でコーティングして乾燥し、上述の滅菌処置を行っている。 術後管理 術後の疼痛管理は、動物の苦痛の軽減、また動物福祉の観点から重要である。術後の疼痛によって食欲不振等が引き起こされ、回復が遅延して実験データに影響する可能性もあることから、十分なケアが必要である。TPCでは、主に整形外科、胸部外科および骨髄採取後に鎮痛薬として酒石酸ブトルファノールを用いている。さらに、術後も詳細な観察や血液検査を実施し、それらの結果を指標として必要に応じて輸液を行うなど、動物の状態を安定させるよう術後管理を行っている。 上記は試行錯誤の中で確立してきた手術管理方法であるが、今後さらに多様化する実験処置に対応していくと同時に、可能な限り動物の苦痛を排除する管理方式を模索していきたい。 |
特殊飼育管理(ICU管理、ケミカルハザード管理) (社)予防衛生協会 成田 勇人 |
動物実験を行う上で、各種実験処置に対応した適切な飼育管理を行うことはその実験系を成功させるための重要な因子となる。筑波医学実験用霊長類センター(TPC)ではサルを用いた感染実験における施設、および実験操作手順について検討が行われてきた。近年、種々な分野でサル類を用いた医科学研究が実施されるようになり、新たな実験系に対応した飼育管理方式が要求される。今回は、免疫抑制およびケミカルハザード実験における特殊飼育管理体制を紹介する。 造血幹細胞移植プロトコールにおける集中治療(ICU)管理 免疫抑制等生体に対する影響が大きい処置を行う場合、その動物の維持管理をいかに安定して行うかが研究成果に大きく影響する。ここでは、造血幹細胞移植実験の系に必要なICU管理について説明する。 造血幹細胞移植に先立ち、動物にはあらかじめ中心静脈ラインの確保を行った。次いで、貯血した自家血を輸血しながら座骨及び腸骨より骨髄血50mlを採取した。その後、全身放射線照射により骨髄を廃絶し、全身剃毛・薬浴をしてICU室へ搬入した。ICU室において、採取した骨髄液から単離した造血幹細胞を静脈内経由で自家移植した。移植後は、数日おきに血球検査、生化学検査、体重、体温等をモニターし、造血回復までの期間、無菌室でのICU管理を行った。 全身放射線照射の影響として、照射後3日目頃から腸管粘膜上皮の剥離が観察され、水溶性下痢や、時として血性下痢が認められた。治癒に要する2-4週間の間、輸液管理による電解質補正、消化管出血の抑制などの処方が必要であった。また、感染症、血小板減少などが認められたが、抗生剤や全血および濃厚血小板輸血、血液生化学値に応じた処置により状態をコントロールした。これらの処置によりサルの造血は約2週間以内に再構築され、移植後1年間以上にわたり副作用や後遺症は認められなかった。 以上のような本管理体制は、造血幹細胞移植実験に限らず、術的侵襲性の高い実験におけるサル類の特殊飼育管理として応用が可能と考えられる。 パーキンソン病モデルの作出におけるケミカルハザード対応管理 動物に化学毒性物質を投与する場合、ヒトへの暴露を防御するためのケミカルハザード対応飼育管理が重要である。ここでは、ドパミンニューロンに対して選択的毒性を示す神経毒((1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine;MPTP)の静脈内連続投与により、安定したパーキンソン病モデルを作出する実験系を例として、ケミカルハザードに対応した飼育管理について説明する。 MPTPは揮発性の神経毒であり、投与後尿および便に排泄されると考えられているため動物は陰圧アイソレーター内で飼育する。投与開始前に十分にアイソレーター環境に馴化させた後実験を開始する。ケミカルハザード対応の管理方式は投与後3日間実施する。作業時は使い捨て腕カバー、マスク、前着、キャップ等を着用し、作業後はこれら防護衣類を廃棄、焼却処分する。汚物等についても焼却処分とし、注射針等については次亜塩素酸ナトリウムで処理後、医療廃棄物として廃棄した。ケージ内に付着した汚物は時間経過によっても不活化されないと考えられているため、同様に次亜塩素酸ナトリウムで処理を行っている。アイソレーター内での飼育管理は最終投与後約2週間とし、その後は一般飼育管理室へ移動する。移動前には体毛に付着しているMPTPを除去するために、全身薬浴を行う。 MPTP投与における神経症状の発現には著しい個体差が認められ、投与閾値を越えた場合には急性に起立不能を呈し、十分な輸液管理が施されない場合死亡することもあることから、アイソレーター内での点滴処置等も実施をした。このような飼育管理の元で、定期的な行動観察により重症度を評価するとともに、死亡例において肝機能障害が強く疑われたため、血清中のGOTおよびGPT濃度をモニターし、MPTPの投与量、投与間隔等を微調整した。 このような管理体制により、実験者および飼育管理者への暴露を防御しつつ、安定してパーキンソン病様症状が持続する動物モデルの作出が可能となった。 以上、TPCにおけるサル類の特殊飼育管理の一部を紹介したが、より適切な管理体制をめざして改善を重ねている。今後、サル類を用いた医科学研究において一層多様化する実験系に対応できるよう、さらなる管理方式を開発していきたい。 |
研究における技術者の役割 東京大学大学院農学生命科学研究科 吉川泰弘 |
我々は何のために動物実験をするかというと、大きく2つの目的があります。1つは人類のためであり、具体的には病気を予防したり、治療したりすることにより、人々の健康を維持することが目的です。そのためには、新しい技術や、医薬品を開発したり、あるいは環境汚染を動物を使って調べるようなことが考えられます。もう1つは、ヒトは何者か?という根源的な問いかけです。我々はどこから来たか?我々は何者か?我々はどこに行こうとしているのか?ということを明らかにしたいという欲求です。 また、21世紀は「生命科学の世紀」と言われています。これは20 世紀における楽観的な幻想、すなわち自然の改造と利用を目指し、生産性の向上と技術革新を進めれば、それがそのまま人類の平和と進歩につながるという、幻想の終焉。この反省に基づくものだと思われます。今世紀、我々は生物としてのヒトという原点を取り戻す必要があります。その意味で実験動物科学は生命科学の重要なキーポイントです。生命科学に対し、単に実験動物を提供するだけではなく、高品質の研究資源と精度の高い生物情報を供給する基本的役割を担う必要があります。 最初のどちらの問いかけに対しても、動物実験というものが必要です。前者ではヒトの代替として、いろいろな評価に動物を使用し、その結果をヒトに外挿します。後者では、ヒトと他の生き物を比較することにより、霊長類の中のヒト科ヒトという存在を明らかにしよう、ヒトの生物学的意味を明らかにしようとするものです。このように、生命科学にとって基本的で重要な動物実験は、研究者、動物技術者、実験動物の三位一体ではじめて成立するものです。優秀な研究者だけでは、本当の良い実験はできません。適切な実験動物と実験動物を適切に維持・管理する優秀な技術者・研究支援者が必要です。3つの要素のどれが欠けても、動物実験は成立しません。 生命科学を実践するためには、実験動物の開発・生産を担う人、動物実験に携わる研究者、及び実験技術者が必要です。それぞれの人にとって求められる資質・能力は必ずしも同じものではありません。しかし、いずれの人たちにとっても必要なものは基本的な技術力であり、生物学的センスです。生物学的センスは生命という複雑系を頭だけでなく、体で理解することにより身に付くものです。すなわち、基本的技術および知識を身につけ、生産現場および実験現場でよく観察し、考えることにより磨かれるものであると思います。 このような観点に立って優秀な実験動物技術者の人材育成を目的に、これまで実験動物学会、実験動物協会では教育・認定のための様々な試みを行ってきました。今回は、この点について、現状を紹介したいと思います。 |
<ポスター発表> |
平成16年度 予防衛生協会研究助成事業 |
研究奨励賞 |
氏 名:大沢 一貴 所 属:長崎大学先導生命科学研究支援センター 受賞課題:マカカ属サルのアルファヘルペスウイルスの体系的遺伝子解析
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技術奨励賞 |
氏 名:比毛 則夫 所 属:(株)三菱化学安全科学研究所 鹿島研究所 受賞課題:カニクイザル個別ケージへの新たな工夫
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