185. 新型コロナウイルス対策の包括的検証と提言

2025年9月、Michael Osterholm(マイケル・オスターホーム)とMark Olshaker(マーク・オルシェイカー)による The Big One: How to Prepare for the World-Altering Pandemic to Come が刊行された(邦訳すれば「世界を変える次のパンデミックにどう備えるか」といった意味である)。

オスターホームは、2001年にミネソタ大学の感染症研究・政策センター(CIDRAP)(本連載56回)を創設し、現在もセンター長を務める疫学の第一人者である。オルシェイカーは、エミー賞にノミネートされた作品をもつ作家である。両者はこれまでも共同で、2018年にはニューヨーク・タイムズ紙に「われわれはフルスケールのパンデミックに備えられていない」とする論説を、2020年3月にはワシントン・ポスト紙に「国全体のロックダウンは有効ではない」とする論説を発表している。

本書は、タイトルが示すとおり、COVID-19(SARS-CoV-2)パンデミックで実施された対策を全面的に検証し、著者らが「SARS-3」と呼ぶ将来の新興ウイルスによるパンデミックに備えるための提言を提示するものである。

本来、このような包括的な検証は政府レベルで行われるべきものであり、たとえば同時多発テロ後にはそのような検証が実施された。しかしパンデミックに関しては十分な総括がなされていないため、著者らは本書を通じてそれを試みたと述べている。

本書では、将来のSARS-3パンデミックが発生し、それが約3年間にわたって続くという想定のもとで、そこで生じる諸問題とその対応が、以下の8章にわたって論じられている。
1章:ウイルス対ヒト
2章:われわれが吸い込む空気
3章:指示系統
4章:医療対策
5章:コミュニケーション
6章:サーベイランス
7章:政治(ポリティクス)と政策(ポリシー)
8章:今後の方針——パンデミック後の総括

各章は3部構成となっている。まず、架空のパンデミックの進行と対策の経緯がフィクションとして提示され、ついで実際に行われた対策が歴史的視点から検証される。最後に「持ち帰り要点(Takeaways)」として、要点が簡潔に整理される。このような構成により、臨場感のある状況設定の中で取るべき対策が具体的に示され、きわめて理解しやすい。

本書が扱う課題は、公衆衛生にとどまらず、政治・社会にまで及ぶ広範なものであり、それぞれについて批判と提言が提示されている。なかでも、公衆衛生対策として著者らがとくに重視している「空気感染」と「ワクチン」の問題の一部を紹介したい。

まず強調されているのは、SARS-CoV-2が空気感染するウイルスであるという認識が十分でなかった点である。空気感染対策としては、通常のマスクでは不十分であり、N95のようなレスピレーターの使用が必要であるとする。とくに医療従事者や最前線で働く人々に対して十分なレスピレーターが供給されなかったことは、最大の失策の一つであったと評価している。

さらに将来に向けては、より快適で、かつ現在のような使い捨てではなく、50回程度の再利用が可能なレスピレーターの開発が重要であると指摘する。

ワクチンについては、mRNAワクチンは短期間で製造可能であり、流行初期の「時間稼ぎ」として有用であると評価しつつも、その予防効果は40〜50%程度にとどまるとし、空気感染するウイルスに対しては、より高い予防効果と持続的免疫をもたらす粘膜投与型の弱毒ワクチンの開発が必要であると述べている。