チリ北部の考古学遺跡カマロネス(Camarones)で人類史を調査していた研究チームが、1492年から1631年の間に生きていた男女2人の遺骸からDNAを解析したところ、未知の天然痘ウイルス変異株のゲノム配列を発見した(1, 2)。
いずれもミイラ化した大腿骨片から検出された。本来、天然痘で骨病変がみられることは稀であり、この2例にも骨の異常は認められなかった。しかし、この地域では以前から躯幹に小さな皮膚病変をもつ遺骸が見つかっており、砒素中毒と考えられていた病変の一部は、天然痘によるものであった可能性が浮上した。
2例のウイルスゲノム(CAM9-208、CAM9-205)は99.912%の塩基配列を共有しており、同一の流行に由来する可能性が高い。
これまで古代の天然痘ウイルスとしては、6〜7世紀のバイキング時代の北欧人から見つかった系統(3)と、1643〜1665年頃に埋葬されたリトアニアの少年のミイラから回収された系統が知られている(4)(本連載105)。前者は現代の天然痘ウイルスとは別系統で、北欧に限局したまま絶えたと考えられている。一方、後者は現代の天然痘ウイルスの姉妹系統であり、系統樹の解析では、1500年代末から1600年代初頭に生まれたと推定されている。
今回発見されたチリの系統は、13世紀にヨーロッパの天然痘ウイルス系統から分岐したと推定された(図参照)。これは現代の天然痘ウイルス系統が成立する以前の分岐であり、その後、この系統も絶滅したと考えられる。
天然痘ウイルスは、野生齧歯類からヒトへ感染した後、機能遺伝子を次々に失いながらヒトへの適応を進めてきたと考えられている(5)。今回のチリのウイルスは、現代の天然痘ウイルスよりもはるかに多くの機能遺伝子を保持していた一方で、バイキング時代のウイルスほど多くはなかった。
この結果は、天然痘ウイルスがヒトだけを宿主とするウイルスへと進化した過程を反映していると考えられる。また、天然痘ウイルスに近縁なエムポックスウイルスも、将来的にヒトへの適応をさらに進める可能性があることを示唆している。
文献
- Gonzalez, B.R. et al.: The genomic identity of early smallpox in South America. Science 30 July 2026.
- Kreier, F.: How smallpox reached to Americas: first genomic evidence points to Europeans. Nature, 31 July 2026.
- Mühlemann, B. et al.: Diverse variola virus (smallpox) strains were widespread in northern Europe in the Viking Age. Science, 369, No. 6502, 2020.
- Daggan, A.T. et al. : 17th century variola virus reveals the recent history of smallpox. Current Biology, 26, 3407-3412, 2016.
- Curtis, R.C. et al. : Orthopoxvirus genome evolution : The role of gene loss. Viruses, 15, 1933-1967, 2010.

