134.6年間持続感染したエボラウイルスから発生したエボラ出血熱

1976年にザイールで突然出現したエボラ出血熱(正式名称はエボラウイルス病)は、90%に達する致死率を示す、もっとも危険性の高い感染症とみなされている。1995年にはザイールで大流行が起こり、世界的に大きな注目を浴びた。2013年から2016年にかけては、初めて西アフリカで発生が起こり、ギニア、シエラレオネ、リベリアで、2万8652名の感染者、1万1325名の死者という、かってない大流行となり、2016年3月に終息宣言が出された。(1)

 

この終息宣言から5年後の2021年2月14日、ギニアではふたたびエボラ出血熱の発生が起きた。初発例とみなされたのは、51歳の看護師の女性だった。2021年1月21日にンゼレコレ州のグエケ市の病院に頭痛、脱力、吐き気、拒食症、めまい、腹痛のために入院した。彼女はマラリアとサルモネラ症と診断され2日後に退院した。しかし体調不良が続き、民間のクリニックや伝統治療師を訪ねたが3日後に死亡した。同じ週に彼女の夫や葬式の参列者が発病し、4名が死亡した。

 

患者発生は、2月11日に国の流行警告システムに報告され、13日に血液についてのPCR検査でエボラ出血熱の発生が確認された。2013年から2016年にかけの大規模流行がきっかけで、2021年には、PCR検査や接触者追跡システムといった公衆衛生対策が強化されていた。ゲノム解析設備が整備され、自国内で原因ウイルスの解明も可能になっていた。2019年に承認されていたワクチン(本講座113)が、接触者、医療従事者など、合わせて約1万人に接種された。その結果、確認例16名、死亡12名で、6月19日には終息が宣言された。過去のエボラ出血熱発生の場合と異なり、今回は一連の対策がきわめて迅速に実施され、4ヶ月という短期間で発生が終息したのである。

 

この発生では、これまでのような自然宿主の野生動物からの感染ではなく、約6年前に感染したウイルスが潜伏して、再発した可能性が注目されている。感染者12名のゲノムを解析した結果、単一のクラスターに属していて、2013年から2016年にかけて発生していたウイルスとほとんど同じだった。とくに、2014年にギニアで採取されたゲノムからはわずか12カ所の変異が見られただけで、もしも人から人へと6年間感染が続いていたウイルスであれば、もっと数多くの変異が起きていたはずだった。これらの結果から、一人の体内で、エボラウイルスはほとんど増殖することなく潜伏していたと推測されたのである。(2)

 

エボラウイルスが長期間、持続感染することは、1976年の最初の発生の際にすでに見られていた。英国で実験室感染した研究者の精液にウイルスが10週間潜伏していたのである。2016年2月から3月にかけてギニアで起きたエボラ出血熱では、回復後470日目の男性が感染源と疑われるクラスターが発生した。この男性の精液には、回復531日後の検査でウイルスRNAが見いだされたことから、精液を介して最初のウイルス伝播が起きたと推測されている。(3)

 

2021年の発生で、体内に6年間という長期間にわたって人の体内に潜んでいたウイルスが感染源と推測されたことは、エボラ出血熱対策に新たな視点をもたらしている。

 

一方、野生動物でなく、人間が発生源になるという事態は、エボラ出血熱からの回復者に対する社会的偏見を生むおそれが指摘されている。

 

文献

  1. 山内一也:『ウイルスの世紀―なぜ繰り返し出現するのか』みすず書房、2020.
  2. Kelta, A.K., Koundouno, F.R., Faye, M. et al.: Resurgence of Ebola virus in 2021 in Guinea suggests a new paradigm for outbreaks. Nature, 597, 539-534, 2021.
  3. Diallo, B., Sissoko, D., Loman, N.J. et al: Resurgence of Ebola virus disease in Guinea linked to a survivor with virus persistence in seminal fluid for more than 500 days. Clinical Infectious Diseases, 63, 1353-1356, 2016.