69.永久凍土から分離された第4のタイプの巨大ウイルス

発見が続いている巨大ウイルスの現状を、本連載58回で紹介した。これまでに見いだされた巨大ウイルスは、①ミミウイルスなど正二十面体のウイルス、②つぼ状のパンドラウイルス、③つぼ状だが、増殖様式がパンドラウイルスとは異なるピソウイルス(本連載44回)の3種類に大別される。

ミミウイルス     パンドラウイルス、ピソウイルス            ミミウイルス                パンドラウイルス、ピソウイルス

なお、パンドラウイルスはチリとオーストラリアで分離されていたが、2015年に新たにアメーバ性角膜炎から別のパンドラウイルスの分離が報告されている。(チリ由来はPandoravirus salinus、オーストラリア由来はPandoravirus dulcis、角膜炎由来はPandoravirus inopinatumが正式名称)

2015年9月に第4のタイプとみなされる新しい巨大ウイルスの分離が全米科学アカデミー紀要の電子版で報告された。このウイルスは、ピソウイルスが分離されたシベリアの3万年前の永久凍土から、アメーバ培養で分離されたもので、モリウイルス・シベリカム(Mollivirus sibericum)と命名された。これも感染性を3万年保っていたのである。これまでの巨大ウイルスと異なり、モリウイルスは球形をしていた。粒子の直径は600 nmで、ピソウイルスの1500 nmの半分以下である。

モリウイルス                     モリウイルス

ゲノムは651キロ塩基対で、523個の遺伝子が推定されているが、そのうちの64%がコードするタンパク質は不明である。

4つのタイプの巨大ウイルスは、粒子の形(正二十面体、つぼ状、球形)(図)、粒子のサイズ(600~1500 nm)、ゲノムの長さ(600~2800キロ塩基対)、増殖部位(細胞質、核)など多様な存在ということになる。

モリウイルスに存在するタンパク質をプロテオーム解析でしらべた結果、11種類のリボソームタンパク質の存在が見いだされた。リボソームの混入はラッサウイルスなどのアレナウイルス科(アレナは砂粒の意味)に特徴的なもので、これは感染した細胞由来ということが分かっている。巨大ウイルスでリボソームタンパク質がみつかったのは、初めてで、これが単にまぎれこんだものか、モリウイルスの感染過程で役割を果たしているのかは不明とされている。

とくに注目されているのは、2種類の異なる巨大ウイルスが同じ永久凍土で感染性を3万年にわたって保持していたことである。地球温暖化により、太古のウイルスの出現の可能性が示唆されたのである。

 

文献

Legendre, M., Lartigue, A., Bertaux, L. et al.: In-depth study of Mollivirus sibericum, a new 30,000-y-old giant virus infecting Acanthamoeba. Proc. Nat. Acad. Sci. 2015. www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1510795112