80. ゲノム編集したマッシュルームは遺伝子組換え生物(GMO)とはみなされない

 

本連載7778回で紹介したクリスパー・キャスナイン技術を用いたゲノム編集は、食品分野にもひろがってきた。ペンシルバニア州立大学の植物病理学者Yinong Yangは、保存中に褐色になるのを防いだホワイトマッシュルームをゲノム編集により開発した。褐色化の原因となるポリフェノール酸化酵素をコードする遺伝子の一部分をホワイトマッシュルームのゲノムから除去したのである。その結果、酵素活性は30%低下した。

遺伝子を改変した動物、植物、微生物を使用する場合には、遺伝子組換え生物(GMO: genetically modified organisms)として、カルタヘナ法(生物多様性の保全のための法律)にもとづく審査が行われる。除草剤耐性遺伝子を組み込んだトウモロコシ、トマトの完熟を抑えて日持ちを長くした組換えトマトなど、多くのGMOが食品として用いられている。

GMO規制では、自然界で起こりうる遺伝子変異(ナチュラル・オカレンス)と、同一種間における DNA 交換(セルフ・クローニング)はGMOの対象外となっている。組換えマッシュルームのゲノムは一部が欠損しただけで、外来遺伝子は入っていないため、ナチュラル・オカレンスに相当する。

これまでにTALEN(Transcriptional Activator Like Effector Nuclease)やZFN(Zinc Finger Nuclease)といったゲノム編集技術で作出された米や大豆などが規制対象外とされてきたが、これらの技術は複雑だったのに対して、クリスパー技術ははるかに容易なため、GMOを管轄する米国農務省(USDA)の判断が注目されていた。

Yangは2015年10月、USDAにゲノム編集マッシュルームを申請し、2016年4月にGMO規制の対象に該当しないという回答が送られてきた。ネイチャー誌(4月14日発行)のニュースは、クリスパー技術によりゲノム編集した生物に米国政府から初めて青信号が出されたと報じている。

 

文献

E. Waltz: Gene-edited CRISPR mushroom escapes US regulation. Nature, 522, issue 7599, 14 April 2016.
http://www.nature.com/news/gene-edited-crispr-mushroom-escapes-us-regulation-1.19754