ジカウイルスに関する話題は、これまでに76回、79回、87回、98回、108回、109回と、度々取り上げてきた。ジカウイルスが注目される理由は、妊娠中、とくに初期(13週と6日)に、ジカウイルスに感染した場合に起こる先天性ジカ症候群(小頭症、石灰化、神経細胞の発達異など)である。そのメカニズムとして、ヒトのiPS細胞を分化させて作った大脳皮質の神経前駆細胞の培養でのジカウイルスが増殖して、細胞増殖に異常をもたらすことが報告されている(本連載79回)。
ワシントン大学霊長類センターでは、ブタオザルにジカウイルスを皮下接種したのち、超音波診断で胎児の発育の経過を観察した結果、脳の成長が抑えられる傾向を見いだしていた。そして、出産直前に帝王切開で取り出した胎児の組織にジカウイルスRNAを検出し、ウイルスが脳内に侵入していたことを確認していた(本連載87回)。
今回、カリフォルニア大学獣医学部のラーク・コフィー(Lark Coffey)らは、カリフォルニア霊長類センターと共同で、アカゲザルの羊膜腔内に直接ジカウイルスの接種を行って先天性ジカ症候群を再現できたことを、6月20日付けのNature Communicationsに発表した1)。
彼らは、妊娠41,50、64(初期)と90日(中期)のアカゲザル各1頭に静脈内と羊膜腔内に同時に、ジカウイルスを接種した。親のサルでは、5日目から43日までの間、ウイルスが血液中で検出されたが、症状は現れなかった。しかし、胎児は4頭とも、ウイルスが直接羊水中に投与されたことで、感染していた。妊娠41日目に接種されたサルの胎児は7日後に死亡した。胎児と胎盤の組織には大量のウイルスが検出されたことから、ウイルス感染による死亡と考えられた。ほかの3頭の胎児は分娩直前で安楽死させられた。小頭症は見られなかったが、多くの組織、とくに脳内に大量のウイルスが検出され、脳組織の石灰化が見られ、脳の前駆細胞が減少していた。
これらの変化は先天性ジカ症候群の特徴を再現したものであり、発病メカニズムや治療法の開発のための、有益なモデルになると著者らは述べている。
7月2日付けのNature Medicineには、カリフォルニア霊長類センターを中心として、6つの霊長類センターで行われた妊娠アカゲザルへのジカウイルス接種の成績が報告された。合計50頭のうち、13頭(26%)が流産し、ほかに3頭で早期新生児死亡が見られた。これらのセンターでの流産や死産の割合は4%から10.9%で、ジカウイルス感染サルの場合は、平均して4倍高い流死産率になった。母ザルでは症状は見られなかった2)。
最近の研究では、妊娠女性がジカウイルス感染した場合の流産や死産は、5.8%とされているが、これらの女性は症状を示しており、無症状の場合は含まれていない。今回のアカゲザルでの成績は、ジカウイルスによる胎児への影響は、これまで考えられていた程度よりも高いことを示唆している。
1) Coffey, L.L., Keesler, R.I., Pesavento, P.A. et al.: Intraamniotic Zika virus inoculation of pregnant rhesus macaques produces fetal neurologic disease. Nature Comm., 9: 2414. doi: 10.1038/s41467-018-04777-6. 2018.
2) Dudley, D.M., Van Rompay, K.K., Coffey, L.L. et al.: Miscarriage and stillbirth following maternal Zika virus infection in nonhuman primates. Nature Med., 02 July, 2018.