宮崎の口蹄疫は連日大きく報道されています。なぜ、このような大発生になったのか、これからの検証を待たなければなりませんが、もっとも基本的な問題点は日本国内で口蹄疫に関する認識があまりにも低かったことと考えています。口蹄疫による大きな被害は諸外国で何回も起きています。OIE加盟の176カ国・地域で口蹄疫が発生していない清浄国は50数カ国と1/3に過ぎません。グローバル化した社会では、口蹄疫の侵入リスクは増加しています。しかも中国や韓国では口蹄疫の発生が続いており、日本でもいつ、どこで発生しても不思議ではありません。
私は口蹄疫の専門家ではありません。しかし、口蹄疫とならんでもっとも危険な家畜伝染病の牛疫の研究をライフワークとして行ってきました(生命科学雑記帳11,12)。私たちが開発した遺伝子組み換え牛疫ワクチンの牛での実験は、1990年代に英国動物衛生研究所パーブライト支所(Pirbright Branch, Institute for Animal Health)で行われたのですが、ここはOIE口蹄疫レファレンス・センターとして口蹄疫の研究と対策に関する世界的中心になっているところです。毎年の訪問を通じて同じ研究室で口蹄疫研究者とも深い交流を持ってきました。
もともと口蹄疫は家畜伝染病の専門家にとってもっとも重要な存在であって、私も長年にわたって関心を抱いてきました。そして、断片的ですが口蹄疫についてこれまで下記の著書や予防衛生協会が運営する霊長類フォーラム「人獣共通感染症」(96回、99回、116回)で紹介してきました。
今回、あらためて口蹄疫に関するさまざまな話題を連載として取り上げ、正しい知識を伝えたいと考えています。なお、この連載は現在までに私が集めた資料をもとに始めるもので、新しい資料などが見つかることで、追加修正も随時行っていくつもりです。
また、この連載では家畜の場合には伝染病の用語を用います。本来、人でも昔の伝染病予防法の名称に見られるように、伝染病の用語が普通に用いられていましたが、伝染病としてのハンセン病における人権侵害などへの反省から1991年に制定された感染症法をきっかけに人では伝染病の名前が消えていきました。しかし、家畜の場合は家畜伝染病予防法のように伝染病の用語が普通に用いられています。人でも世界保健機関(WHO)では伝染病(communicable disease )の用語を用いています。
参考書
エマージングウイルスの世紀。河出書房新社、1997
忍び寄るバイオテロ。日本放送出版協会、2003
地球村で共存するウイルスと人類。日本放送出版協会、2006
史上最大の伝染病牛疫—根絶までの4000年。岩波書店、2009
修正
英国動物衛生研究所パーブライト支所(Pirbright Branch, Institute for Animal Health)の正式名称はPirbright Laboratoryであって支所ではありません。動物衛生研究所・パーブライト研究所というべきですが、長すぎるのでIAHパーブライト研究所に変更します。