(11/14/99)
結核は代表的再興感染症として日本を含めて世界各国で対策が進められています。 CDCでは1989年に新しいレベル4実験室が完成したのを契機に、それまで使用していたレベル4実験室を薬剤耐性結核菌の研究用に転用しました。
ところで、私は9月末に英国家畜衛生研究所Institute for Animal Health (IAH)を訪れた際に、英国でウシの結核が広がっていて、しかもその原因は野生タヌキであるという話を聞かされました。 IAHの免疫研究部は部長のアイヴァン・モリソンIvan Morrisonのもと、ウシの免疫学では世界のトップとみなされています。 ここでウシの結核が最重要の研究課題になり、とくにウシに対する結核ワクチン開発をめざした研究が進められていることを今度初めて知りました。 細菌は私の専門ではありませんが、野生動物からの再興感染症の典型的な例として、IAHの資料をもとに英国でのウシの結核の現状についてご紹介します。
1930年代には英国では乳牛の約40%がウシ型結核菌に感染しており、そのうち0.5%の牛乳が菌に汚染されていました。このような牛乳を飲んだり、保菌ウシとの接触で年間2,000人が結核に感染して死亡していたと推定されています。
牛乳の殺菌と、新しい方式によるツベルクリン検査で陽性と判定されたウシの殺処分によりウシの結核は1962年から1980年代初めまで減少傾向を示していました。 しかし、その後増加するようになり、現在ではツベルクリン陽性ウシが毎年約700の群で見いだされています。 原因ははっきりしませんが、とくにイングランドの南西部に多くみられています。
昔からアナグマは結核菌の保有動物らしいと言われてきました。 英国農漁業食糧省の資料によれば検査した4%のアナグマでウシ型結核菌が見いだされています。 なお、ほかの野生動物ではミンク(0.6%)、シカ(1.0%)、キツネ(1.1%)、モグラ(1.2%)、ラット(1.2%)、フェレット(3.8%)という結果です。
1970年代には毒ガスでアナグマ退治が試みられたことがあります。 これで最初のうちはウシの結核が減少しましたが、その効果は一時的であってすぐに増加してしまいました。 この方法は非人道的と判定され、また1986年にアナグマが保護動物に指定されたため、中止されました。
現在英国でのアナグマの数は75%増加し、一方ウシの結核は5倍に増加しています。 アナグマからの感染であるというはっきりした証拠はないようですが、一番可能性が高いものと疑われています。
この問題解決のために政府委員会から勧告されたのがウシ用の結核ワクチンの開発です。 IAHのニュースの見出しには「英国農業の第2の大きな問題としてのウシの結核」と書かれています。 IAHはウシ海綿状脳症の研究の中心にもなっているところですが、結核がウシ海綿状脳症の次の重要課題とみなしているのです。