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本講座第75回で詳細を述べましたが、1997年に米国のヤーキス霊長類センターでサルの排泄物が眼に飛び込むという単純なことで研究者がBウイルスに感染して死亡しました。 これがきっかけで、Bウイルスへの関心が米国や英国でも高まっています。 米英ともにサルの輸入は医学研究用と動物園展示用だけが許可され、ペットサルの輸入は禁止されています。 もっとも米国ではペットサルの輸入禁止の法律が施行された1975年以前に輸入されたサルがペットで飼育されており、なかには密輸のものも含まれているようです。 CDCではペットサルでのBウイルスを重要な問題ととらえています。
ところで、1週間ほど前に英国で動物園で飼育されているサルのBウイルス感染について、ショッキングな出来事がありました。 重要ですが、一方で非常にデリケートな問題を抱えている内容です。 判断を下した人たちがおどれだけBウイルスの実態を理解していたのか疑問がありますが、ここではコメントは控えて事実関係のみをまとめてみます。 あわせて昨年米国で起きた出来事もご紹介します。
なお、Bウイルスについての総論は本講座第86回をご参照ください。
1. 英国のサファリパークでのアカゲザルの殺処分
イングランド中部のウオバーンWoburnサファリパークに飼われているアカゲザルでBウイルス感染がみつかり、先週の金曜日に215頭が射殺されたというニュースが英国で大きな話題になっているようで、ProMedでも最初はロイター通信のニュースが、続いてウオバーン動物園の関係者からの情報が紹介されています。
ヤーキスでの感染例がきっかけで英国ではBウイルスの危険性があらためて見直され、危険病原体諮問委員会Advisory Committee on Dangerous Pathogens (ACDP)は、これまでの病原体分類レベル3であったBウイルスをレベル4に格上げしました。 Bウイルス感染が深刻にとらえられるようになったことから、この動物園のモンキージャングルのサルについてBウイルス抗体検査が自主的に実施されたのです。 その結果は11頭が陽性で、かなり高い抗体価だったとのことです。 これらのサルは26年間にわたって閉鎖環境で飼育されてきたため、ほかのサルが感染を受けていないとは考えにくいという見解が中央公衆衛生局から示されました。
そこで、8エーカー(約320アール)のモンキージャングルは一般の人の入場が禁止され、飼育管理の人たちだけが防護服(オーバーオール、手袋、マスク、ゴーグル)をつけた上で入ることが許されました。 その上で、サファリパークのライセンス機関や保健省の危険病原体専門家に相談を行いました。 1998年の保健省の「サル類を使用する際のガイドライン」にもとづいて検討した結果、取りうる対策は2つのみということになりました。 すなわち、1.動物を捕獲してレベル4動物室のあるセンターに送ること、2.動物を殺処分することです。
英国のレベル4動物室はポートンダウンにある国防省のものだけです。 しかも、モンキージャングルはサファリパークでもっとも人気のあるところで、20年以上も飼育されているサルもいて、すべてのサルに名前が付けられています。 このような状況で第1のオプションは実行不可能でした。 残るオプションは殺処分しかありませんでした。 殺処分の方法を検討した結果、餌に毒を入れる方法はいろいろな障害があること、捕獲して薬殺することは動物福祉に反することなどから、サイレンサー銃での射殺ということになりました。 音がしないことからサルはほとんど気がつかず、サルの間でパニックも起こらず、215頭の射殺は3時間以内で終わったとのことです。
2. 米国動物園でのサルによる咬傷
Gardenで観客がシシオザル(インド産のマカカ属サル)に人差し指を咬まれる事件が起こりました。 咬んだサルは特定できず、ランダムに選んだ2頭のサルについてBウイルス抗体を調べたところ陽性でした。 その後、咬まれた人についての情報はありません。 もしも発病でもすれば必ずProMedなどで報告されるはずですので、感染はしなかったと考えられます。 一方、動物園では飼育員は安全確保のためにマスク、ゴーグル、手袋を着用するようになったそうです。