動物が成長するにつれて体の大きさやプロポーションが変化するのは当然ですが、生体を構成する成分、たとえば血液生理値や化学値も変化します。
血液の成分値については牧場や実験動物のブリーダーで定期的な臨床検査のために計測されていて、その量は膨大なものとなります。
これらの検査値は始めから成長解析する目的で集められていませんから、疾病、異常の有無さえチェックすれば後はせいぜいノーマルデータとなるだけです。
たとえば、ある動物種(品種、系統)の1ヶ月齢のデータは50個体分、2ヶ月齢では1ヶ月齢時とは異なった個体が60例、3ヶ月齢のデータは一つもなく、4ヶ月齢のそれは1、2ヶ月齢の個体をそれぞれ含んでいて65例、……というようなものが多いのです。
つまり、縦断的なデータ(時系列解析が適用できる)ともいえず横断的データともいえないような構成をしています。
このようなとき、多くは横軸に月齢、縦軸に生理、生化学値をとってその平均値と標準偏差をプロットするのがふつうです。
血液の生理、生化学値だけでも30項目位あり、その多くは生体内で相互に関連しあっていてその結果項目間に相関関係がみられます。
多変量アロメトリーの項でのべましたように、このような場合には相関関係を生じている「根」に相当する要因を少数個抽出する主成分分析をそのデータに適用するのが最適です。
相関がないのなら、個々に項目を検討できます。
TPCでは、飼育室の温、湿度はもちろん餌の組成、成分等、極めて厳密なコントロール下で飼育された各種サル類の臨床血液学および生化学的データが蓄積されています。
私は吉田博士と共にこれらのデータに主成分分析を施したことがありますが、各主成分の寄与率が小さくて、さらにそれらの生物学的な意味づけも困難でした。
そこで、私どもは各年(あるいは月)齢別にデータを区分して正準判別分析(次元の減少を伴う判別分析)を適用したところ、抽出された正準変量の寄与率も大きく2つの正準変量(第1~第2)で十分な情報が得られること、および各正準変量の生物学的な意味づけも可能であることを認めました。
そして、各年(月)齢別の正準スコア(全個体について算出される)の平均値(重心)と信頼楕円を第1-第2正準変量面にプロットすることで成長に伴って変化する項目を検出することができました。
ここで検出された項目は、くどいようですが、測定項目間の相関関係を考慮した結果のものです。
これまで、複雑なダイナミカルシステムである成長現象の解析に実験動物がどのように役立っているかをのべてきましたが、実際に私共が入手できるのはここでのべたようなデータが多いと思います。
このようなデータに多変量解析を適用して成長解析する方法をもっと具体的に解説するつもりでおりました。
貴重なフォーラムに私的なことを流して申しわけありませんが、私は、今、ウルグアイに来ています。
JICAのウルグアイ獣医研究所強化計画プロジェクト(チームリーダー井上忠恕博士)の一員として1月23日より7月22日まで首都のモンテビデオにいることになりました。
当研究所の実験動物施設と動物を改善し、各種検定、研究の精度、再現性を向上させるのが任務です。
結構忙しい上に、成長に関する具体例をもとに説明するための資料が手元にありませんので、この辺で私の講座を終了させていただきたいと思います。
あまり霊長類と関係ないことばかり述べて申しわけなく思っています。
長い間有難うございました。
終わりに、当講座を開かせていただいたTPC所長の吉川泰弘博士をはじめ、いろいろお世話いただいた吉田高志博士、田中佐絵子さん、ワープロに入力して下さった椎名京子さん、フォーラムを担当する坂本道代さんに心から感謝致します。