新型コロナウイルス感染が収まった後、欧米を始め日本でも、ヒトパルボウイルスB19(以下B19ウイルス)感染によるリンゴ病の発生の増加が注目されている。B19ウイルスは、1975年英国のY.E. コッサートが献血者の血液についてB型肝炎ウイルスの有無を検査している際に、偶然見つかった (1)。電子顕微鏡で調べると20〜25ナノメートルの正20面体の粒子で、イヌやネコのパルボウイルスに似ていたことから、当初はパルボウイルス様粒子と呼ばれていたが、1985年国際ウイルス命名委員会によりパルボウイルスB19と命名された。パルボはラテン語で「小さい」意味のparvumに由来する言葉で、B19は検査試料の単なる番号である。B19ウイルスは、一本鎖DNAウイルスで、パルボウイルス科のエリスロウイルス属に分類されている。なお、イヌパルボウイルスとネコパルボウイルスはパルボウイルス属である。
B19ウイルスは世界的に広がっていて、抗体は1〜5歳で2〜15%、6〜19歳で15〜60%、成人で30〜60%、高齢者で85%に検出されている。無症状感染で終わる場合も多く、発病した場合の特徴的な症状は頬の発疹で、伝染性紅斑(一般にはリンゴ病)、英語ではslapped cheek disease(平手打ちされた頬の病気)と呼ばれている。発疹を起こす病気として、麻疹の第1病、猩紅熱の第2病、風疹の第3病、デューク病の第4病に次いで第5病とも呼ばれている。
ウイルスは患者の唾液の飛沫により伝播される。体内に侵入したウイルスは、喉で増殖した後、主に骨髄中の赤血球前駆細胞(赤血球になる前の未熟な細胞)で増殖する。1985年、英国で40〜50歳代のボランティアで行われた感染試験の成績を中心に臨床経過を整理してみる。鼻からウイルスを接種してから、4、5日目に血液中にウイルスが出現する(ウイルス血症と呼ばれる)。ウイルスDNA量は、8日から10日目頃にピークとなり、1 ml中に10 億コピー(1011/ml)に達する。その後、急速に減少して、16日目頃までに消失する。この一過性のウイルス血症と平行して、発熱、悪寒、筋肉痛、かゆみといった症状が出現し、呼吸器からウイルスが排出される。17ないし18日目、ウイルスが血液中からほとんど消失した頃から、かゆみとともに発疹(リンゴ病特有の症状)が現れ、22日目までに消失する。発疹は免疫反応のひとつ、遅延型過敏反応によると考えられている (2)。
B19ウイルスは一般に軽症であるが、妊娠中の女性が感染した場合、胎児にウイルスが伝播され、胎児貧血、胎児水腫、さらに流産や死産を起こすおそれがある。白血病、エイズ、臓器移植や化学療法などで、免疫機能が低下した人では、ウイルス感染により骨髄が冒されて、激しい貧血になることがある。
最近、心臓疾患との関連が注目されている。B19ウイルスによる心臓疾患が指摘されたのは1993年で、それ以来、心臓疾患との関連を示唆する報告がいくつか発表されてきた。2024年には、心臓移植や補助人工心臓使用の際に採取した微量の心臓組織からB19ウイルスDNAを検出したことが報告された(3)。2024年11月には、イタリアで10ヶ月の間に起きた小児の急性心筋炎65例のうちの32例がB19ウイルスに感染していたことが報告された(4)。
B19ウイルスには3つの遺伝子型がある。英国ケンブリッジ大学病原体進化センターのバーバラ・ミュールマンらは、ユーラシアとグリーンランドに500年前から6900年前に死亡した10人の遺骸の骨と歯からB19ウイルスのDNAのコード領域の大半を回収して、系統樹を解析した。その結果3つの遺伝子型のウイルスの共通祖先ウイルスは1万2600年前に存在していたと推測された(図)。ヒトは有史以前からB19ウイルスに感染していたことになる(5)。
1. Cossart, Y.E. et al. : Parvo-like particles in human sera. Lancet, 1, 72-73, 1975.
2. Anderson, M.J. et al.: Experimental parvoviral infection in humans. Journal of Infectious Diseases, 152, 257-265, 1985.
3. Badrinath, A. et al.: Analysis of parvovirus B19 persistence and reactivation in human heart layers. Frontiers in Virology, 4, 2024. https://doi.org/10.3389/fviro.2024.1304779
4. Poeta, M. et al.: Outbreak of paediatric myocarditis associated with parvovirus B19 infection in Italy, January to October 2024. Eurosurveillance, 29, 48, 28/Nov. 2024. https://www.eurosurveillance.org/content/10.2807/1560-7917.ES.2024.29.48.2400746
5. Mühlemann, B. et al.: Ancient human parvovirus B19 in Eurasia reveals its long-term association with humans. Proceedings of National Academy of Sciences, 115, 7557-7562, 2018.