SFTSはSever fever with thrombocytopenia syndrome(重症熱性血小板減少症候群)の略称である。この病気は2009年、中国の湖北省と河南省の農村地域で初めて確認された。2010年には、ウイルスが湖北省の患者から分離され、SFTSウイルスと命名された(1)。2012年には韓国と日本でも相次いで症例が報告された。
SFTSウイルスはL (large), M (medium), S(small) の3つの分節から成る一本鎖RNAウイルスで、ブニヤウイルス目に属する。2024年、中国、韓国、日本で分離されたウイルスのゲノムについて進化速度を調べた研究により、SFTSウイルスは1617年〜1790年頃に韓国で出現した可能性が高いと推測された(2)。
ヒトがSFTSウイルスに感染すると、潜伏期は5 ~ 14 日 (平均9日)で、発熱、血小板減少、消化器症状、血清肝臓酵素の上昇などが認められる。発病後5~11 日(平均9日)の発熱期に血中ウイルス量はピークに達し,重症例では血液1 ml中に108から1010感染単位まで上昇する。病態が進行すると、播種性血管内凝固症候群(DIC)や血球貪食症候群が進行し、多臓器不全に至り死亡する。生存例の多くは発症 8 ~ 14 日目頃から血中ウイルス量が減少に転じ,回復期に向かう。死亡率は平均12%、地域によっては30%に達することもある(3, 4)。血中のウイルス量が最高値となる発病6日前後がほかのヒトへの伝播リスクがもっとも高く、1 mlあたりウイルスRNAのコピー数が107以上になると、死亡リスクが高くなる(5)。
SFTSウイルスは、マダニで卵巣を介した垂直感染で持続している。森林では、ドブネズミなどの齧歯類、トガリネズミ、ハリネズミ、イノシシ、シカ、アライグマなどから抗体やウイルスが検出されていることから、これらの動物が保有宿主または増幅動物となっていると推測されている。日本ではイノシシとシカでも抗体が検出されている。
マダニでは、SFTSウイルスは病原性を示さないか、または低いと考えられている。ウイルスはマダニの中腸上皮細胞で増殖し、血球(赤血球、白血球、血小板に相当する)と血リンパ(血管系内の体液と体腔内の体液が混ざり合った液体)を介して全身に広がる。唾液腺に達したウイルスが吸血時に宿主へ伝播される。ウイルスは、野外で採取したあらゆるステージのマダニ(幼虫、若虫、成虫)で検出される。脱皮後の抜け殻からも、感染性を持っている確証はないが、ウイルス抗原やRNAが検出される。ウイルスは介卵伝達により数世代にわたって伝達される。これらの性質から、常在地では数年にわたってウイルスが検出される。マダニはSFTSウイルスの保有宿主と媒介役の両方をつとめていることになる。
ネコとイヌは伴侶動物として、直接ヒトに感染を引き起こし得る潜在的増幅動物とみなされている。ネコにおける実験感染では、発熱、白血球減少、血小板減少が認められ、60-70%の高い死亡率が報告されている。ウイルスは唾液、眼やに、尿、糞便に排出され、ヒトへの感染源になり得る。(6)
イヌでも実験的に感染が成立するが、一般に症状は軽度、または無症状である。中国、韓国、日本などの常在国では5-20%のイヌに抗体が検出され、自然感染が起きていると考えられる。イヌではウイルスの排出量は少なく一過性と考えられるが、イヌからヒトへの感染例が日本と韓国で確認されている(7, 8)。
21世紀に入り、重症急性呼吸器症候群(SARS)や高病原性トリインフルエンザの出現を契機として、One Healthの重要性が提唱されるようになった。これは、ヒト・動物・環境の健康が、相互に密接に関連しているという理念であって、包括的な取り組みが不可欠である。SFTSウイルスは野生動物・家畜・ペット・ヒト・マダニ生態環境にまたがる管理が必要であり、まさにOne Healthアプローチが求められる典型的な病原体である。
文献
1. Yu, X.-L. et al. Fever with thrombocytopenia associated with a novel bunyavirus in China. New England Journal of Medicine , 364:1523–32 (2011)
2. Sang, S. et al.: The classification, origin, and evolutionary dynamics of severe fever with thrombocytopenia syndrome virus circulating in East Asia. Virus Evolution, 10 (1), veae 072 (2024).
3. Saito,T. et al.: Severe fever with thrombocytopenia syndrome in Japan and public health communication. Emerging Infectious Diseases, 21, 487-489 (2015)
4. Li,J. et al.: Concurrent measurement of dynamic changes in viral load, serum enzymes, T Cell subsets, and cytokines in patients with severe fever with thrombocytopenia syndrome. PLos One, 9(3): e91679 (2014)
5. Yang, Z.-D. et al. : The prospective evaluation of viral loads in patients with severe fever with thrombocytopenia syndrome. Journal of Clinical Virology, 78, 123-128 (2016)
6. Park, E.-S. et al.: S. Severe fever with thrombocytopenia Syndrome phlebovirus causes lethal viral hemorrhagic fever in cats. Scientific Reports, 9: 11990 (2019)
7. Oshima, O. et al.: A patient with severe fever with thrombocytopenia syndrome )SFTS) infected from a sick dog with SFTS virus infection. Japanese Journal of Infectious Diseases, 75, 423-426 (2022)
8. Kim, U.J. et al.: Severe fever with thrombocytopenia syndrome acquired through dog bite, South Korea. Emerging Infectious Diseases, 31, 1680-1682 (2025)
