ザイールのエボラ流行についての中間報告がCDCより発表されましたので、全文をご紹介します。 ザイール政府、WHO、CDC、ザイールの元宗主国ベルギーのプリンスレオポルド熱帯医学研究所(1976年のエボラ流行の際には中心的役割を果たしたところです)、パリの疫学センターなどの連名ですので、かなり公式のものとみなせます。 かっての流行の際には混乱していて、疫学的解析はほとんどできませんでした。 今回の成績は非常に貴重です。 出血徴候が半数以下の患者という成績も注目されます。 また、ホルマリン固定サンプルでの試験法の可能性が示されたことは、今後の対策で重要です。 ホルマリン固定によりウイルスは死滅していますので検査は安全に行えますし、またサンプルの輸送、保存もコールドチェーンなしで行える利点があります。 このような方式はエボラウイルスに限らず、危険な海外伝染病(家畜伝染病も含めて)全般の対策で役立つはずです。 |
CDC Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR) 44, No. 25 (June 30, 1995) |
ザイールでのエボラ出血熱流行の最新情報 |
6月25日現在、キクウイトの市内および周辺のバンダンドウ地域でのエボラウイルス感染によると報告されたウイルス出血熱患者は疑似を含めて296名。 79%が致命的で、職業は判明した283例のうち90例(32%)が医療従事者であった。 本報告は最初の発生からの患者の特徴と伝播の危険因子についてのこれまでの知見をまとめたものである。 キクウイトまたはバンダンドウ周辺で最初にウイルス性出血熱が確認または疑われた例は1月1日にさかのぼる。 患者の平均年令は37才(1カ月〜71才)で、52%が女性。 データが得られた66例についての解析で、もっとも頻繁に見られた症状は発熱(94%)、下痢(80%)、はげしい衰弱(74%)で、ほかの症状としては嚥下困難(41%)、しゃっくり(15%)。 出血徴候は38%の例で見られた。 家族内での伝播の潜在的危険因子についての解析は5月10日から確認された27例の1次感染患者の家族での2次感染例について行われた。 この場合、1次感染者が発病した時に一緒に料理を行っていた人を家族の一員とみなした。 27例の1次感染家族の173名のうち、2次感染例は28名(16%)であった。 1次感染家族の夫婦間での発病の危険性(22例中10例〜45%)はほかの家族間の場合(151例中22例〜18%)よりも高く(3.8倍)、おとな(18才以上)の方が子供よりも高かった(81例中24例〜30%に対して92例中4例〜4%;6.7倍)。 発病前2週間の間に注射や外科処置を受けた例は27例の1次感染家族のうち2名、28例の2次感染例では0であった。 28例の2次感染患者のうち、12名は入院中の病人(すなわち病気が進行した時期)の血液、吐物、糞便に直接触れたことがあった。 1次感染家族と直接の物理的接触がなかった78の家族では発病者は0であった。 報告者:M. Mosong厚生大臣、キンシャサ;T. Muyembeキンシャサ大学教授;ウイルス性出血熱科学技術国際調整委員会Technical and Scientific International Coordinating Committee for Viral Hemorrhagic Fever, キクウイト;WHO, ブラザビル、コンゴ;WHOジュネーブ;国境の無い医療Medecins Sans Frontieresベルギー;疫学センターEpicentre、パリ;プリンスレオポルド熱帯医学研究所アントワープ、ベルギー;CDC。 |
編集後記 |
キクウイトのエボラウイルスに関連したウイルス性出血熱の発生は 1) 医療および救援要員に対する防護器材の適切な使用法についての訓練、2) 積極的な症例の摘発、3) 一般市民の教育(パンフレットおよび広報)による防止対策で減少した。 しかし、発生は続いており、それぞれが新しい感染源になるおそれが残っている。 それゆえ、強力なサーベイランス、訓練活動、大衆教育などの継続が必要である。 予防と制圧を効果的に実施するためには迅速な実験室診断が重要である。 最初にCDCに送られてきた急性患者13名中、11名からELISAによりエボラ抗原が検出された。 その後送られてきたサンプルについて現在進行中の試験により、ELISA が現地でも使用可能な急速診断法となることが確かめられるであろう。 エボラ抗原は7例の患者のフォルマリン固定したいくつかのサンプル(肝臓、肺、皮膚)で特異的ポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学染色により検出された。 この結果は固定組織の免疫組織化学染色がアフリカなどの地域での出血熱のサーベイランスの役に立つことを示唆している。 ほかの活動としてはウイルスの自然宿主をみつけるための生態学的な研究がある。 ここではとくに哺乳動物、哺乳類以外の脊椎動物と節足動物に重点が置かれている。 医療従事者と介護者への伝播は今回も、またかってのラッサ熱、マールブルグ病、エボラ出血熱、クリミアコンゴ熱のアフリカでの流行の際の特徴であった。 ある場合には病院内での患者間での伝播が消毒していない注射針や注射器の再使用により起きた。 過去の流行の場合と同様に、患者の血液、その他の体液、吐物、尿、糞便への接触を防止する適切な対策を取らずに看護にあたった医療従事者と家族への感染が今回も高率に起こった。 今回の観察の結果、嘔吐、下痢、ショック、出血などの症状を特徴とする病気の後期に患者からの感染の危険性がもっとも高いと考えられる。 しかし、発病後2〜3日の間だけ、家の中で患者に接触した家族での少数の感染例も報告されている。 |