上記の本を出版しました。ふたばらいふ新書(双葉社)です。基本的には、これまでの本講座のダイジェスト版です。ご参考までに目次とあとがきを紹介させていただきます。 |
「目次」 |
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「あとがき」 |
最初にウイルスが発見されたのは、19世紀が終わろうとしていた1898年、牛の急性伝染病の原因である口蹄疫ウイルスとタバコ産業に大きな被害を与えているタバコモザイクウイルスについてである。ウイルスの研究は20世紀とともに始まった。 当初、ウイルスの存在は動物に病気を起こすことだけで確認されていた。1950年代になって試験管内で培養した細胞での研究が可能になり、ウイルス学の新しい展開が始まった。私がウイルスの研究の世界に入りこんだのは、ちょうどその時期だった。それから半世紀の間にウイルス学は著しく進展したが、病気の原因としてのウイルスについての関心は薄れていき、遺伝情報を担った生命体のモデルとしてのウイルスそのものの研究の方が盛んになっていった。 ところが、1968年のマールブルグ病を初めとして、動物からの、いわゆるキラーウイルス感染が相次いで起こるようになり、病原体としてのウイルスへの関心がふたたび高まってきた。私の半世紀にわたるウイルスの研究は、これらの新しいウイルス感染の出現に直接または間接的にかかわるものとなった。 1995年から私は研究仲間に勧められて、一般読者を対象としたインターネットによる連続講座「人獣共通感染症」を開き(URL: http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/prion.html)、続々と現れてくる動物由来感染症の話題をとりあげることになった。これは2000年夏には200回を越え、私自身にとっても大きなデータベースになってきた。読者からは本にまとめてはどうかという声が寄せられるようになってきた。 そのような時期に、双葉社の杉山浩氏からウイルス感染症に関する一般向けの解説書の執筆を依頼されたのを機会に、動物由来のキラーウイルスについてまとめることにしたのである。執筆にあたっては、なるべく私自身がかかわった出来事を含めるように努めた。 本書の表題のキラーウイルスという名称を私はあまり好きではない。しかし、キラーに変えているのは実は現代社会であり、人間の側である。その点を強調する意図も含めて、あえてこの名称を採用した訳である。このような視点が、21世紀に我々が間違いなく直面するウイルスとの共生の問題に何らかの警鐘となれば幸いである。 |