長崎大学の佐藤先生から流されたニュースですでにご存じの方も多いと思いますが、PROMEDから以下のニュースが送られてきました。 大変興味ある結果ですので、全文をご紹介します。 |
筆者はピーター・ヤング Peter Yound でオーストラリア、ブリスベーンの一次工業省、動物研究所のプロジェクト・リーダーとなっています。 なお、この内容は彼の見解であって、クイーンスランド一次工業省の見解を必ずしも述べたものではないと断ってあります。 クイーンスランド一次工業省 Queensland Department of Primary Industries (DPI) のチームによる馬モービリウイルスの宿主調査の結果、これに関連したウイルス(コーモリ・パラミクソウイルス)が果物を餌とする(fructivorous9コーモリ Pteropus種(この和訳をご存じの方はお教え下さい)の4種のうち、2種に存在する証拠が、約20%の抗体の存在から、明らかにされた。 ほかの2種については、これまでのところサンプルが十分でないので、抗体の有無についてはまだ分からない。 現在のところ、これらの動物で病気との関連はみつかってなく、またコーモリと長い間接触のあった人での病気との関連もみつかっていない。 馬モービリウイルスは人と馬の致死的感染に2回かかわっている。 最初は1994年8月にクイーンスランド沿岸のマッケイで起きた。 2頭の馬が感染して激しい急性の症状の後に死亡した。 ひとりの人に感染が明らかに起こっており、再発性の脳炎となり約12カ月後に死亡した。 (本講座第22回参照)。 第2の例は1994年9月にマッケイの南約1,000キロのブリスベーンで起きた。 この際には21頭が感染し、そのうち14頭が死亡または殺処分された。 感染は2名の人に起こり、そのうち1名が短期間で死亡した。 ブリスベーンの2頭の馬からは1株のパラミクソウイルスが我々の研究所のベリイ・ロッドウエル Barry Rodwell により分離された。同一のウイルスがオーストラリア動物衛生研究所 Australian Animal Health Laboratory (AAHL)から分離され、その後、馬モービリウイルス (Equine morbillivirus: EMV)と記載された(Murray et al. 1995)。 (本講座第1回参照)。 強力な調査にもかかわらず、これら2つの事件の間に関連は見いだされなかった。 AAHLでの研究によりブリスベーンとマッケイの事件で馬から分離したマトリックス遺伝子のPCR産物は同一であった(Murray et al. 1995; Hooper et al. 1996)。 もっと大きなゲノム領域を調べることが望ましいが、この結果は両事件が同じウイルスによることを示している。 考えられる自然宿主についてDPIでは調査対象の動物種として次のような条件を優先的にあてはめた。
コーモリに焦点をあてる一方、家畜と野生動物での血清学的調査にもかなりの時間と労力をかけた。 今日までに46種、5,264血清が調べられ、その中には34種の野生動物からの263サンプルが含まれている。 これらの動物のいずれにもEMVの抗体の証拠はみつからず、この感染が稀であることが示唆された。 これに反して、果物を餌とするコーモリの比較的少ないサンプルをテストした結果、約20%に抗体が見いだされた(55サンプルを調べたうち11が陽性)。 血清試験は AAHL のポール・セレック Paul Selleck が開発した ELISA で調べられ、さらに彼により中和試験でも確認された。 さらに情報が集まるまで、このコーモリのウイルスはパラミクソウイルスと呼ばれるだろう。 私の意見では、馬モービリウイルスの名前は、次の理由からいずれ変えなければならないだろう。
どうしてコーモリのパラミクソウイルスが馬や人など、ほかの動物種に飛び込んだのか、その推理ではふたつのウイルスが関連しているという前提が必要である。 ひとつの可能性は、ブリスベーンとマッケイでの馬の感染が非常に異常な出来事の後に起きたに過ぎないということ、または、コーモリのウイルスが馬に対して強い病原性を示すようなものに変わったことが考えられる。 それとも両方の条件が必要だったのかもしれない。 もうひとつの可能性は、馬の感染はコーモリ由来の別の薬を注射した後に起きたに過ぎないということである。 そのほかになお、まだ見つかっていない宿主がいる可能性もある。 我々の次の任務は、なるべく多くの場所の多くの動物種からウイルスを分離して、コーモリでの自然感染の状況を明らかにすることである。 自然宿主でのこのウイルスの行動がもっと明らかになれば、ほかの動物種にどのようにして感染が起きたのかを調べる作業仮説が可能になるだろう。 Hooper, P.T. et al. (1996) Autstralian Veterinary Journal, In press Murray, P.K. et al (1995) Science 268, 94. エボラウイルスの自然宿主探しが難航している一方で、今回の成果はきわめてエキサイテイングでかつ、すばらしいものと思います。 |