第19回集団遺伝学講座

安田徳一{YASUDA,Norikazu}


 

7.3.2 選択値とマルサス径数との関係

 世代の飛び飛び模型と連続模型はいずれも現実の抽象化であり、それぞれ長所と短所がある。飛び飛び模型は1年生植物のような不連続な世代構造をもつ生物集団の取り扱いによく、遺伝子頻度の変化を求める公式は数学でいう(非線型)差分方程式である。とくに分母のwがやっかいで、特別の場合を除きこれを解析的に解いて任意の世代の遺伝子頻度を与える公式を求めることはできない。しかし、数値計算は容易に行えて、とくに電算機で初期頻度と選択値を設定して演算を繰り返すことで、各世代の遺伝子頻度を求めるのは容易である。

一方、ヒトの集団のように生殖、出産および死亡が1年の四季を通じて絶えず起こる場合には連続模型がよい。遺伝子頻度の変化を与える公式も1階の(非線型)微分方程式であるが、分母にwに相当するものがなく、微積分の技法を使うことができるから解析的な扱いが容易になる。前節で述べたように遺伝子頻度がある値から別の値となるまでに要する世代数は選択係数sに反比例するという性質が導かれることは一つ重要なことである。

モデルの扱いで数学的にはこのような相違があるが、一般に実際の進化の過程はたいへんゆっくりで(sが小さい)、飛び飛び模型で得られた差分方程式を微分方程式で近似することができる。また連続模型で、時間の単位を1世代の平均の長さ、すなわち、平均生殖年齢にとると便利である。ヒトではほぼ25〜30年である。通常、選択についての問題をこれら二つの模型で解を求めると、結論に本質的な相違がでることはまずない。とくに自然集団における進化の問題を扱う際には、選択係数が小さく、したがって変化の過程は一般にゆっくりで、しかもwはほぼ1とみなしてもよいので、差分方程式と微分方程式の相違はなくなる。

おおまかにいえばマルサス径数aは選択値wの自然対数ln(w)に等しい。これはマルサス径数が集団個体数の指数関数的増減率に対する寄与として定義されていることからも明らかである。

 

7.3.3 特別な場合についての変化の過程

7.3.1節と若干重なるところがあるが、ここで変化を与える公式をまとめておく。

 

a.相互優性の場合:ヘテロ接合の適応度が両ホモ接合の平均となる場合で、飛び飛び模型についていえば

w12=(w11+w22)/2

となる。選択値を選択係数をもちいて表わすと、

w11=1, w12=1-s/2, w22=1-s

したがって集団適応度は

w =p2+2pq(1-s/2)+q2(1-s)
  =1-sq

G1遺伝子の1世代あたりの頻度変化を与える公式は

Δp=sp(1-p)/{2(1-s(1-p)}

これを微分方程式で近似する(弱選択で連続模型)と

dp/dt=sp(1-p)

初期頻度をp0として、ここでロジット変換

z=In{p/q}

を行うと

zt-z0=st

が得られる。これを遺伝子頻度で表わすと

pt=1/[1+{(1-p0)/p0}e-st]

となる。

 

b.完全優性の場合:w11=w12=1,w22=1-s, w=1-sq2だから

Δp=sp(1-p)2/{1-s(1-p)2}

連続模型では dp/dt=sp(1-p)2

ここで z=ln{p/q}+1/q

なる変換を行えば

zt-z0=st

となり、この一次式についての回帰分析でsを推定することができる。

s=1の場合はすでに前節で述べた。

 

c.超優性の場合:ヘテロ接合体の適応度が両ホモ接合体のいづれより適応度が高いとき、これを超優性over-dominanceという。この場合適応度はG1G2を基準にして測る。すなわち、

w11=1-s1,w12=1,w22=1-s2

ただしs1>0,s2>0とする。G1遺伝子の世代あたりの変化を表わす公式は

Δp=(s1+s2)pq(pe-p)/{1-s1p2-s2p2}

および

dp/dt=(s1+s2)pq(pe-p)

ここで pe=s2/(s1+s2)はG1G1とG2G2の両ホモ接合体の選択が釣り合ったときのG1遺伝子の平衡頻度である。すなわち選択圧のみで平衡多型が生じる。上記の微分方程式は

z=(1/s2)ln(p)+(1/s1)ln(q)-{(1/s1)+(1/s2)}ln(pe-p)

という変換を行うと、その解として

zt-z0=t

が得られる。

 

d.伴性遺伝子に対する選択:X染色体上にあるいわゆる伴性遺伝子は雄では一倍体(ヘミ接合)、雌では二倍体であるから、雄はヘテロ接合の状態がない。したがって、雄と雌において同一遺伝子に対する選択様式が常染色体遺伝子と比べて違ってくる。このために雄、雌の配偶子における遺伝子頻度は同じでなく、任意交配が行われていてもハーデイ・ワインベルグの法則は受精直後の選択を受けていない段階についても適用できないことになる。この問題を扱うには雄、雌の配偶子の頻度を考え、それから生じる雄、雌の接合体をの頻度を調べることになる。

まず雄の配偶子について考えよう。息子のX染色体は通常母親から由来するから、

pt*=pt-1**/{1-s*(1-pt-1**)}

ここに*はX染色体数を表わす。*が2つなら雌、1つなら雄を表わす(かいこなどでは雄、雌が入れ代わる)。分母は雄の集団で選択される遺伝子の割合をあらわしている。

雌の場合は少々複雑である。娘の2本のX染色体は父親と母親とからそれぞれ由来するから、

pt**=A/B

ここに

A=pt-1*pt-1**+{(1-h**s**)/2}(pt-1*+pt-1**-2pt-1*pt-1**)

B=1-s**h**(pt-1*+pt-1**-2pt-1*pt-1**)-s**(1-pt-1*)(1-pt-1**)

Aはホモの雌とヘテロの雌の半分であり、Bは選択を免れた雌の合計である。

選択係数h**、s**、s*と初期頻度p0**、p0*が与えられれば順次各世代の遺伝子頻度が、雄、雌それぞれについて求められる。

 

例1。キイロショウジョウバエの白眼(w):白眼の♂♂は赤眼(野生型w+)より受精能が低いことが知られている。仮にs*=0.5としよう。♀♀では眼色の違いによる選択差はない(s**=0)。G1G1xG2Oの交配から始めたとする(p0*=0, p0**=1)。

最初の10世代の遺伝子(w)の頻度はつぎのようになる。

世代t 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
雄での頻度p* 0 1. .67 .86 .3 .88 .89 .92 .93 .94 .95
雌での頻度p** 1 .5 .75 .71 .78 .81 .85 .87 .89 .91 .93

 

例2。血友病遺伝子:今日X染色体にマップされている血友病の原因遺伝子は2つあり、それぞれ第VIII因子、第IX因子遺伝子と呼ばれ、Xq28-ter、Xq27.1と長腕の末端近くに位置している。第VIII因子遺伝子はヒトの遺伝子ではDMDについで2番目に大きな遺伝子で26のエクソンと25のイントロンから成り、全長186kbpである。翻訳された配列は2351個のアミノ酸で構成されるが、合成される肝細胞から分泌するときその一部がはずれて血液中では2332個のポリぺプチドになる。若干の糖鎖がそのとき付くので分子量は約30万ダルトンになる。血液中の第VIII因子タンパク質はA,B,Cの三つの領域から成り、凝固の過程で、トロビンにより活性化されると、Bドメインが外れる。

 

日本では出生男児約8500に1人が第VIII因子異常による血友病Aであるといわれている(長尾,1993)(q*=0.00011)。血液凝固因子製剤の補充療法の発達により、現在では適切なときに適切な治療を行えば、健康な生活ができて社会に貢献することができる。

血液製剤が開発される以前では、男子患者のほとんどが成熟できずに死亡することがほとんどであった(s*>0)。女子では正常遺伝子に対してこの遺伝子は完全劣性(h**=0)で、まれにホモ接合の患者が生まれたがほとんどが成熟できずに死亡したと考えられる(s**≒1)。したがって血友病の遺伝子G2の頻度q=1-pの頻度は

q*={(1-s*)qt-1**/{1-s*qt-1**}

q**={-s**qt-1*qt-1**+(1/2)(qt-1*+qt-1**)}/{1-s**qt-1*qt-1**}

と表わすことができる。ここでs**qt-1*qt-1**は受精時における女子血友病患者の予測頻度であるが、これらホモ接合体はほとんど見出されないのでこの項は省略することができよう。実際に血友病男子と血友病遺伝子保因者(健康)女子との結婚はまずないとみてよいだろう。そうするとq**についての上式は次のように近似することができる。

q**=(1/2)(qt-1*+qt-1**)

またq*tについての式も男子の平均適応度をほぼ1であると近似すると

q*={(1-s*)qt-1**}

になる。この式をq**の近似式に代入すれば

2q**=q**t-1+(1-s*)q**t-2

この式は女子における血友病遺伝子頻度の3世代についての関係をあらわしているが、選択(s*)が主に男子で罹っている形になっている。

世代あたりのq**の変化率は上式でq**=q**t-1=q**t-2=λと置いて得られるパラメータに比例するが、この場合は絶対値の大きい値をとる。数学的には上記の差分方程式を解くことになるが、定常状態に近い状況では固有値の絶対値の大きい方にほぼ比例する。q**の変化率は

1-λ =(3/4)[1-√{1-(8/9)s*}]
  ≒s*/3

ホールデン(Haldane,1948)は血友病の患者の生殖率は正常個体に比べてほぼ28%に過ぎないとしているから、s*=0.72として1-λ=0.24、すなわち血友病遺伝子の頻度減少率は毎世代ほぼ0.3である。また後者の近似はs*が1より十分小さい場合にかぎる。この状況では血友病遺伝子G2が3世代に1度の割合で男子にあるとき、そのときだけ選択を受けると考えることができる。実際には正常遺伝子の突然変異による新生があり、血友病患者の発生率は選択と突然変異のバランスで決まるとみられる。この問題については後の講座で再び触れよう。

血液製剤の開発は男子の選択係数を小さくする方向に作用することになる。理論的にはs*=0とすることは可能であるが、血液製剤の生産量や医療を受ける機会などから現実は理論的な状況にほど遠い。エイズ感染の悲劇は問題を一層複雑にしている。血友病男子と血友病遺伝子保因者(健康)女子との結婚はやはりまずないとしても選択の緩和はごく最近起きたばかりなので集団力学的にはまだ定常状態に至っていない。この問題についても後で議論したい。参考までにいくつかのs*と1-λの値を対比させてみた。

s* 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0
1-λ 0.50 0.41 0.34 0.28 0.23 0.19 0.14 0.10 0.06 0.03 0.00

 

7.4 連鎖とエピスタシスの効果

 連鎖とエピスタシスの問題は解析的に解かれていない問題が多い。すでに第6回講義で述べたように、2座位が連鎖平衡の状態になるのは漸近的で、1座位では次の世代にハーデイ・ワインベルグ平衡となるのと対照的である。しかしながら、接合体頻度は配偶子頻度の二乗で表わすことができる(一般化したハーデイ・ワインベルグの法則)から、遺伝子の代りに染色体あるいはゲノムを単位として問題を見直すことにしよう。

連鎖とエピスタシスに選択が作用して生じる連鎖不平衡について考察する。実際、連鎖がなくても‘連鎖’不平衡が生じることがある。また選択による変化速度へのエピスタシスの効果についても考えてみたい。

連鎖がゆるくエピスタシスが弱い場合についてはかなり答えが得られている。連鎖が強く、あたかも1遺伝子座として扱える場合もしかりである。これらの中間の場合、たとえば小さな乗換率で強いエピスタシスがある場合などはたいへん難しい。個々のケースは電算機で結果を得ることができるが、一般的な答えはまだない。3座位以上になると電算機を用いても一般的な様相はみえてこないことがほとんどである。

 

7.4.1 エピスタシスによる連鎖不平衡の生成

 

 一倍体集団:2つの遺伝子座それぞれに2つの対立遺伝子がある場合を考えることにする。そうすると4種類の配偶子が考えられる。最初に2座位は完全に連鎖している場合を考える。1座位に4対立遺伝子がある場合のように形式的に表わすことになる。

染色体 ab Ab aB AB
頻度(選択前) x y z u
頻度(選択後) X Y Z U

ここでモデルとして受精後ただちに減数分裂が始まる、すなわち次の世代がスタートするものとする。

wo,wa,wb,wabをそれぞれの遺伝子型の選択値としよう。そうすると、

受精後 X=xwo/w, Y=ywa/w, Z=zwb/w, U=uwab/w
乗換後 x'=X-cD, y'=Y+cD, z'=Z+cD, u'=U-cD

ここにプライムは次の世代を表わす。wは集団選択値で

w=wox+way+wbz+wabu、

D=XU-YZ

は受精後の二重ヘテロでの相引 coupling と相反 repulsion の頻度差の半分である。cは2座位間の乗換率をあらわす。

これらから染色体頻度の1世代当たりの変化Δx=x'-xは次のように表わすことができる。

ab: Δx =x(wo-w)/w - cD
Ab: Δy =y(wa-w)/w + cD
aB: Δz =z(wb-w)/w + cD
AB: Δu =u(wab-w)/w + cD

ここで

r=xu/yz、 R=XU/YZ=(wowab/wawb)r

の世代当たりの変化を自然対数で検討すると次の結果が得られる。

wΔln(R)=ε-cH(R-1)

ただし、  ε=wo-wa-wb+wab はエピスタシス効果を表わし、

H=wXZ(1/x+1/y+1/z+1/u).

である。

この式でRの相対的変化率{Δln(R)=ΔR/R}を検討してみよう。右辺のεは正の値をとるする。εが負の値ならRの代りに1/Rを考察すれば、Δln(1/R)=-Δln(R)であるから、議論は正負のいずれか一方だけでよいことがわかる。

  1. R<1だと、wΔln(R)>0となり、ln(R)は増加する。
  2. R=1なら、選択がほどほどだとln(R)はεの割合で増加するが、その後右辺の第2項がwΔln(R)へ負の寄与となるため、ln(R)は減少し始める。
  3. しかし、エピスタシス効果ε≫c(乗換率)なら、ln(R)は限りなく増え続ける。一方、ε≪cなら、cH(R-1)の項がかなり速くεに近づき、ほどなく近似的にΔln(R)=0に達する。この平衡は安定である。

Δln(R)=0の状態に到達するのはゆっくりであり、その状態ではRは遺伝子頻度に変化があっても事実上変わらない。この状態を擬似連鎖平衡quasi linkage disequilibriumという(Kimura 1965)。選択係数が小さければRの値はほぼ1になる。そうするとHの値がおおよそ1となるから近似的に

ε-c(R-1)=0

これからおよそ

R〜1+ε/c

が得られる。以上はεが正の値として論じているが、負の値でも成り立ち、一般に|ε|≪cについて成立する。

擬似連鎖平衡の状態で、集団適応度の変化率Δwは相加的遺伝分散VAに等しいことが示される(詳しい説明はKimura(1965)を参照)。

 

 二倍体集団:以上の結果は二倍体の生物にも成立する。ここでは染色体頻度の公式を示しておこう。詳細についてはKimura(1965)を参照されたい。

染色体頻度(Xi)と各遺伝子型の選択値(wij)。

  X1 X2 X3 X4
A1B1 A2B1 A1B2 A2B2  
X1 A1B1 w11 w12 w13 w14 w1.
X2 A2B1 w21 w22 w23 w24 w2.
X3 A1B2 w31 w32 w33 w34 w3.
X4 A2B2 w41 w42 w43 w44 w4.

染色体頻度の世代あたりの変化率は

A1B1:ΔX1={X1(w1.-w)-cDw)}/w

A2B1:ΔX2={X2(w2.-w)-cDw)}/w

A1B2: ΔX3={X3(w3.-w)-cDw)}/w

A2B2: ΔX4={X4(w4.-w)-cDw)}/w

ここでwi.は第i番染色体の(平均)選択値、すなわち

wi.=wi1X1+wi2X2+wi3X3+wi4X4

wは集団の(平均)選択値である。

w=w1.X1+w2.X2+w3.X3+w4.X4=ΣwijXiXj

Dw

Dw=w14X1X4-w23X2X3

である。一倍体集団の場合と同じように

R=(X1X4)/(X2X3)

を定義して、ln(R)の世代あたりの変化率を求めると次のようになる。

wΔln(R) =ε'-cDw(1/X1+1/X2+1/X3+1/X4)
  =ε'-c(w14R-w23){(X1+X4)/R+(X2+X3)}

ただし、ε'=w1.-w2.-w3.+w4.でエピスタシスの効果を表わす。

連鎖がゆるやかで弱い選択の状況で遺伝子頻度が変化する場合を考察すると、任意の正の値から始まって、Rの値はかなり速く擬似連鎖平衡に到達する。すなわち

Δln(R)=0、あるいは R=定数。

ただしエピスタシスの効果ε'が特殊な場合など、一倍体集団と比べてこの近似はあまりよくない。実務的に親子2世代を取り扱う問題では、定数(相引と相反の比)がどのような値かはともかく、2世代でのln(R)の値はほとんど相違がないとみてよい。

これまでの議論を次のようにまとめることができる。

  1. 任意交配のおこなわれている大きな集団で、ゆるい連鎖と比較的弱いエピ  スタシスの相互作用で、自然選択により遺伝子頻度が変化するなら、染色   体頻度はRが一定の状態におそかれ早かれ到達する。ここでRは相引染色体 と相反染色体の比を表わす。このような状態を擬似連鎖平衡という。
  2. 集団の適応度の変化率はその相加的遺伝分散に等しい(フィッシャーの自   然選択の基本定理、次節参照)。
  3. 自然選択による遺伝子頻度の変化により集団適応度は増える。

 

7.5 フィシャーの自然選択の基本定理

 ここではwは相対的でなく絶対的な量として測る適応度として考えよう。そうするとwijは遺伝子型GiGj個体の次の世代の子どもの数の半分を表わすことになる。集団の大きさに変化のない集団では平均的な親は子どもが2人で、それぞれに各親の遺伝子を半分もっている。遺伝子頻度pが変化したとき集団の適応度wがどう変るかを検討してみよう。

p1'=p1+Δpとすると、次の世代の集団の適応度は

w' =(p1+Δp)2w11+2(p1+Δp)(p2-Δp)w12+(p2-Δp)2w22
  =w + 2(Δp){(p1w11+p2w12)-(p1w12+p2w22)}
    + (Δp)2{w11+2w12+w22}

と表わされる。ここでw1=p1w11+p2w12、w2=p1w12+p2w22と置き、(Δp)2の項は十分小さいので無視すると

Δw = w'-w
  2(Δp)(w1-w2)
  = 2(Δp){(w1-w)-(w2-w)}

が得られる。ここでΔp=Δp1、Δp=-Δp2であることに注意すると

Δw=2Δp1(w1-w)+2Δp2(w2-w)

が得られる。Δpi=pi(wi-w)/w (i=1,2)だから、これを上式に代入してさらに両辺をwで割ると次の結果が得られる。

Δw/w=2{p1(w1-w)2+p2(w2-w)2}/w2

この結果を3個以上の複対立遺伝子がある場合へ拡張するのは簡単である。3つなら右辺は3項からなる。右辺の分子は相加的遺伝分散で分母は形式的に平均値の二乗であるので、右辺は変動係数の二乗となっている。すなわち

集団適応度の相対的増加率はどの世代においても相加的分散と適応度の比、変動係数の二乗に等しい。

これはフィシャーの自然選択の基本定理の一つの表わし方である。wがほぼ1なら、Δwは相加的分散に等しくなる。

選択がどのくらいの速さで集団の本質を変えるかは、その本質の遺伝的多様性に依存する。偏差の二乗がその多様性を測る適切な尺度であるかどうかは明らかでないが、これまで統計学で使われている統計量、分散は集団での自然あるいは人為選択の効果を測るのに都合がよいことが知られている。

相加的遺伝分散は遺伝子型の適応度の分散でなくて、対立遺伝子の平均適応度の分散である。親から子に伝えられるのは遺伝子型値でなくて対立遺伝子の平均値であるから、この定義の仕方はメンデルの分離法則に則している。

木村(1960)はFisher(1930)の書を‘ダーウィンの「種の起源」以来の進化機構についてかかれた最高の書である’と絶賛している。しかし、‘半世紀たった今、冷静に判断すれば筆者(木村、1988)にはとてもそんなに重要なものとは考えられない。また、実際の進化の研究にもあまり役立っているようには思えない’、と「自然選択の基本定理」を批判している。分子レベルの進化機構についての中立説(Kimura 1983)がほぼ確立した後でのこの見解は大変興味深い。

 

文献

 

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