101.ゲノム編集技術により誕生したブタ内在性レトロウイルス(PERV) フリー豚

豚の臓器を移植に用いる異種移植については、本連載,で取り上げ、77回には豚の腎臓由来のPK15細胞で、異種移植での最大のハードルになっていたブタ内在性レトロウイルス(Porcine endogenous retrovirus: PERV)を、ゲノム編集技術ですべて不活化できたことを紹介した。この研究は、ゲノム編集技術のパイオニアであるハーバード大学のLuhan YangとGeorge Churchが2015年に設立したベンチャーeGenesisの研究チームにより行われたものである。

しかし、PK15細胞は長年実験室で継代されていた樹立細胞株であるため、染色体は異常になっていて、癌化した細胞とみなされる。Yangらは、PK15細胞で得られた知見をもとに、健康な豚の胎児から採取した線維芽細胞で、PERVの不活化を試みた。PERVにはA, B, Cの3つのタイプがあり、AとBは人の細胞に感染することが分かっている。Cタイプは感染しない。豚胎児の初代線維芽細胞では、PERV-A が10コピー、PERV-Bが15コピー見つかり、 PERV-Cは見つからなかった。

そこで、彼らはこれらのPERV遺伝子すべてをゲノム編集技術で不活化してPERVフリーの細胞を作出した。ついで、この細胞を、あらかじめ核を除去した未受精卵に移植し、培養した胚を、仮親の子宮で発育させた結果、17頭の仮親からPERV フリーの子豚37頭が生まれ、15頭が成長している。2017年8月の時点で、最年長の子豚は4ヶ月令となって健康に育っている。Yangらは、これらを母集団として、子豚を増やし、安全性をさらに高めて異種移植の実用化につなげることを目指している。

 

参考文献

Niu, D., Wei, H.-J., Lin, L. et al.: Inactivation of porcine endogenous retrovirus in pigs using CRISPR-Cas9. Science, 1.1126/sicence.aan4187, 2017.