2018年12月12日、ワシントンで開催された米国地球物理学連合の会議で、34カ国の300名を超すメンバーによる国際コンソーシアム「深部炭素観測(Deep Carbon Observatory)の10年にわたる国際共同研究の成果が発表された。海洋開発研究機構の地球深部探査船「ちきゅう」により、2.5キロメートルの深海の海底を2.5キロメートルまで掘削して得られたものである。
この研究で見いだされた生命体は細菌やアーキア(かって、古細菌と呼ばれていたが細菌とは別の生物ドメインに属する)といった単細胞微生物で、推定された総量は、炭素重量換算でおおよそ150ないし230億トンという膨大なものであった。これは地球上の人間の総量の数百倍になる。地球全体に生息する細菌とアーキアの実に70%が地下に存在していることになる。
その中には、硫黄泉に生息するアルティアルカエム目(Altiarcheales)のアーキアや、超好熱性アーキアのゲオーゲンマ・バロッシイ(Geogemma barossi)がある。なお、ゲオーゲンマ・バロッシイは水深2400メートルの海底の熱水噴出孔で発見されていたアーキアで、オートクレーブの温度の121℃で増殖する。これは生物の成育温度として、最高記録である。
地球深部のガラパゴスともいうべき世界には、数百万ものタイプの細菌とアーキアが見つかり、ほとんどは未知の「暗黒物質」だった。その遺伝的多様性は地上の微生物に匹敵もしくは上回っていた。これら微生物集団の密度は、それが存在する海底の沈殿物の年代に関連しており、沈殿物が古くなるほど、供給される食物エネルギーが低下して、微生物集団を減少していることが推測された。
地下2.5キロメートルで見つかったある微生物は、数百万年の間埋もれており、太陽からのエネルギーにはまったく依存していない可能性がある。この低いエネルギー環境では、おそらくメタンがエネルギー源になっているが、増殖や分裂に用いられることはなく、単に破壊された部位の修復などに利用されていると推測されている。地球深部における微生物の時間尺度は、太陽または月の周期に依存している人間の時間尺度と異なり、地質学的時間尺度であって、きわめてゆっくりとしている。あるものは、数千年生きており、おそらく最低レベルの代謝で、眠った状態で生息していると考えられている。
これらの成果から多くの謎が浮かんできている。地球深部の微生物はどのように移動しているのだろうか?岩石の割れ目に沿って広がるのだろうか?南アフリカとシアトルでなぜ同じなのか?同じ起源で、プレートテクトニクスや地震、隕石落下などの地質学的現象はどのようにかかわっているのだろうか?
この調査では、ウイルスは取り上げられていないようだが、アーキアの世界には、きわめて多様なウイルスが見つかっており、極限環境でアーキアとともに生きている。地球深部にも膨大なアーキアウイルスの世界の存在するはずである。
Jonathan Watts: Scientists identify vast underground ecosystem containing billions of micro-organisms. The Guardian, Dec 10, 2018.
https://www.theguardian.com/science/2018/dec/10/tread-softly-because-you-tread-on-23bn-tonnes-of-micro-organisms
Life in Deep Earth totals 15 to 23 billion tons of carbon — hundreds of times more than humans. Sci. Daily, Dec 10, 2018.
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/12/181210101909.htm