1947年、東アフリカ、ウガンダのエンテベにある東アフリカ・ウイルス研究所の近くのジカ・フォレスト(zikaはウガンダの主要言語のルガンダ語で「成長しすぎた」の意)で黄熱の研究のために置かれた1頭のアカゲザルが発熱した。その血清からウイルスが分離され、1952年にジカウイルス(Zika virus)と命名された。1954年にはナイジェリアでひとりの人から分離された(1)。これは、デングウイルスや日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルス科に分類されている。
2007年以来、抗体や疫学調査などで、ジカウイルス感染は西アフリカ(ナイジェリア、シエラレオネ、アイボリーコースト、カメルーン、セネガル)、アジア(パキスタン、インドネシア、フィリピン、マレーシア、カンボジア、タイ)、および太平洋の諸島(ミクロネシア、クックアイランド、フランス領ポリネシア、ニューカレドニア、グアム、サモア、バヌアツ、ソロモン諸島)で感染例が見いだされたが、その数はわずかだった。
アフリカでは、ジカウイルスはサル、種々の野生動物、人家の周辺のヤブカなどの間で循環している。アジアではヤブカ属のネッタイシマカでウイルスが検出され、実験的にも感染することから、この蚊が主にウイルスを媒介すると考えられている。
2007年にミクロネシアのヤップ島で集団発生が起こり、49人の確認例と59人の高可能性例が見いだされた。ここでは、主にヤブカ属のAedes hensilliが媒介していたと考えられた。2013年から2014年にかけて、フランス領ポリネシアでは5895人の疑似患者が見つかり、推定では全体で19000人にのぼると考えられた。遺伝子検査を行った584人の血清では、294人がウイルス陽性だった(2)。
2014年からは南米でジカウイルスの感染サイクルが起きていた。2月にはチリのイースター島で確認された。2015年、4月、ブラジルのバイーア州でインフルエンザのような症状に続いて発疹や関節痛の患者が500人ほど見つかり、バイーア大学の研究者による遺伝子検査でジカウイルス感染ということが確認された。ブラジルで最初のジカウイルス感染だが、ジカウイルス感染は通常、症状が軽く、またそれまで発生したことはなかったため、気がつかれることなく、数ヶ月前から起きていた可能性が高い。2015年1月から7月の間で発疹の後に神経症状とギランバレー症候群の患者121名が報告された。また、2015年2月からブラジル北東の諸州で発疹を伴う病気が報告され、6月までに14835名に達した。住民1万人あたり5.5人に相当する。これらはいずれもジカウイルス感染によると推定されている。ジカウイルスの侵入経路としては、2014年のワールドカップで訪れたアジアのサッカーファンが持ち込んだという説がある。
それから8ヶ月弱の間にブラジルでは50万人から150万人がジカウイルスに感染した。2015年11月11日、ブラジル保健省はブラジル北東部のペルナンブーコ州で、小頭症の子供の数が異常に増加していることを発表した。2010年から2014年にかけては平均10例だったのが、9月初めまでに141例見つかったのである。そして妊娠した女性に対して、蚊に刺されないよう、網戸の設置や長袖の服の着用、防虫剤の使用などを勧告した。(3)
2016年1月14日、ブラジル保健省は2015年にジカウイルス感染が疑われる小頭症の総計が3530例と発表した。2010年153例、2011年139例、2012年175例、2013年167例、2014年147例と比較して、異常な多発である。
2015年、ブラジルではエルニーニョによる大雨や洪水などに見舞われ、蚊の繁殖が促進された。そのため、デング熱の患者は平年の20倍以上になっていた。ジカウイルスの急激な広がりも大繁殖した蚊によると考えられている(4)。
2016年1月15日には、ハワイでジカウイルスに関連した小頭症の子供の最初の例が見いだされた。オアフ島の病院で生まれた乳児で、ジカウイルスの存在がCDCにより確認された。母親は妊娠の初期にあたる2015年5月にブラジルに住んでいて、おそらくその時に蚊に刺されたと推定されている。同じ日、CDCは妊娠した女性がジカウイルスの伝播が起きている国や地域に旅行するのを延期するよう勧告した(5)。
日本では、これまでにフランス領ポリネシアで感染した2名とタイで感染した1名のジカ熱患者が見つかっている(6)。
文献
1. Etymologia: Zika virus. Emerg. Infect. Dis., 20, 1090, 2014.
2. Cao-Lormeau, V.-M., Roche, C., Teissier, A. et al.: Zika virus, French Polynesia, South Pacific, 2013. Emerg. Infect. Dis., 20、1085-1086, 2014
3. European Center for Disease Prevention and Control: Rapid risk assessment: Microcephaly in Brazil potentially linked to the Zika virus epidemic. November 24, 2015. Stockholm: ECDC; 2015.
4. Correia, F.B.: Zika and microcephaly: Report from Brazil. Medpage Today. Jan. 17, 2016.
http://www.medpagetoday.com/InfectiousDisease/GeneralInfectiousDisease/55702
5. McNeil. Jr., D.G.: Hawaii baby with brain damage is first U.S. case tied to Zika virus. New York Times, Jan. 16, 2016.
6. 篠原浩、忽那賢志、太田雅之ほか:タイ・サムイ島から帰国後にジカ熱と診断された日本人旅行者の1例。ISAR, 35, 243-244, 2014.
http://www.nih.go.jp/niid/ja/route/transport/1715-idsc/iasr-in/5033-kj4161.html