87.ジカウイルスによる小頭症のサル・モデル

 

ジカウイルスが新生児に小頭症を起こしている可能性は、本連載79回で紹介したように、培養細胞の実験、胎児の脳からのウイルス遺伝子の検出及び感染性ウイルスの分離の結果から示唆されてきた。さらに、2016年5月には、妊娠マウスのモデルでジカウイルスが胎盤を通過して胎児に感染し、子宮内で胎児の脳の成長が抑えられ、新生児では大脳皮質の厚さが細胞数の減少により薄くなっていることが報告された(1)

9月には、ワシントン大学のグループがマカカ属のブタオザルで、ジカウイルスより小頭症となる経過を詳細に検討した結果を発表した(2)。ブタオザルは、1990年代初め、同大学のワシントン霊長類センターで、HIVに感受性を持つことが見いだされた時から、エイズの重要なモデルとして用いられてきた。実験では、一頭の健康な9歳令のブタオザルに、妊娠119日目(ヒトの28週に相当)に107感染単位のウイルスが皮下接種された。ネッタイシマカでの実験では唾液腺に108感染単位に達するウイルスが検出されることから、このウイルス量は自然界での蚊からの感染に相当すると考えられた。

胎児の発育は、週1回の超音波検査と、10日、17日、31日、43日目のMRI検査で調べている。その結果、超音波で毎週測定した胎児の頭の断面のサイズ(児頭大横径)の増大が遅れていて、大脳白質の量は17-43日の3週間でほとんど増えておらず、一方、灰白質の量は正常な増加を示していた。また、大腿骨も正常に成長していた。10日目のMRIでは、脳室周囲の白質の損傷がみられ、これは、エコーウイルスやヘルペスウイルスなど新生児に脳炎を起こすウイルスで見られている変化と同じだった。これらの結果から、ジカウイルスは感染直後から、胎児の脳の成長に影響を与えていることが明らかにされた。

162日目(ヒトの38週に相当)、陣痛が起きる前に帝王切開したところ、大脳白質の低形成、脳室周囲の白質のグリア細胞浸潤、神経軸索と脳室上衣の損傷が見られた。ジカウイルスRNAは、胎盤の絨毛組織、胎児の脳と肝臓、母親の脳、眼、脾臓、肝臓で検出され、ウイルスが胎盤を通過して胎児の脳内に侵入していたことが確認された。

このサルのモデルは今後、治療法の評価に役立つことが期待されている。実験が行われたワシントン霊長類センターは、ワシントン大学医学部の建物の中に設置されているため、サルのモデルでの生殖・発達医学、神経科学など臨床に直結した動物実験に好適な条件を備えている。

1. Cugola, F.R.,Fernandes, I.R., Russo, F.B. et al. : The Brazilian Zika virus strain causes birth defects in experimental models. Nature, 534, 267-271, 2016.

2. Wadorf, K.M.A., Stencel-Baerenwald, J.E., Kapur, R.P. et al.: Fetal brain lesions after sub-cutaneous inoculation of Zika virus in a pregnant nonhuman primate. Nature Med., published online 12 September 2016; doi:10.1038/nm.4193