52.エボラウイルスはどこに潜んでいるか

1976年に最初のエボラ出血熱の発生がザイール(現在はコンゴ民主共和国)で起きた。それより2ヶ月ほど前に、スーダン南部のザイール国境に近いヌザーラでも起きていたのだが、調査が行われたのは、ザイールよりも後だった。スーダンの最初の患者は植民地時代からの古い建物の綿工場で働いていた。ここには無数のコウモリの群れが生息していたことから、この時以来、コウモリがエボラウイルスを保有する自然宿主ではないかと考えられていた。そののち各地で発生したエボラの場合に野生動物についての調査が行われたが、コウモリにエボラウイルスを見つけることは出来なかった。
2001年から2005年に隣接するガボンとコンゴでエボラ出血熱の発生が続き、それと同時に多数のゴリラとチンパンジーの死亡が見つかった。これらはエボラウイルス感染で死亡したと考えられたので、フランスの獣医ウイルス学者エリック・ルロア(Eric Leroy)をリーダーとしたガボン・フランスビル国際医学研究センターの調査チームがゴリラとチンパンジーが死亡していた地域二カ所にわなを仕掛けたところ、679匹のコウモリ、222羽の鳥、129匹の脊椎動物の計1030匹の動物が捕獲された。そのうち、3種類のオオコウモリ(果物を常食とするコウモリ、fruit bat)でエボラウイルス抗体が見つかった。その内訳は、ケンショウコウモリ17匹中4匹、クビワコウモリ117匹中8匹、ウマヅラコウモリ58匹中4匹である。肝臓と脾臓からは、ザイール・エボラウイルスの遺伝子配列が検出された。しかし、抗体とウイルス遺伝子両方が陽性の個体はいなかった。また、ウイルスは分離されなかった。この発生での最初の患者は殺した直後のオオコウモリを買って食べたと言われていた。決定的な証拠とは言えないが、コウモリが自然宿主の可能性をウイルス学的に示した最初の成果である1
それ以前からガボンではチンパンジーやゴリラが森の中で死亡しており、それらを食べたのちに原因不明で死ぬ人が時々あった。1996年1月から2月にかけてガボン北部の村メイボー(Mayibout)でエボラ出血熱が発生した。最初の患者は、森の中で見つけたチンパンジーの死体を運んできて解体するのを手伝った子供たちだった2, 3。オオコウモリの排泄物などからエボラウイルスに感染して死亡したチンパンジーやゴリラを食べて発病したと考えられている。アフリカの各地で年間数10万匹以上のオオコウモリがブッシュミートとして食用にされている。オオコウモリから直接、またはチンパンジー、ゴリラを経由して人が感染していると推測されている。
今回の西アフリカでの流行では、犬が問題になった。ルロアたちの調査チームは、ガボンで2001年から02年にかけてエボラが発生した地域で、数匹の犬が動物の死体や患者の吐瀉物を食べているのを見つけた。そこで、エボラ発生地域の飼い犬から血液を採取し、フランスビル国際医学研究センターで調べた結果、3つの地域の合計159頭の犬のうち、9%ないし25%が抗体陽性だった。とくに患者の発生と動物の死体の両方が見つかった地域では31.8%という高い陽性率だった。対照として調べたフランスの犬102頭では2頭(2%)の陽性という結果と比較して、統計的に有意な差がみられたことから、犬がエボラウイルスの無症状感染を起こすかもしれないと述べている4
この報告を参考にしたものと思われるが、マドリッドで感染した看護婦の飼い犬は予防的措置として安楽死させられた。テキサス州ダラスで感染した看護婦の飼い犬は、大学の獣医師の保護のもとに置かれており、安楽死はさせないと伝えられている。
一方、カナダ食品検査庁動物海外病センターでは、子豚にエボラウイルスを接種したところ、一過性の発熱が起き、さらに同じ部屋で別のケージに入れたカニクイザルが発病したことを報告した5。そして、エボラ流行地で家畜の豚や野生豚がウイルスを媒介する可能性があると指摘している。

文献

1. Leroy, E.M., Kumulungui, B., Pourrut, X. et al.: Fruit bats as reservoirs of Ebola virus. Science, 438, 575-576, 2005.

2. Wauquier, N., Becquart, P., Gasquet, C. et al.: Immunoglobulin G in Ebola outbreak survivors, Gabon. Emerg. Infect. Dis.,15, 1136-1137, 2009.

3. Quammen, D.: Ebola: The Natural and Human History of a Deadly Virus. Kindle edition, 2014.

4. Allela, L., Bourry, O., Pouillot, R. et al.: Ebola virus antibody prevalence in dogs and human risk. Emerg. Infect. Dis., 11, 385-390, 2005.

5. Weingartl, H.M., Embury-Hyatt, C., Nfon, C. et al.: Transmission of Ebola virus from pigs to non-human primates. Scientific Reports, 2 : 811, doi: 10.1038/srep00811, 2012.