ショウジョウバエに共生する細菌のボルバキアが感染した蚊では、デングウイルス、ウエストナイルウイルス、ジカウイルスの伝播が阻止されることが
明らかになり、注目されている。本連載65回では、ボルバキアに感染したネッタイシマカを増やして、デングウイルスの伝播を阻止する試みを紹介した。また、89回では、ボルバキアが共生するショウジョウバエで見られるウイルス抵抗性は、ショウジョウバエとともに進化してきたという報告を紹介した。
ジカウイルスが広がったフロリダ州では、今年の4月末から、ボルバキアに感染した雄の蚊を12週間にわたって合計4万匹、実験的に放出する試みが始まっている。しかし、なぜボルバキアがこれらのウイルスの伝播を阻止しているのか不明だった。
インディアナ大学のRichard Hardyのグループは、ボルバキア、ショウジョウバエ、シンドビスウイルスを組み合わせた実験モデルで、ボルバキアがウイルス抵抗性を賦与する機構を調べた結果を6月15日付けのPLOS Pathogensに発表した。シンドビスウイルスも蚊が媒介するRNAウイルスで、デングウイルスやジカウイルスより安全、かつ容易に取り扱える。ショウジョウバエにシンドビスを感染させた場合、48時間後のウイルス力価は、ボルバキアを保有するハエでは著しく低下していた。ウイルスタンパク質の翻訳の効率はとくに低下が見られず、ウイルスRNAの合成が低下していた。ボルバキアによる抵抗性は、ウイルスRNA合成の段階での阻止であって、その結果として、ウイルスタンパク質の合成、感染性ウイルスの産生が阻止されていると推測された。
ショウジョウバエでは、D(drosophila) Cウイルスに対する抵抗性に、一本鎖RNAをメチル化するメチルトランスフェラーゼMt2が関与することが分かっていたので、Mt2を調べたところ、ボルバキアに感染したハエでは、感染していないハエと比べて、そのレベルが有意に上昇していた。そこで、この酵素を欠くハエと過剰に発現しているハエを作出して比較したところ、酵素を欠くハエは、ボルバキアを感染させてもシンドビスウイルス抵抗性が見られず、一方、過剰発現していたハエは、ボルバキアを感染させなくても、シンドビスウイルス抵抗性を示していた。
この結果は、Mt2だけでウイルス抵抗性が賦与できる可能性を示している。そして、シンドビスウイルスだけでなく、ほかのウイルスにもあてはまることが示唆された。
ボルバキアを感染させた蚊を大量に散布していると、ボルバキア抵抗性のウイルスが生まれるおそれがある。Mt2による抵抗性は、この問題の解決につながるかもしれないと期待されている。
参考文献
Bhattacharya T., Newton, I.L.G., Hardy, R.W.: Wolbachia elevates host methyltransferase expression to block an RNA virus early during infection. PLoS Pathog 13(6): e1006427. 2017.
Indiana University: Scientists reveal mechanism behind mosquito-borne-disease ‘blocker’ used to fight viruses. June 15, 2017.
https://www.sciencedaily.com/releases/2017/06/170615142845.htm