97.致死的コロナウイルスの多様性はコウモリの間で生まれる

コウモリは5200万年以上前に出現し、飛翔能力を持つ唯一の哺乳類であるため、エマージングウイルスの宿主としたもっとも注目されている。すでに、コウモリは、エボラウイルス、マールブルグウイルス、ヘンドラウイルス、ニパウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス、中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスといった致死的なウイルスの自然宿主ということが証明または強く疑われている。

 

これらのウイルスのうち、SARSコロナウイルスとMERSコロナウイルスが属するコロナウイルスは、ゲノムのサイズが約3万塩基の一本鎖RNAウイルスで、ほかのRNAウイルスの2-3という桁外れに大きなゲノムを持つため、ウイルスが複製される際に変異が起こりやすい。また、ほかのコロナウイルスと組換えも起こす。SARSコロナウイルスはコウモリのコロナウイルスの間で、組換えが起こり、食用のハクビシンに感染し、それがヒトに感染したと推測されている。コロナウイルスは、人獣共通感染症の原因として、とくに重要とみなされているのである。ヒトが感染しているコロナウイルスのほとんどすべては、動物由来か、現在動物の間で循環しているウイルスからの感染による。コロナウイルスは、宿主を飛び越えやすいため、過去、現在だけでなく、これからも公衆衛生上の大きな脅威とみなされる。

 

ニューヨーク・コロンビア大学のSimon Anthonyらは、ヒトに対してハイリスクとなる野生動物のウイルスに焦点を合わせたPREDICTコンソーシアムで、ラテンアメリカ、アフリカ、アジアの20カ国の地域パートナーと共同研究を5年間にわたって行っていた。彼らは、コウモリがコロナウイルスの保有宿主として重要なのに、遺伝子データバンクでは、コロナウイルスの配列のうちのわずか6%だけがコウモリ由来で、残りの94%は、ヒト、家畜、ペットのウイルスの配列であって、既知の病気に偏りすぎているとして、地球レベルでのコウモリにおけるコロナウイルスの多様性を検討している。

 

コロナウイルスの分布を地図で示すために、彼らは12,300匹のコウモリ、3,400匹の齧歯類とトガリネズミ(形はネズミだが齧歯類ではない)3,500頭のサルを捕獲し、唾液、尿、糞のサンプルを採取してから、放した。

 

これらのサンプルから、100の系統的に異なるコロナウイルスの集団が見つかり、そのうち、91はコウモリが持っていた。ウイルスの多様性は、アマゾンの熱帯雨林のように、多くの種類のコウモリが生息する地域のコウモリでとくに高かった。コロナウイルスの多様性はコウモリの多様性が関連していたのである。

 

ウイルスがヒトに感染する可能性を知るヒントのひとつは、系統的に関連のない種の間でウイルスが飛び越えた歴史である。アフリカでは、関連のないコウモリ種の間での伝播は、メキシコ、ブラジル、ボリビア、ペルーなどラテンアメリカ諸国この場合より、4倍多く起きていた。これは、各地域に存在するコロナウイルスの遺伝的相違か、異なるコウモリ種との間での行動に関係していると考えられた。

 

次のステップは、宿主を飛び越えるウイルスと飛び越えないウイルスについて、さらに詳しく調べることと、Anthonyは語っている。彼のチームは、ウガンダで捕獲したアブラコウモリから分離したMERSコロナウイルスに近縁のウイルスは、ヒトの細胞に結合できないことを見いだし、直接人への脅威にはならないと推測していた。

 

発生してから対応するというこれまでの対策と異なり、次ぎにヒトに感染するおそれのある病原体を予測(Predict)しようと考えているのである。

 

参考文献

Anthony, S.J., Johnson, C.K., Greig, D.J. et al.:Globalpatterns in coronavirus diversity. Virus Evolution, 3 (1): vex 012, 2017.

 

Maxmen, A.: Bats are global reservoir for deadly coronaviruses. Nature, 546, 340, 2017.

 

Anthny, S.J., Gilardi, K., Menachery, V.D. et al.: Further evidence for bats as the evolutionary source of Middle East Respiratory Syndrome coronavirus. mBio, 8 (2), e003373-17, 2017.