基準に天文学的な時間をとるかわりに、成長中の動物の全体あるいは部分を基準Xにとってこれに対して他の部分のYがどのように成長するかをみると、多くの場合
α Y=bX (α、bは定数)
という簡単な関係が成立つ、というのがHuxley(1932)とTeissier(1934)が提唱した相対成長です。
この式を相対成長式(allometry
equation)といいます。 両辺の対数をとれば
logY=logb+αlogX
となり、両対数図上では勾配がα、切片の値がlogbの一次式となります。
式のαを相対成長係数、bを始原成長指数といいます。
成長解析にとって重要なのはαであって、この値の大小によって二つの部分X、Yの成長関係が次のように分類されます。
個成長データでは、個体における一対の(X、Y)が連続的に多数計測されていますからこれらの対数値をとって図上にプロットするとともに、これらが直線上に配列しているかどうか、すなわちXとYとの間にアロメトリー式が適用できるかどうかを客観的に判定するために一次回帰分析を行います。 X、Yに直線関係を仮定しても、logXに対応するlogYの図上へのプロット群の分布のバラツキが大きければ一次回帰項(相対成長係数α)が有意かどうか(X、Yとの間にアロメトリー関係があるかどうか)決めかねるからです。 これには全分散のうち一次回帰項で説明できる部分が残差に対して有意に大きいか否かを検定するわけです。 個成長データでないときは、同じ集団(種とか系統など)に属する幼齢個体から成体の体の二つの部分のデータを用いて上述の個成長データの場合と同様な検定で判定します。
個成長、平均成長的データとも幼齢時から成体までとられていれば点の分布はただ一本の直線ではなく複数の直線で表わされる場合が多くあります。 このようなときを多相アロメトリー、直線の折れる所を変移点といいます。 変移点は生体におけるX、Yの成長関係が変るときで絶対成長的解析では検出できない生理学的に重要な時期です。
マウスでは、Xに頭蓋長をとると多くの骨は頭蓋長の対数値1.2前後で折れる前・後期の二本のアロメトリー式からなり、後期でαが著しく大きくなる型(上膊骨重、頭胴長など)、前期、後期でαの値に大差なく一本のアロメトリー式で表わされる型(尾長、大腿骨長、脛骨長、頬幅、鼻骨長)、後期でαが前期より小さくなる型(前額幅、前額骨長、頭頂骨長)に分かれます。 変移点の認められる時期は子マウスが哺乳しながらも親と同じ餌を採食しはじめる頃で、骨が上のように分けられたのはその頃から成長が旺盛になる骨、成長が相当程度進んでいる骨などへの採食の影響のあらわれとみることができます(後藤、1962)。 そして、この変移点の位置は餌の蛋白質含量が9.4%から26.5%の範囲内では殆んど変らないことがわかっています(後藤、1968)。 このように、アロメトリー式は同一個体の部分(この例では頭蓋長)を基準にしているために個体のおかれた環境条件(この例では飼料中の蛋白質含量)をいろいろ考慮する必要がなく、生理的に重要な時期を検出することができます。
TPCでもカニクイザルの縦断的な生体計測値にアロメトリーを適用した研究が行なわれています(吉田ら、1993)。 カニクイザルの前胴長を基準Xとして各部位をYとしたとき、両対数図上でXとYの関係が一本の直線を示した(単相アロメトリー)のは、オスの場合全頭高と体幹部および四肢にかかわる部位の計7部位でしたが、残りの9部位とくに頭長、頭幅、上顔高、顔高および上腕長、前腕長では前胴長Xが28cm位のところを変移点とする顕著な2相アロメトリーを示しました。 オスの前胴長が28cmに達する時期はおよそ2.5歳位で、血中テストステロン濃度が増加し始める頃です。 この頃から、2相アロメトリーを示す部位は急速に発達して成獣のオスの顔付きあるいは体型になるものと思われます。