成長研究と実験動物 第14回

αのその他の生物学的意味/動物用体積計


αのその他の生物学的意味

αには以上に述べた他に次のような生物学的な意味があります。

まず、X、Yはともに時間tの関数ですからY=bX^αの両辺をtについて微分しますと

         1 dY     1 dX
         ─・── = α・─・──
         Y dt     X dt


となり、αはXの比成長率に対するYのそれの比ということになります。

つぎに、Y=bX^αの両辺をXで割りますと

	Y/X=bX^(α−1)


となり、Xに対するYの相対的な大きさの成長に伴う発達方向をαの大小でみることができます。 私ども(内田・後藤、1973)は、動物の生体のように不定形で柔軟性のあるものの体積を測定しようと試みたことがあります。 マウスを用いてなるべく生体に悪影響を及ぼさないような方法をいろいろ工夫した結果、気体の圧力と体積の関係を利用した簡便な装置を考案しました。 マウスの体重はすぐ測れますから体積がわかればそれで割ることによって比重を求めることができます。 そこで、雌雄各10頭のマウスの体積Xと体重Yを28日齢から84日齢まで15回測定しαを求めたところ、平均値は、雌で 0.31、雄で0.68の値を得ました。 体重の成長は体積のそれより劣りその程度は雌の方が雄より大きいことが分かりました。 比重(Y/X)の成長に伴う変化は体積に比べ著しく劣りしかもその程度は雌で著しいのです。 比重が小さいということは筋肉に比べて脂肪が多いことを意味していますので、αは単なる定数ではなく生理的に重要な意味をもつ相対的な大きさの変化を表現しているといえます。

今迄、主として形態学的なアロメトリーについてのべてきましたが、アロメトリーは生体内の化学的物質量(非蛋白態窒素、クレアチニン、グルタチオン、グリコーゲン、ナトリウム、カリウム等々)と乾燥体重との間でも成立つことがいろいろな動物種について確かめられています(清水、1959)。


動物用体積計

横道に逸れますが前記体積計のことについて若干触れたいと思います。 私どもは、この体積計でたくさんのマウスの比重を測り、そのうちの比重の大きいもの同志、小さいもの同士を選抜、交配して高比重および低比重マウスを作出するつもりでした。 この育種がうまくゆけば前者は筋肉質でずっしりとした体をもち、後者は脂肪が多い肥満型の体型をもつマウスができるかもしれません。 比重大へ選抜するのはウシやブタで赤肉が多く脂肪の少ないように改良するための選抜モデル実験とするつもりでした。 超音波装置で非破壊的にブタの背脂肪を計測し、背脂肪の厚さで選抜した脂肪の少ない系統が農水省畜試と岩手県など二・三の県で造成されています。 しかし、これらの腹腔内脂肪はそれ程減少していないと聞いております。 体全体の脂肪量に関連している比重の選抜は腹腔内の脂肪減少にも効果があるのではないかと考えています。 一方、比重小へ選抜する系は多因子的な肥満モデル作出に連がるのではないかと予想しました。 結局、比重に関する選抜実験は考えただけで実行しなかったのですが、どなたか興味のある方が行って下さればと願ってます。

ヒトの肥満度の測定法として、ブローカ・桂変法、ローレル指数あるいはケトレー指数などがありますが、いずれも体重と身長の関係から算出されています。 これらの指数とは別に皮下脂肪の厚さをカリパスで測っていたりしています。 研究上、ヒトの体積を計測する必要があるときには被験者が息を止めて裸で一定の容積の器にもぐり、オーバーフローした水の量をもって被験者の体積としたのを聞いたことがあります。 髪の毛や息を止めたときの肺の容積をどう考えるか問題ですが何ともストレスの多い測定法ではありませんか。 それでも、この値から一応ヒトの比重値が得られ、皮下脂肪だけではなく腹腔内脂肪、臓器脂肪など体全体の脂肪の高低を比較できます。

日本大学医学部の衛生学教室では、肥満の程度を正確に把握するために気体の圧力と体積の関係を利用した装置を考案しました。 私どものマウスでは気圧を変化させるのに減圧方式を採用したのに対し、ヒトでは生体に害のない加圧方式をとっています。 同教室の伊藤助教授によりますと、今では気体(ヘリウムガス)置換法を利用した装置でヒトの体積を測定しているとのことです。 おそらく次式から体積を求めているのでしょう。

   動物の体積=試料容器の容積−
       (ヘリウムガスの注入量)/(注入したヘリウムガスの最終濃度)

                                    (Walser,M. & Stein,S.N., 1953)


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