話題を4つ提供したいと思います。 後半の2題はコーヒーブレークにはちょっと重すぎるかもしれませんが、単独で取り上げるほどのものでもないので、含めました。 |
1. ゼノーシスの和訳 |
xenosisの和訳をどうしましょうかという提案に対して何人かの方からいくつかの候補があげられました。 それらを吉川泰弘先生が以下の4つに整理されました。
私もほぼ同じ意見ですが、語源からも考えてみました。 xenoはラテン語で異種、nosisは病気の意味です。 zoonosisはzooが動物の意味ですから、動物由来の病気(実際は感染症に限定)が正確です。 ついでですが、diagnosis診断はdia(知る)とnosis(病気)から来た言葉です。 さて、ゼノーシスの場合は、異種移植由来感染症、ゾーノーシスは動物由来感染症という風に整理するのはどうでしょうか。 人獣共通感染症という言葉はあまり好きではありません。 人畜共通伝染病という古くからの言葉があるものですから、あまり急に変えてもいけないと思って使っている次第です。 xenosisという新語が欧米でどれ位用いられるか、様子を見ることとして、当分、私は吉川先生の提案のゼノーシス(注釈と適宜につけて)で行こうかと思います。 |
2. シンノンブレ・ウイルス |
新しいハンタウイルスによる急性の呼吸器障害で若者が急に死亡したことから、見つかったハンタウイルス肺症候群を本講座第15回で取り上げ、その原因ウイルスの命名についての混乱の状況をご紹介しましたが、本病が最初に発生した地域であるSin Nombreの名前が定着してきたようです。 今年の1月にCDCに行った時に、この名前が使われていることに気がつきました。 また、最近、CDCのグループがUltrastructural characteristics of Sin Nombre virus,causative agent of hantavirus pulmonary syndrome(ハンタウイイルス肺症候群の原因病原体・シンノンブレ・ウイルスの微細形態)という論文を発表しました。 カール・ジョンソンはウイルスを分離した人に命名の権利があるという意見を述べていましたが、CDCグループはその面でも権利があります。 ウイルスの命名は時に波紋を起こします。 マールブルグウイルスの名前はマールブルグ大学・公衆衛生研究所長のジーゲルトSiegert教授のグループにより命名されました。 私は1974年にマールブルグにジーゲルト先生を訪ねましたが、その当時、すでにこの名前はマールブルグの人には評判が良くありませんでした。 町のイメージが悪くなるという理由です。 1967年のマールブルグ病、1969年のラッサ熱までは、病気が発生した場所の名前が付けられましたが、エボラ出血熱の時には、流行地域を流れる河の名前になりました。 これには特定の場所のイメージダウンにならないようにという配慮がなされたと聞いています。 その後、ハンタウイルスのもととなったハンターンウイルスの名前が生まれました。 これは最初、韓国型出血熱ウイルスと呼ばれていましたが、38度線の近くを流れているハンタン河の名前が新たに付けられたものです。 ここは韓国型出血熱の多発地帯で、朝鮮戦争の時に国連軍兵士3,000人以上が感染したところです。 |
3. アライグマ |
最近、茨城県でペットとして飼われているアライグマが檻から逃げ出して人に噛みついたという事件が報道されていました。 以前に本講座で何回かご紹介したように、アライグマは狂犬病の宿主であり、米国の東海岸ではアライグマの狂犬病が増えています。 日本では、野生動物の輸入は野放しであり、狂犬病を持ち込むおそれのあるアライグマの輸入も野放しです。 今回の事件で狂犬病との関連を取り上げていたのは、私が見た限りでは、ジャパン・タイムスが「このアライグマが狂犬病にかかっていたかどうかは明らかにされていない」というコメントを付け加えていた記事だけでした。 テレビでも、この点に触れたニュースは耳にしませんでした。 厚生省はおそれがあるだけでは、対応しないというのが基本姿勢のようですから、アライグマが実際に狂犬病を持ち込んだ事例が起こるまでは、とくに対応はしないのでしょうか。 この点で、米国の検疫システムは日本とは対照的です。 米国の検疫に関する法律には、病原体、その宿主およびベクターの項目があります。 そこでは、病原体、または人の病気の宿主やベクターになりうる節足動物およびその他の動物はCDCの許可がない限り、輸入してはいけないと明記されています。 したがって、アライグマの輸入は米国では検疫の対象になります。 先日、CDCを訪れた際に、動物検疫の責任者に、日本の現状を話したところ驚いていました。 米国からどのような形で日本にアライグマが輸出されているのか調べてみたいとも言っていました。 この問題に関連して、最近米国でコーモリの輸入に対して取られた措置をご紹介しておきます。 コーモリはアライグマと同様に狂犬病の重要な宿主です。 米国ではコーモリによる狂犬病も大きな問題になっています。 その1端は本講座(25回)でご紹介しました。 昨年春、CDCはコーモリの輸入について一連の通達を出しました。 それは、本来CDCの許可を必要とするコーモリの輸入が野放しになっていたことが原因でした。 この通達の中で、この事態は行政上のミステイクであったとはっきり述べた上で、コーモリの輸入許可を取るためのいろいろな条件について通知を行ったものです。 この通達のコピーは私のところにありますので、興味のある方には提供できます。 我が国の行政対応とは、まったく異なることを痛感させられました。 |
4. 国際動物健康規約 |
OIE (Office International des Epizooties) (国際獣疫事務局)は1924年に設立された国際獣医機関であって世界の127か国がメンバーになっています。 日本代表は農林水産省畜産局衛生課長です。 OIEの主な目的は以下のとおりです。
OIEの組織の中に国際動物健康規約委員会International Animal Health Code Commission というのがあります。 これは1960年に設立されたもので、動物の輸入および輸出のための動物の健康に関する勧告を作成するのが任務です。 主に口蹄疫や牛疫のような急性家畜伝染病を対象としています。 現在、この委員会で国際動物健康規約の草案が作られ、関係者の意見を求めているところです。 この中に、今度、サル類の項が加わりました。 サルの輸入に関する国際的認識が分かりますので、その草案の主な点を以下にご紹介します。 |
まえがき |
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一般的条件 |
輸入国の獣医行政担当者はサル類について以下のことを要求すべきである。
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