坂本道代さんから動物検疫についての朝日新聞の論説が紹介され、それに対して品川徳秀さんから、どの動物も或る程度の危険性があるのになぜ犬と家畜だけしか検疫の対象になっていないのかという疑問が提示されました(96/06/18 60)。 この問題について、いずれまとめたみたいと思っていましたが、品川さんの質問にもなるべく早くお答えした方が良いと思い、まだ私としては十分な整理はできていませんが、ここでとりあげることにします。 品川さんの疑問は当然のものですが、これは一般常識の話で行政の感覚は違います。 問題点は危険性の対象が人か動物かという違いがあるということです。 品川さんの質問は人への危険性という公衆衛生の観点からですが、動物検疫の立場は家畜への危険性のみを対象としています。 動物検疫所は家畜と犬についての検疫を行っていますが、家畜の検疫は家畜伝染病予防法にもとづいて家畜の伝染病予防を目的としたものです。 先日のNHKのニュース7でサルの検疫の問題が取り上げられた時に農水省畜産局衛生課長がいみじくも言っていたように、サルが家畜伝染病を持ち込むのであれば、農水省としても対応しなければならないが、そのようなことは国際的に知られていないし、農水省側は人の病気の専門家ではないから厚生省の仕事ということになるというのが行政の立場です。 動物検疫の対象になっている犬には狂犬病という人への危険性があるのではないかという疑問がここで生じます。 実は犬の検疫は厚生省の狂犬病予防法にもとづいたものです。 しかし、犬という動物の検疫の作業は専門家に任せるという理由から厚生省が農水省に依託しているわけです。 ここでは縦割り行政の原則に加えて専門的職能についての配慮があります。 したがって、日本の法体系で人に被害をおよぼすような病原体を持ち込むおそれのある動物の輸入を取り締まることは新しい観点からの法律を作成しなければできません。 米国の場合はCDCが人の検疫に加えて、人への感染の危険性を念頭においた動物検疫を行っています。 ただし日本と異なる点は犬、猫のほかに海ガメ、陸ガメ、スッポン、人以外の霊長類、病原体の宿主および媒介動物を検疫の対象に加えています。 人以外の霊長類、すなわちサル類では輸入者として登録された者以外は生きた霊長類を輸入することはできません。 そして輸入目的は科学的、教育的、または展示目的に限られ、繁殖用でも生まれる子孫が同じく科学的、教育的、展示目的である場合のみしか許されません。 ペット、趣味、副業での大衆への展示用は許可されていません。 このような検疫体制があったために1989年末のカニクイザルのエボラウイルス感染の場合にはただちに輸入ライセンスをとりあげることができたわけです。 さらにひきつづいて、エボラウイルス抗体の検査で陰性の場合には輸入を許可するという対応もできたのです。 この際の日本の対応はというと、厚生省はWHOからの情報にもとずいて、サルのエボラウイルスについての危険性の通達を航空会社に出しておき、その後、5年以上たってもWHOから安全宣言が出ていないということで、いまだに放置したままにしています。 そのために日本航空は安全が確認できていない以上、サルの取り扱いは拒否しており、医学研究用のサルの輸入に障害が起きているのはご存じのとおりです。 野生動物については、人への感染を起こす病原体の宿主や媒介動物の輸入がすべて禁止されています。 この条項の原文を参考までに紹介しておきます。
英国ではアカゲザルが狂犬病を持ち込んだ例(この際の検査に当たったDr.Boulgerから1974年に資料をもらった記憶がありますので、そのうちに調べてみたいと思います)と、1967年のマールブルグ病がきっかけで、農業省・食糧省が1969年以来、サルの輸入検疫を始めました。 ドイツではマールブルグ病がきっかけで、研究用とサーカス用以外のサルの輸入を全面的に禁止しています。 輸入許可は食糧・農業省の管轄になっています。 以上、諸外国も含めた現状をとりあえず、手元の資料にもとづいてご紹介しました。 もう少し掘り下げた検討もしてみたいと思っておりますので、ご意見や質問、指摘等を是非お寄せください。 それらも参考にさせていただきます。 |