第72回本講座で欧米での異種移植ガイドライン作成の状況を簡単にお知らせしました。 そこで触れましたが米国のFDAのガイドラインは案が1996年に公表されたものの、正式のガイドラインはいまだにできていません。 今回、FDAはサルを異種移植のドナーに使用する場合についてのガイドラインを作成し、Federal Registerに3月30日付けで公表しました。 これはサルを人への移植に用いる場合についての企業のためのガイダンスとなっていますが、内容は実質的にサルの使用を禁止したものです。 ガイドラインの要点を簡単にまとめてみます。 |
「企業のためのガイダンス:人でのサル類による異種移植がもたらす公衆衛生上の問題」 Guidance for Industry: Public Health Issues Posed by the Use of Nonhuman Primate Xenografts in Humans |
前文 |
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本指針の対象となるのは、サルの生きた細胞、組織、臓器であって、人へ移植される場合、または人の体液、細胞、組織、臓器に体外で接触させる場合を含んでいる。 企業へのガイダンスの内容としては、(1)公衆衛生におよぼす可能性のある危険性、(2)今後の科学研究の必要性と、とくに病原体についての危険性の評価、(3)これらの問題についての大衆による討論の必要性に分けられる。 1996年9月23日に「異種移植での感染症の問題に関するガイドライン」案Draft Public Health Service Guideline on Infectious Disease Issues in Xenotransplantationが発表されてから、公開のワークショップとして1997年7月21〜22日に「種を越えた感染と病原性」Cross-Species Infectivity and Pathogenesis、および1998年1月21〜22日に「異種移植に関する米国公衆衛生上の政策について」Developing U.S. Public Health Service Policy in Xenotransplantationが開かれた。本指針はこれらの一般からのコメントに応えるとともに、臨床研究者の間での異種移植へのサルの使用計画に応えるものである。 ほかの動物種については後日発表される予定になっている。 |
背景 |
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ガイドライン案が発表されてから140以上の一般からのコメントが寄せられているが、その大部分はサルを異種移植に使用することに反対している。 その内訳は44名のウイルス研究者の連名の手紙、個人、American Society of Transplant Physicians、American College of Cardiology、および異種移植の臨床試験のスポンサーである民間企業などである。 異種移植は大きな公衆衛生上のジレンマである。 すなわち、細胞、組織、臓器の不足解消の手段として期待できるこの新しい技術と、レシピエント、接触者、さらに一般公衆までにおよぶかもしれない病原体の伝播をどのようにはかりにかけたらよいか。 人から人への移植では、移植臓器を介して、人免疫不全ウイルス、クロイツフェルト・ヤコブ病、B型肝炎、C型肝炎などの伝播の経験がある。 サルは解剖学的、生理学的、免疫学的に人に似ているという利点がある。 しかし、これらの類似した性質はある種の病原体の伝播も容易にする。 サルでのもうひとつの問題は、病原体フリーのサルの確保が困難なことである。 多くのサルは1〜2代前には野生のものであった。 そのため、人に危険性のあるどのような病原体をサルが保有しているのか、十分に知ることは非常に困難である。 サルの保有する病原体には種々のレトロウイルス(たとえば、サル免疫不全ウイルス、サルフォーミイウイルス、ヒヒ内在性レトロウイルス、サルD型レトロウイルスなど)、種々のヘルペスウイルス(たとえば、ヒヒヘルペスウイルス、ヒヒサイトメガロウイルス、SA-8など)があり、しばしばサルコロニーで高い頻度で見いだされている。 大部分のサルはサルフォーミイウイルスを保有しており、サルの飼育に関わる人での持続感染も明らかにされている。 Bウイルスは人の脳炎と死亡を起こす。 サル免疫不全ウイルスによる人の感染の報告もある。 |
勧告 |
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以上を考慮して、現在、設立の途中である異種移植諮問委員会が米国でのサルによる異種移植の可否、および実施のための条件についての勧告を行う予定である。 サルによる異種移植のもたらす危険性についての充分な科学的情報が得られるまでは、臨床試験の申請をFDAに提出すべきではない。 FDAでは、サルによる異種移植の危険性を評価するための充分な情報はないと信じている。 |
付記 |
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読んでお分かりのように、これは実質的にサルを異種移植のドナーとして使用することを禁止したものです。 このガイドラインの簡単な紹介は4月15日発行のネイチャーにも掲載されています。 そこには、この問題でいつも登場するCDCのルイザ・チャップマン、異種移植のモラトリアムを提唱しているフリッツ・バックなどのコメントが載っています。 また、このガイドラインはサルを禁止して豚を承認するためのものかという推測、また豚でも最近のマレーシアのヘンドラウイルス(現在はニパウイルス)のようにいろいろの危険性があるといった指摘も述べられています。 英国政府の異種移植の倫理諮問委員会(ケネデイ委員会)(第52回本講座)ではすでにドナーとしてのサルの使用は倫理的に受け入れられないという結論を報告しており、英国ではサルの使用は実質的に禁止の状態です。 米国も同様になったわけです。 なお、昨日の新聞にOECDの報告「異種臓器移植・国際的な政策課題」が出版されたとのニュースがありました。 これは第72回の本講座で参考にした報告のことです。 私が参考にしたのは(案)の段階の報告書でしたが、内容的には多分ほとんど変わっていないものと思います。 |