70.巨大ウイルス(アメーバのミミウイルス、緑藻のクロレラウイルス)は哺乳類の細胞に感染しうる

ウイルスは、感染するためには、まず、細胞表面の受容体に結合しなければならない。ウイルスはそれぞれに固有の受容体を必要とするため、結合できる細胞は限られている。巨大ウイルスの代表といえるミミウイルスは原因不明の肺炎の病原体探索の過程で冷却水中のアメーバから分離されたものである(本連載61回)。原生生物のウイルスが人に感染することは、きわめて考えにくかったが、ミミウイルスの実験中に感染して急性肺炎を起こした例や、ミミウイルスに対する抗体を保有する人が見いだされた。

一方、ミミウイルスをマウスのマクロファージ由来細胞(J774.1細胞、Raw264.7細胞)や人の単球もしくはマクロファージに接種すると、増殖することが2008年に報告された。この場合、ミミウイルスはマクロファージに食作用で取り込まれて、8時間のちにはウイルスDNAのコピー数が1万倍以上増えており、アメーバに対する感染価は30時間後には10万感染単位に達していたのである。マクロファージは異物を見境なく貪食するため、ウイルスに対する受容体がなくても、ウイルスが侵入し増殖したものと考えられる。これまで、ウイルスが侵入するには、細胞膜がウイルスを包み込む(エンドサイトーシス)か、またはウイルスのエンベロープと細胞膜が融合するという2つの機構が知られていたが、これらのほかに食作用でもウイルスが侵入することが示されたわけで、おそらくマクロファージの食作用によりミミウイルスは人に感染していると推測されたのである(1)

2013年には肺炎の患者からミミウイルスが分離された。ミミウイルスが肺炎の原因と結論することはできないが、アメーバのウイルスが人で感染している状況証拠が集まってきたといえる(2)

巨大ウイルスのひとつである、緑藻のクロレラウイルスATCV-1が人の喉に存在し、認知機能の低下にかかわっている可能性が提唱されている(本連載62回)。最近、ATCV-1が、ミミウイルスの場合と同様、食作用によりマクロファージに感染することが、ネブラスカ大学とジョンズホプキンス大学のグループにより報告された(3)。蛍光色素で標識したATCV-1をマウスのマクロファージ細胞株(Raw264.7)と腹腔マクロファージに接種したところ、ウイルスは細胞内に取り込まれ、その数は24時間後に3倍くらいになり、わずかながら増えていた。さらに、RAW264.7細胞は72時間以内に自殺死(アポトーシス)を起こした。死んだマクロファージは、ほかのマクロファージに貪食されるため、ウイルス感染は持続すると考えられた。

ATCV-1に感染したマクロファージは炎症性サイトカインのひとつ、インターロイキン6を産生していた。緑藻に感染する植物ウイルスが哺乳類の細胞に感染し、炎症性サイトカインを介して神経系に影響を及ぼす可能性が指摘されている。

 

文献

(1) Ghigo, E., Kartenbeck, J., Lien, P. et al.: Ameobal pathogen mimivirus infects macrophages through phagocytosis. PLoS Pathog., 4(6): e1000087. doi:10.1371/journal.ppat.1000087, 2008.
(2) Saadi, H., Pagnier, I., Colson, P. et al.: First isolation of mimivirus in a patient with pneumonia. Clin. Infect. Dis., 5, e127-134, 2013. doi: 10.1093/cid/cit354
(3) Petro, T.M., Agarkova, I.V., Zhou Y. et al.: Response of mammalian
macrophages to challenge with the Chlorovirus ATCV-1. J. Virol., JVI.01254-15; Accepted manuscript pos