成長研究と実験動物 第1回

はじめに


最初に、自己紹介を兼ねて、私の研究生活の中で大きな比重を占めている「成長」の研究を始めた契機について述べさせていただきます。

初めて長女が生まれ小さな生命と毎日一緒に過ごすことになった頃です。 夫婦とも何から何まで初めての経験で、飲んだミルクの量と体重を毎回、 毎日記録し、今日はいつもより飲まないとか、体重の伸びに少ないとか、 今から思えば全くどうでもよいことに一喜一憂していました。 そんな中でも長女はすくすく成長して行きましたが、 この間、体重、身長が大きくなったのは勿論のこと、 目が見え始めたり、切歯が萌出したり、 泣いたり笑ったりする表情も豊かになってきました。 手足の運動も次第に複雑になってきました。 当たり前のこととはいえこの間の変化を目の当たりにするのは実に素晴らしいことでした。

成長という言葉は抽象的でその定義に関して研究者の間で多くの見解の違いがありますが、 ここでは、猪(1987)に従って、成長とは「時間の経過に伴う細胞、組織、器官、個体における形態の量的増加」とし、 成長とは切っても切れない密接な関係にある発育を 「時間の経過に伴う細胞、組織、器官、個体における形態ならびに機能の質的変化」 とします。 このような定義に従えば私の長女のでの経験は主として量的な変化とくに増加であって長女の成長を細かに観察していたことになります。

ところで、そのうちにミルクの飲む量について妙なことに気がつきました。 それは、2、3日非常によく飲む日が続くと思えば続く2、3日はあまり飲まない、 そしてこのようなことが繰り返しおこる傾向があるということです。 そこで、一日に摂取するミルクの量を時系列的に毎日グラフにプロットしてみるとミルクを飲む量に周期的な波(変動)が見られました。 1日に増加する体重値(1日増体重)について同じようにグラフ化してみるとこれについても同じような波がみられ、 しかも、それはミルクの摂取量の波から2、3日遅れて(ずれて)いるように見えました。 前々から体重の増え方にリズムがありそうだととは思っていたのですが、 これは2、3日前に飲むミルクの量にかなり左右されていた可能性があります。 ミルク摂取量のリズムは、全くの想像でかつ抽象的ですが、 食欲のリズムに起因しているのかもしれません。

たった1人の長女での観察ですから学問的な話ではありません。 しかし、多数個体の観察でもそれが断面的であったとしたら1例について経時的に長く観察した方が正しい結論が得られることもあります。

いずれにしても動物の成長という現象の中にはまだ解明されていないいろいろな問題点があります。 この問題点については本稿で折にふれ述べるつもりですが、 その解明については、後で述べますように実験動物の果たす役割が大きいと考えています。


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