成長研究と実験動物 第10回

成長のリズム


成長のリズムのことについては私の長女の誕生以来(冒頭の例)気になっていることでした。 そこで、マウスの出生後から成熟時まで毎日体重を測定してみたところ体重の増え方が著しいときとそうでないときが一定の日数をおいて交互にあらわれているようにみえました。 ついで体重の1日の増加量(増体量)を経時的にプロットしてみると前述の増加量曲線を示しながらも増体量がその周辺で規則的に増減しているのがわかりました。 この増減が循環的であるか否かをみるには傾向線を除去して増減変動を定常化する必要がありますから、この変動系列に加重移動平均法(5項2次式あるいは3項7次式に対応する場合が多い)を施し、得られた系列と1日増体量系列の添字tに対応する偏差の系列を算出しました。 この定常化された系列にコレログラム等の時系列解析を適用しますとこの系列が周期的であるか否か、周期的であるならばその周期は何日位かを知ることができます。 私があるマウス系統について調べたところ、112頭中98頭(87.5%)に周期性が認められました(後藤ら、1977)。 このことは、多くのマウスは一様に成長するのではなくあるリズムをもって成長していることを示唆します。 このリズムが食欲のリズムによるのか、食欲のリズムは何に起因するのかなど基本的なことは何もわかっておりません。

この体重を測ったマウス112頭の毎日の餌の摂取量を測定し、摂取量系列を作成して、これと上記の定常化された増体重系列との対比をしてみればよかったと今では思っています。 とはいうものの、2ヵ月以上も毎日これだけの頭数の摂取量を測るのは至難のことです。 大方のマウスは餌をこぼしますのでそれを拾って摂取量に加えなければなりません。 しかもその多くは糞尿にまみれてしまいますから乾燥させてから測定しなければなりません。 大変な労力を要します。

増体量系列と摂取量系列の対比の方法ですが、まず、同一年月日で両係列の相関係数r(0)を計算し、ついで増体重量系列を一日前にずらしてから(各系列n項から前・後1項ずれてn-1項になります)r(1)、二日前にずらしてr(2)、三日前にずらしてr(3)、………とrを求めます。 rが正で大きいときは両系列における山と山、谷と谷がほぼ一致していることを意味します。 仮にr(3)の値が最も大きかったら、当日の増体量は3日前の摂取量と関連が深いということになります。

吉田(1994)は、TPCにおけるコモンリスザルの月毎の体重個成長データにEPA法(Economic Planning Agency method)という時系列解析を施したところ、8月頃から翌年の2月頃にかけての体重増加の著しい時期が1年を周期として繰り返されていることを明らかにしました。 この増加率の大きい時期は親ザルの繁殖期とほぼ一致しています。 さらに興味深いことに、この体重増加と同様な季節的な変動が血清中の総コレステロールをはじめ中性脂肪濃度、カルシウム濃度、総タンパク濃度などで観察されています。 このようなからだの内の変化が関係しあって体重成長をもたらせているのではないかと同氏は述べています。 成長に伴う個体のいろいろな特性値を注意深く定期的に観察しているTPCであるからこそ成長リズムやその関連事項を検出することができるのです。


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