しばしばのべているように、アロメトリー式は成長系の二つの部分(形質)間に適用されます。 ところが成長系ではなく、既に成長の終った系の二つの部分間でも両対数図上で直線関係がみられこの式が適用されます。 この場合のαは相対成長係数ではなく相対変異係数としての意味をもっています。 αの大きさは、清水(1959)によれば、二つの部分の変異のテンポの関係を示すといわれていますが正直なところ意味がよくわかりません。 成長中の動物で、ほぼ同一年(月)齢の多数個体の測定値からなる横断的データにアロメトリー式を適用したときにはαには相対成長係数の二つが混同されていると考えられます。 なぜなら、同一年(月)齢の動物でもその生理学的年齢は必らずしも同じではないからです。 測定値が幼齢時から成熟時までであっても、それが横断的データであれば多数個体の中に同一の生理学的年齢の個体が複数ある可能性がありますので、やはり推定されたαには上述の二つの意味があることになります。
私どもが接している実験動物は連続的な成長を示し、昆虫のように卵−幼虫−蛹−成虫と完全に変態するのではなく、性成熟の時期ぐらいしか生理学的な年齢を把握できません。 そんなわけで、相対成長と相対変異との関係をみるには昆虫などが用いられています。
稲垣(1968)は、人工飼育下の等脚甲殻類のタイヨウフナムシから孵化した第1齢幼生を第4齢まで飼育し、各齢ごとに25個体ずつ固定後その第5および第7胸節幅を計測しました。 そして、その計測値の対数値(第5胸節幅χ、第7胸節幅y)につぎの処理を施しました。 すなわち、まず、yのχへの回帰係数を通常の手順により各齢期について算出した上、第1齢から第4齢までの全集団群について二つの共通線をひきその傾斜を計算しました。 一つは全集団群を一つの同質母集団とみなした場合のyのχへの回帰直線で仮想相対成長直線、今一つは各齢期における回帰直線(それぞれ位置は異なる)の傾斜に差がないと仮定した場合の平行線−平均相対変異直線です。 「仮想」というのは、いくつかの成長段階にわたる相対成長が連続してあらわれず、したがって両計測値の間に一つの連続した羃関数関係が認められないような場合をいいます。 以上は図で画けばよくわかるのですが、要するに各齢期における計4本の分離直線とそれらの平均相対変異直線、それに一本の仮想相対成長直線の合計6本のアロメトリー直線が得られます。 それぞれの傾斜αの値を比較検討したところ、
以上のことから、同氏は相対変異は相対成長と共存し難く仮想相対成長と組み合ってあらわれることおよび相対変異は各成長段階に固有なものであって仮想相対成長とは独立した歩調を示す、と結論しています。
TPCでは、カニクイザルの出生時から老齢時まで連続的に個成長データと成長に伴う各種生理学的パラメータ(乳歯萌出完了、下顎第1大臼歯萌出、第2大臼歯萌出、初潮、伸長成長完了、血清ALP活性低下、骨端線消失完了、閉経)の時期を多数個体について集積しつつあります。 これらのうちのいくつかは生理学的年齢になり得ますから、タイヨウフナムシと同様な解析で相対変異と相対成長の関係を近い将来明らかにすることができるでしょう。