今迄ずっとのべてきましたのは、動物には成長という一定のルールに従う現象があってそれを正確に把握するにはどうしたらよいかということで、どういうメカニズムで動物は成長し調節されているかという点には全く触れていませんでした。 いろいろな成長理論曲線の導出の際でも、それらはすべて成長の内部的(生理・生化学的)機構を考慮せずいわばブラック・ボックスにおける入力と出力の関係のみに着目しています。 アロメトリー式も、前項で述べたようにいわば経験式です。
成長は、遺伝因子やホルモン、そのリセプター因子、栄養、環境因子などが複雑に搦み合って調節されていて、まだその機構は完全にはわかっていません。 ただ、ホルモンについては、成長ホルモン(GH)をはじめ甲状腺ホルモン、インスリン、性ホルモンなどの関与が知られ、また、成長ホルモン放出因子(GRF)、インスリン様成長因子(IGF-I, IGF-II)などが重要な役割を演じていることがわかっています。 これらは下垂体摘出ラット、視床下部腹内側核一弓状核領域破壊ラットあるいはラットGHに対する抗体の連続投与(Gardner and Flint, 1990)などによって明らかにされたものです。 一般に、生体における特定の臓器あるいはそれらが生産している活性物質の働きを知るにはその臓器を外科的に取り除くことによって生ずる現象を観察することによって知ることができます。 下垂体の摘出は以前はかなり難しかったのですが今では比較的容易に行えます。 (財)動物繁殖研究所では、幼齢ラットの下垂体をわずか数分で摘出する技術を有しています。 それらは遺伝子工学によって作られた成長ホルモンの効力を調べるのに使われているそうです。
ところで、実験動物とくにマウスには発育異常を示すミュータントが多数検出されています。 これらは成長に関与しているホルモンが生合成または分泌の段階で、あるいはそれらのレセプターで異常があるなど原因はさまざまです。 そのうち成長の疾患モデル動物になり得るミュータントとその特性を以下に記します(Beamerら, 1981; Scanesら, 1983; 米田, 1987; Chartonら, 1988; Takeuchiら, 1990などからの引用)。
一方、以上のように成長障害をおこすのではなく成長を促進するミュータントもみつかっています。 Bradford and Famula(1984)はマウスの離乳後の成長を促進される劣性遺伝子(high growth, hg)を検出しました。 hgをホモにもつ個体はホモでないマウスに比べて離乳後の増体が30〜50%大きいのです。 同氏らはこの遺伝子をホモにもつ系統(hg/hg, line Ch)を作出し、この系統の体重、尾長、大腿骨長および各臓器重を正常の対照系統(Hg/-,line CH)と比較したところ、いずれもChの方がCHより有意に大きいことをみています。 しかし、各臓器の相対重、骨の相対長は両系統間で差がありません(Famula, 1988)。 hg/hgマウスに関する内分泌学的研究が進み上記成長障害を呈するミュータントとの比較が詳細になされたらホルモン等成長因子による成長のメカニズムとその調節は明らかになると思います。