動物の成長をみるにはふつう横軸に時間、縦軸に形質の測定値をとります。 われわれがよく遭遇するのはいわゆるS字状曲線(Sigmoid curve)と呼ばれるタイプで、初期から徐々に大きくなり、思春期に成長が最も旺盛で成熟とともにプラトーに達するものです。 体重、体長等多くの形質でみられ一般型といわれています。 他に頭部でみられるように成長が初期に最も旺盛で以降緩慢となる神経系型、思春期に急激に成長する生殖器系型、比較的初期に急速に発達し成熟に伴って急激に減少してしまうリンパ系型などがあります(Scammon, 1930)。
理想的な成長解析には、同一個体を成長に伴って何回も計測して得たデータをもとにした個成長(縦断成長)曲線が望ましいのですが寿命の長い動物でそのようなデータを得ることは極めて困難です。 これに対し、ヒトの厚生統計でみられるように年齢別の個体群の平均値を縦軸座標にプロットする方式を平均成長(横断成長)といいます。 その動物種の平均的な成長をみることができますが個体差を無視していますので、個体にとって重要な情報である変曲点−成長の最も旺盛な時期で性成熟と関連が深い−の検出や成長の予測などを知ることはできません。 しかし、平均成長データといえどもそれに適切な統計学的処理を施すと有益な情報を得ることができます。 吉田(1994)は、学校衛生統計調査から年齢別の身長の平均値と変動係数を算出し年齢別の推移をみたところ、女性は10〜12才、男性は12〜14才に限局して変動係数が大きいことを見出しました。 一般に、同じ形質では平均値が大であれば標準偏差も大となりますから後者を前者で割って補正した変動係数の大小は標準偏差より個体差をよく反映しています。 そのようなことから、上でみられた現象はヒトの思春期到来に伴う成長の加速現象の個体による年齢差によるのであろうと同氏は判断しています。 体重でも身長と同様な傾向がみられていますが、それが多くの要因の影響をうける形質であるために身長ほど明確ではありません。 増山(1994)は、各年齢における平均身長データ(前記の学校衛生統計調査など)を年齢tのかわりに横軸にとり、縦軸に個人のデータをプロットすると線型化することを論理的に導き、それを利用して個人情報である身長を正確に予測できることを確かめています。
一般に、個成長は個体識別や齢査定、計測などの難しさから野生動物では観察し難く、またこれらが可能な家畜、実験動物でも寿命が長い動物種や殺処分しなければ計測できない臓器などでは観察できません。