ウルグァイ便り 第3回

はじめての腎症候性出血熱か?


Map of URUGUAY

ウルグァイ国厚生省(Ministero de Salud Publica,MSP)が1997年3月17日発表したところによりますと、首都モンテヴィデオ(Montevideo)近郊の農村の男性が肺に異常をきたし、ハンタウイルス(Hanta virus)に感染した疑いがあるということです。 同省の疫学部部長のグロリア・ルオッコ博士(Dr. Gloria Ruocco)は患者の氏名等の詳細にはふれなかったのですが、家族には同じ症状を示す人はいないといっています。 一方、患者を担当する部局のカネローネス(Canelones)県厚生部のルイス・バスケス・ヴィンリャマジョル(Luis Vazquez Villamayor)部長によれば、その男性は48才、Canelonesとの境界から300mほどのメリーリャ(Melilla)地域の農村地帯に在住しているということです。 患者はモンテヴィデオ市にある、ある病院に入院し、最初の15日間は集中治療室(ICU)に、危機を脱してからICUとふつうの病室の中間レベルの治療室に在室しているといいます。 Canelonesの衛生担当者達は19日に上記地域を詳細に調査し、このウイルスを媒介すると思われるネズミ類に対する対策を講じることになっています。 共和国大学理学部では、さらに野ネズミ類だけでなく住家性のネズミも媒介するのかどうかも調べています。

ハンタウイルスによる感染例は非常に稀で、今迄ウルグァイには1例もありませんでした。 しかし、隣のアルゼンチンでは1975年から現在迄77例の感染が報告され、とくに同国の観光地であるバリローチェ(Bariloche)近くで70例以上が集中したことから大問題になったことがあります。 その他、アメリカ合衆国で100例以上、チリとパラグァイでも若干例報告されています。

症例における症状は共通していて、高熱、筋肉痛、呼吸困難、ショックなどで、これらに加えて体内、体外における出血が致死率(50%)を高めています。 前掲グロリア・ルオッコ博士は、この疾病はヒトからヒトへは感染せず、ネズミ類の糞尿との接触のみから感染するので一般市民に広がることはないだろうといっています。 いずれにしても、家の中にネズミ類を入れないこと、彼らの生息している穴をすべてふさぐこと、家のまわりの雑草を取り除くことおよび家の中にいるネズミ類を捕獲することを疫学の専門家達は対策として推奨しています。

本症がハンタウイルスによるのではないかということはマルブラン(Malbran)研究所(Instituto Nacional de Microbiologia Carlos Malbran (en Argentina))によって血清学的に確認されてはいますが、既にサンプルをアルゼンチンのペルガミーノ(Pergamino)のラテン・アメリカウイルスセンター(Centro de referencia virologica para America Latina)に送っていますので正式にはその検査結果を待たなければなりません。

以上がオブセルバドール紙(EL OBSERVADOR)3月18日、19日版およびエルパイス紙(EL PAIS)3月18日版に掲載された記事の概要です。

手元に資料がないので正確な数字はわかりませんが、日本では1980年代半ばにこのウイルス(KHF)による感染症、腎症候性出血熱(HFRS)が実験動物関係者間に流行したのはご存知のとおりです。 この疾病は韓国ハンタ河流域の風土病でそこに生息している野生のチョウセンセスジネズミ(Apodemus属の一種、日本アカネズミ、ヒメネズミはこの属に属す)が媒介します。 集中的な疫学的研究の結果、日本におけるHFRSの流行は実験動物のラットが媒介したと結論されました。 このように、野生のネズミ類だけでなく実験動物までが媒介することを考えれば、まだ、明確な判定が下っていないまでもウルグァイにおける発症例は決して過少に評価してはならないと思います。


追記

3月20日付のEL OBSERVADOR紙には、患者を始めて診察した医者のDr. Walter Pedreiraと記者との討談が掲載されています。 Hanta virusによる感染症ではないかと考えた経過、その後の処置がのっています。 その次の頁には、厚生省、モンテヴィデオ市およびカネロネス州の当局が患者の家の近くとすぐ前の倉庫(オオムギを貯蔵)のネズミ類の捕獲に取組んだと倉庫の写真と共にのっています。

翌3月21日の同紙によれば、まだ、ネズミ類は一匹も捕獲されていないということです。


[Previous][Index][Next]