ウルグァイ便り 第6回

獣医研究所 (DILAVE) の「実験動物」について


DILAVEとはウ国農牧水産省の家畜衛生研究所 Direccion de Laboratorios Veterinarios "Migel C. Rubino"の略称です。 もともと口蹄疫センターとして発足したものでその先駆者であった Rubino 博士の名前をとって単に"Rubino"といった方が今でも通りやすいようです。 ここには細菌、ウイルス、病理、生物資源、寄生虫、食品衛生、動物医薬品検定の7部(もちろん総務部もあります)があり、JICAが関係しているのは生物資源部までの4部です。 これらのうち、生物資源部は養蜂研究室と実験動物(大動物と小動物)に分れそれぞれ研究者が配属されています。 実験動物研究室には大動物担当者(Dr.P)も含んで2名の研究者と1名の技術者(Tecnico Agropecuario)、それに5名の飼育者がいます。 私が直接関係しているのは小動物(マウス、ラット、シリアンハムスター、ウサギ、モルモット)で、Dr. Cが責任者となっています。 大動物(牛)は国のほぼ中央にある大きな人工湖の中の島にある実験農場で飼育繁殖されています。 後でのべます。

マウス、ラットおよびハムスターは研究所別棟の実験動物等(Bioterio)で飼われています。 この棟は252平方メートル(21x12m)の面積で5室の動物飼育室をはじめ実験室、事務室、解剖室(飼育者の居室になっている)、洗浄室、飼料室および床敷室からなっています。 設計上はバリヤーを組めるような構造になっています。 ところが天井の裏の空調機のモーターはパワー不足で機能せず(動かしていない)、プレ、中、高性能フィルターを設置するようになっていません。 冷暖房もありません。 飼育室内の空調の吹き出し孔は極めて小さく換気回数13〜15回/時間を保てそうもありません。 飼育室等のドアはすべてタイトドアでなく、天井も高すぎるためにくもの巣が所々に張っていて中々とれません。 オートクレーブは予算の関係で設置されずその部分はあいたままになっています。 ジャーミサイダル・トラップやパス・ボックスはありません。 職員は朝出勤するとすぐあちらこちらの戸や窓をあけますが、換気していないために臭いからです。 このように考え方としてはSPF動物を飼える(設計図上では)ようになってはいるものの実際はかなりいい加減です。 中国では、逆に古い施設と装置をいろいろ工夫、改善してSPFマウスを生産していました。

いま、この建物の中の空中落下菌、酵母、カビの調査をしています。 中間的なデータですが、落下菌は飼育室で25〜60コ、飼育者の居室、シャワー室で140〜160コ、酵母はどの部屋も無数、カビは動物室、洗浄室、シャワー室で20〜40コそれぞれ検出されています。 動物自体の微生物的検査はこれからキットで調べる予定です。 この棟では現在動物を飼育、繁殖しているのでどのようにして清浄化するか思案中です。

マウスは、ずっとクローズドコロニーのCD-1だけでしたが、最近やはりクローズドコロニーの CF-1 を Instituto Nacional de Pesca (INAPE、国立水産研究所) から幼齢マウス雌雄各20頭を導入しました。 CD-1の維持方式は5群に分けた「近交を避けた循環交配」で正しく維持されていることを交配記録から確認しました。 マウスは所内の疾病診断、検定をはじめINAPE、医学部、獣医学部および民間の研究所へ有償で提供されています。 価格は別にリストにします。

ラットはSDですが、10頭くらいしかおらず、クローズドコロニーとして遺伝的に疑問があります。 所内では全く使われていません。

シリアンハムスター(ハムスター)は150〜160頭いますが、一見していろいろな毛色の個体がいて、いわゆる雑動物です。 繁殖記録もありません。 この中に長毛のハムスターがまざっているのにはびっくりしました。 今から20年程前に当時の研修生が国分寺のペットショップで一頭の異常に毛の長い雄のハムスターを見つけたので、私は当時としては破格の3,500円で買取りました。 その個体を他の正常毛のハムスター(アルビノ、クリームおよび野生色)と交配してF1、F2を作り遺伝様式をみたところ常染色体性劣性遺伝子で長毛形質は支配されていることがわかりました。 アルビノとの交配F2からアルビノ長毛の近交化を開始しDNAフィンガープリントで近交系であると確認して公表しました。 地球の裏側でも長毛ハムスターがいるとは思ってもいませんでした。 私どもの長毛個体もアメリカのペットショップから入ったものと推察しましたが、ウルグァイのもおそらくペット業者を通じて入ったのでしょう。 ハムスターはレプトスピラ菌の分離、同定に所内で結構使われています。

モルモットは実験動物棟と違う別の棟で飼育されています。 アルビノですが、その由来、系統名は全く不明です。 コンクリートの床を仕切ってアルファルファーなどの草を敷いて平飼い方式で飼育しています。 一応、マウスと同じようにA〜Eの5群で「近交を避けた循環交配方式」で維持されているようですが個体識別もしておらず記録もしっかりとっていません。 この動物にはダニが無数におり、所内の寄生虫の専門家にみてもらったところ Acaros Chirodiscoides caviae と Acaros Trixacarus caviae の2種類であることが分りました。 コクシジウムも数え切れないほど検出されています。 所内では家畜の病原体の抗血清の作成や抗酸菌の感染実験に使われています。

ウサギは屋外に設置してあるコンクリート製のケージに高床式で原則として1羽ずつ飼われています。 ケージの床は幅3cm位のすのこ(コンクリート製)で糞尿は地面に落ちるようになっています。 飼育者はなかなか熱心な人でいつも清潔にしているせいか外観的には毛づやがよく、耳疥癬、鼻汁、目やになど全くみられません。 下痢のウサギもおりません。ダニが13羽中5羽、ノミが1羽、コクシジウムは13羽中2羽がマイナスで後の11羽は2〜5コ検出されました。 品種はCalifornianoというアルビノですが鼻先と耳尖が黒いウサギが殆んどで後はNZW、両者のF1が少数います。 所内では食肉の種類鑑別(抗血清?)にもっとも用いられ、他に家畜疾病診断用の抗血清(例えばレプトスピラ)を作ったり、ツベルクリンの力価検定に用いられています。

下に当研究所が外部に提供するときの実験動物の価格を記します。 1ペソ14円として換算してあります。


マウス
134円
サックリングマウス(母親共)
1,050円
ラット
854円
モルモット
952円
ウサギ
1,050円
シリアンハムスター
子羊
2,142円
牛 (6ヶ月齢前)
4,256円
牛 (6ヶ月〜2年)
8,498円
牛 (2年以上)
12,782円

   

マウスなど小動物に比べて牛や羊とくに牛の安いのには驚きます。 しかも、これらの牛は島で隔離されて繁殖されたもので極めて健康な牛です。

申し遅れましたが、餌はモンテヴィデオ市の Vitaron社 で作った固形飼料(マウス・ラット用、モルモット用、ウサギ用)があります。 成分表もついていますが大雑把で粗蛋白、エーテル抽出物、水分、繊維、灰分、NaCl、Ca、Pそれに麦角?です。 マウス・ラット用の粗蛋白はMin.19%となっていて日本の長期飼育用ほどですが、十分に成長、繁殖します。 床敷が一番問題ですが紙面の都合で省略します。


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