ウルグァイ便り 第7回

獣医研究所実験牧場


ウルグァイの真中辺に細長い大きな人造湖が二つ、東西約150kmにわたってあります。 その湖はネグロ河をせき止めて作ったもので大きな発電所があります。 もともとこの国には山が殆んどなく、最も高い山でも標高500m位でそれもラ・プラタ河の河口近くにあります。 内陸部は殆んどなだらかな丘陵ですからほんの少しの落差を利用して発電せざるを得ません。 それでも重工業が少ないせいか自国の消費電力を上回る電力を生産し、一部をアルゼンチンに売っています。

この湖の中のある島に本研究所付属の実験牧場があります。 そこには牛を実験用動物とするために隔離して疾病からフリーにしておくための施設があります。 ここで隔離、繁殖して、モンテヴィデオ市の研究所の近く、20km位の所にあるもう一つの実験牧場に常時50頭近くプールしておき、必要に応じて研究所でこの牛を使って検定、診断、研究します。 民間に売ることもあります。

かつて口蹄疫汚染国であったウルグァイはこの疾病の撲滅に全力を注ぎ1993年からずっと口蹄疫フリーとなり、欧米に牛肉を輸出していますが、それにはこの隔離方式は非常に有効であったと聞いております。 ウルグァイは日本にも牛肉を輸出したいと考えています。 ただ、肉質はヘレフォード種であるため和牛のように脂肪交雑は全くありませんし、そのための努力たとえば品種改良などは行われていません。 品質、価格の点で日本むきにいろいろ努力しているオーストラリア産の牛肉に比べれば不利だと思います。 しかし、私自身はあまり牛肉を食べませんが、この牛肉は意外に柔らかく、くせがなくて飽きません。


共和国大学医学部付属 衛生研究所

獣医研究所 (DILAVE) の他の実験動物施設 (Bioterio) としてウルグァイ共和国大学医学部付属の衛生研究所があります。 ヒトの伝染病の診断、検定、研究をしている所で、日本でいえば昔の東大伝研 (今の医科研) みたいな所です。 そこでは小さなSPF棟が4月から動くことになっていました。 アルゼンチンのラ・プラタ大学のBioterio (後述) を参考に作られており、空調関係、清浄・汚染廊下等の人の動線をも考慮した立派なものでした。 残念なことに予算の関係からか、オートクレーブ、パスボックス、ジャーミサイダルトラップ等がなく、どうやって動物をはじめ餌、床敷、各種器材を室内に導入するか不明でした。 しかし、自前で施設を建設していることに敬服しました。 ヘパフィルター代、電力費など運営費が永続的であるように期待しています。

現在は本館内の所々でマウスを主として飼育しています。 マウスのCD-1とBALB/cは普通の部屋で飼育、繁殖されていますが、BALB/cのみはケージ用のフィルター・キャップをつけていました。 その他、C57BL/6とB10・d2nsnj (B10にDBA/2マウスのH-2ハプロタイプdを導入したB10・D2/Snのこと?) というcongenic lineが立派なフランス製の陽圧式のアイソラックで飼われていました。 餌、水および床敷はオートクレーブで滅菌され、餌にはヒト乳児用のビタミン添加剤を加えています。 BALB/cとC57BL/6の2近交系はアルゼンチンのラ・プラタ大学の実験動物施設からこの研究所に導入されたものです。

因みに、この動物実験施設はJICAのプロジェクト「アルゼンチンのラ・プラタ大学獣医学部研究計画」におけるインフラ整備費によって建てられたものです。 東京大学が中心となって1991年から1995年まで5年間にわたって実施されたプロジェクトでその目的の一つに、ラ・プラタ大学の実験動物施設が南米における実験動物の供給およびモニタリングのセンター的役割を果たすことがあげられ、これらのことをうたった立派なパンフレットが南米の各大学、研究機関に配布されています。 その成果がここウルグァイの医学部で具体的にみられたことは同じ分野にたずさわるJICAプロジェクトの一員として嬉しく、かつ、誇らしく思います。 5月中に一度その施設を見学し、担当教授のセシリア・カルボーネ博士を訪問したいと思っています。 (追記 ; 5月22日、23日にアポイントメントをとりました。)

ウルグァイには実験動物に関する研究者はせいぜい数人で学会、研究会にあたるものはありません。 しかし、来年この国で開催予定の南米共同市場MERCOSUR参加国 (アルゼンチン、ブラジル、パラグァイ、ウルグァイ) 獣医学会の際に技術者をも包合する研究会を上記4国共同で発足させようとする動きがあり、まず、去る3月14日 (金) にブラジルの関係者がモンテヴィデオ市に来て打ち合わせ会を開きました。 そして、その帰りに衛生研究所の実験動物担当者のDr. Pedro Aroteceが7名のブラジルの方 (Pelotas大学教授・ブラジル実験動物協会Dr. Milton Dliveira Amadoら) をここ獣医研究所の実験動物施設を見学しに連れてきました。 生憎、担当責任者のDr.Cが休んでいたので急遽私が案内、説明しました。 話が横道にそれますが、本来Dr.Cは、この日の打合せ会で主導的役割を果たさなければならない立場にありながら、それにも出席しないで休むとは私としては考えられないことです。 彼には水曜日には他の仕事があるのは分かっていましたが金曜日もよく休みます。 週のうち、水、金が休みだとこちらの仕事も思うようにはなりません。

アルゼンチンのラ・プラタ大学には立派なSPF動物用の施設がある上に専任の教授、研究者がおり、ブラジルも上述のように専門の教授がいます。 また、ブラジルでは微生物モニタリング用のキットも入手できるなど少なくとも両国では「実験動物」に関する気運は高まっています。 おそらく来年には懸案の4国共同の実験動物学会か研究会が旗揚げすることになりましょう。


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